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第14話
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少し質素度が増してはいたが、寝室は確かに綺麗に整っていて、ぴんと皺ひとつなく張られたシーツの上にどさり、とフィズ様が寝転がった。
「フィズ様、着替えは…」
「とりあえず横にならせてくれ。…気が抜けた」
「…そうっすね」
寝転がったフィズ様の横に腰掛けると、フィズ様が少し体をずらして、俺の太ももに頭を乗せてきた。
「膝枕をご所望ですか」
「そういうことを、口に出すな」
「それは、失礼しました」
少しだけ頬を膨らませたものの、フィズ様は少し考えてから「撫でろ」といった。
「随分と甘えん坊っすね、今日は」
「ああ、今日はな」
言われるがまま、ゆっくりとフィズ様の綺麗な銀髪を撫でる。
「上に乗っておいてなんだが、傷は平気か」
「ああ、問題ないですよ」
「医者は」
「これくらいなら呼ばなくていいです」
「本当に?」
「内臓がやられる感じないので」
熱は多少出るかもしれないけど、というのは内心だけで付け足す。
そんな会話をしていると、フィズ様がむくっと起き上がった。そして、煙管に火をつける。
「いっつも思ってたんっすけど」
「なんだ」
「それ、体に悪くないんですか」
煙草を吸う習慣を持つ奴等は、体に良くないとわかっているけどやめられないとか行っていた気がする。
フィズ様は数度瞬きをしてから、「ああ、問題ない」と言って、ゆっくりと煙を吐き出した。
「私の場合は、逆だな」
「逆?」
「ああ。これを吸ってないと、…だいぶ面倒臭いことになる、らしい」
らしい。
「まあ、そのうち詳しいことを教える」
それだけいうと、寝るぞ、とフィズ様は布団の中に潜り込んだ。
「着替えは…」
「面倒だから今はもういい」
「えー…?」
まあ、朝眠る前に体は拭いてもらったし、ずっとカラさんの側にいたから、今着てるのも寝巻きに近い部屋着だし…、まあ、いいか…?と思考しているうちにフィズ様の寝息が聞こえてくる。
さっき泣いたからか、少しだけ赤くなっている目尻にキスをして、俺は寝室を出た。
気配を探すと、エレンは離宮と王宮を繋ぐ道の入り口に立っていた。
何か術を使っているのはわかったので、それが終わるまで声をかけるのは待つ。しばらくすると、一瞬だけその入り口付近の景色が歪んだように見えた。
「お兄さん、リュカだっけ?俺になんの用?」
俺が来ていることに気づいていたらしいエレンは、くるっとこちらを向く。
「お前ができること、張ったと言う結界がどの程度のものなのかと思ったもんでな」
俺の言葉にエレンが少し笑った。
「へえ?お兄さん、傷痛くないの?」
「普通に痛いけど、なんだよ」
「え。やっぱり痛いのが好きなタイプ?」
「違う」
くすくすとエレンは笑う。
「お兄さん、カラと同じ匂いだね」
「は?」
「自分自身の優先順位がめちゃくちゃ低いの。痛いとかもそうだけど、自分を大事にしてないでしょ。死にたいわけじゃないけど、いざという時、大事な人を守るためなら自分の命を使うことに躊躇しないタイプだ」
エレンは一瞬だけ困ったような、泣きそうな顔を浮かべて、すぐににっこりと笑顔を貼り付けた。
「否定はしないな」
「そこもカラと同じ。自覚あるそう言うやつって、もう絶対にそこを曲げないから本当、面倒臭いんだよね」
でも、そこにも惹かれたんだけどさ、とエレンはまた笑った。
「で、俺の実力とかだっけ?とりあえずさ、どっかに座らせてよ。俺もいっぱい術使ったから疲れてんだよね」
こいつの喋り方にいちいち腹を立てるのも面倒になってきたので、通りがかったリリアさんに、食堂に行ってもいいかと聞いて、そこへ移動した。
リリアさんが、軽食を準備してくれたので、ありがたくそれを食べながら、先ほどの話を続ける。
「さっきは何をしてたんだ?」
「ああ、さっきのは、惑いの術を重ねたんだよ。いま、この離宮の周りをぐるっと惑いの術…ええとね、見えてるのに近づけない、みたいな術と、招かれてない人が足を踏み入れたら俺に知らせが来る術で囲ってるんだけど。その近づけないほうを王宮との入り口だけ強めにかけたの。これで、王宮の騎士も、ちょっとした刺客も、離宮に入り込むことは不可能だよ」
「カラさんの紋様があってもか」
「うん。ていうかね、ここに元々張ってあった結界自体が、もう、てんでお子様レベルだったんだよ。俺がめちゃくちゃ優秀だってのを差し引いても、ありえないくらい弱かった」
エレンが、ずずっと音を立ててスープを飲み干す。
