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第13話

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「俺にとって大事なのはカラだもん。フィズ殿下?とかむしろ王室とかどうでもいいし。戦闘能力はともかく、逃げる、隠れるに関して俺を追える奴なんていないよ。カラが望んでくれるなら、すぐにでも連れ出してあげる」

 エレンの声は、妙に切実さがあった。
 そういえば、恋人と言っていたっけか。
 カラさんはまた深いため息をつく。

「言ったでしょうエレン。私の優先順位はどうあったってフィズ様が一番上です。それが揺らぐことなどあり得ません」
「…はーぁ。知ってるよ。カラが心の底からそこの王子様の側にいることを望んでるぐらい~…恋人の俺よりさ。…俺よりさぁ…」
「拗ねないでください、エレン。面倒臭い」

 カラさん、声掠れてるけど辛辣。でも否定しないということは、エレンがカラさんの恋人であるというのは間違いないようだ。

「ええと…」

 フィズ様が困ったように声を出す。

「とりあえず、カラの傷は」
「大丈夫だよ。そこのお兄さんにだいぶ移したからね。全部移せるなら俺はそれがいいけど、それすると逆にカラの体への負担が増えて危なかったし」

 傍目には傷があるようには見えないだろう俺だが、多分服を捲ると多分凄いことになってるんだろうなあとは、体感的に思う。
 カラさんははっきりと眉をよせて「申し訳ございません、リュカ様」と言う。

「俺が俺のためにやった事なので、謝らないてください」
「なにあんた被虐趣味なの」
「ちげぇよ」

 エレンからの意味わからないツッコミにツッコミ返すが、カラさんの表情は晴れない。

「その、…ですが」

 何かを言いかけるのを声をかぶせて止めた。
 これ以上は不毛だ。

「それより、全部を移したわけじゃないんですし、そもそもの基礎体力が違います。カラさんは、まずは動けるようになってもらって、それから、今後のことを考えましょう。ああでも」

 エレンに視線を投げる。

「その、エレンとか言うやつはどうしたらいいですか?」
「俺?俺なら勝手にやるよ?」
「勝手にしていいわけないでしょう」

 カラさんのため息に同感。
 エレンはうーん、と唸ってから「俺は、フィズ殿下には忠誠を誓えないけどさぁ」と呟いてフィズ様を見た。

「カラのことは絶対に裏切らない。だから、カラがフィズ殿下の無事を願うというなら、カラを守るついでにフィズ殿下の身辺の安全のお手伝いするよ」

 王国騎士団が、フィズ様の身辺警護をおろそかにしていた、というのは事実で、それに対してフィズ様は王国騎士団が離宮に近づくことを禁じた。(カラさんの一件がきっかけになったのは間違いないらしいが、それ以前にも色々あったんだそうだ)
 一介の傭兵でしかない俺の実力なんて大したことはなくて、フィズ様一人ならともかく、カラさんや、この離宮の全員を守ることなんて不可能だ。そこでいくと、一応結界が張られているらしいこの離宮になんともなしに入ってきたこいつの実力なら、味方にしておいて損はない。変な奴には間違いないが、カラさんを裏切らないという言葉に、嘘はないだろう。

「フィズ様…」

 カラさんが不安そうにフィズ様を見る。

「…、カラがこいつを信用しているなら、私はその案に乗らせてもらいたい」
「…ありがとう、ございます」

 その後、離宮まわりの結界を張り直すとエレンが部屋の外へ行ったので、フィズ様と俺もカラさんに眠るように伝えて部屋を出た。

「あっ、フィズ殿下、リュカ様!」

 出てすぐ、リリアさんが走ってくる。

「あの男は…」
「ああ、うん。味方だったみたいなので、味方になってもらいました」

 俺の返事に首を傾げつつ、リリアさんはぐちゃぐちゃになった寝室の片付けが終わったことを告げてくれた。あの惨状を三日でなんとかするとは。「大変だっただろう?」とフィズ様が言うと、リリアさんは「みんなで頑張りました!」と笑う。雰囲気いいよなぁ、離宮は本当に。



***
ぼちぼちと連載再開します!
お待たせしてすみませんっ
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