「それが何を意味するのかは分からないけどね。もちろん術を弾く結界自体も強化…ていうか完全に張り直した。さっき言ったような気もするけどさ、隠れる、逃げると言うことにかけては、この国に俺を捕まえられる奴はいないから、現時点でここに侵入できる術士はいないよ」
随分と自信満々だが、そう誇張されたものではない気がする、というのは希望的観測すぎるだろうか。
「カラの紋様も、今の俺なら完全に解除できるから、カラの体力が戻ったら解くよ。他の男がつけたマークがいつまでもカラの中にあるなんて許せないし」
「なんでもっと早く外さなかったんだ」
「言ったでしょ。今の俺ならって。カラに出会った頃は俺だって紋様崩せば解除されるもんだと思ってたし。さっき改めて見るまで、正直見抜けてもなかったし。…でも」
エレンが机に突っ伏した。
「ほんと、…よかった。カラが死ななくて…」
「…そうだな」
失いたくない。
その強烈な思いだけは、共感できるから。俺は静かに頷いた。
「フィズ様、着替えは…」
「とりあえず横にならせてくれ。…気が抜けた」
「…そうっすね」
寝転がったフィズ様の横に腰掛けると、フィズ様が少し体をずらして、俺の太ももに頭を乗せてきた。
「膝枕をご所望ですか」
「そういうことを、口に出すな」
「それは、失礼しました」
少しだけ頬を膨らませたものの、フィズ様は少し考えてから「撫でろ」といった。
「随分と甘えん坊っすね、今日は」
「ああ、今日はな」
言われるがまま、ゆっくりとフィズ様の綺麗な銀髪を撫でる。
「上に乗っておいてなんだが、傷は平気か」
「ああ、問題ないですよ」
「医者は」
「これくらいなら呼ばなくていいです」
「本当に?」
「内臓がやられる感じないので」
熱は多少出るかもしれないけど、というのは内心だけで付け足す。
そんな会話をしていると、フィズ様がむくっと起き上がった。そして、煙管に火をつける。
「いっつも思ってたんっすけど」
「なんだ」
「それ、体に悪くないんですか」
煙草を吸う習慣を持つ奴等は、体に良くないとわかっているけどやめられないとか行っていた気がする。
フィズ様は数度瞬きをしてから、「ああ、問題ない」と言って、ゆっくりと煙を吐き出した。
「私の場合は、逆だな」
「逆?」
「ああ。これを吸ってないと、…だいぶ面倒臭いことになる、らしい」
らしい。
「まあ、そのうち詳しいことを教える」
それだけいうと、寝るぞ、とフィズ様は布団の中に潜り込んだ。
「着替えは…」
「面倒だから今はもういい」
「えー…?」
まあ、朝眠る前に体は拭いてもらったし、ずっとカラさんの側にいたから、今着てるのも寝巻きに近い部屋着だし…、まあ、いいか…?と思考しているうちにフィズ様の寝息が聞こえてくる。
さっき泣いたからか、少しだけ赤くなっている目尻にキスをして、俺は寝室を出た。
気配を探すと、エレンは離宮と王宮を繋ぐ道の入り口に立っていた。
何か術を使っているのはわかったので、それが終わるまで声をかけるのは待つ。しばらくすると、一瞬だけその入り口付近の景色が歪んだように見えた。
「お兄さん、リュカだっけ?俺になんの用?」
俺が来ていることに気づいていたらしいエレンは、くるっとこちらを向く。
「お前ができること、張ったと言う結界がどの程度のものなのかと思ったもんでな」
俺の言葉にエレンが少し笑った。
「へえ?お兄さん、傷痛くないの?」
「普通に痛いけど、なんだよ」
「え。やっぱり痛いのが好きなタイプ?」
「違う」
くすくすとエレンは笑う。
「お兄さん、カラと同じ匂いだね」
「は?」
「自分自身の優先順位がめちゃくちゃ低いの。痛いとかもそうだけど、自分を大事にしてないでしょ。死にたいわけじゃないけど、いざという時、大事な人を守るためなら自分の命を使うことに躊躇しないタイプだ」
エレンは一瞬だけ困ったような、泣きそうな顔を浮かべて、すぐににっこりと笑顔を貼り付けた。
「否定はしないな」
「そこもカラと同じ。自覚あるそう言うやつって、もう絶対にそこを曲げないから本当、面倒臭いんだよね」
でも、そこにも惹かれたんだけどさ、とエレンはまた笑った。
「で、俺の実力とかだっけ?とりあえずさ、どっかに座らせてよ。俺もいっぱい術使ったから疲れてんだよね」
こいつの喋り方にいちいち腹を立てるのも面倒になってきたので、通りがかったリリアさんに、食堂に行ってもいいかと聞いて、そこへ移動した。
リリアさんが、軽食を準備してくれたので、ありがたくそれを食べながら、先ほどの話を続ける。
「さっきは何をしてたんだ?」
「ああ、さっきのは、惑いの術を重ねたんだよ。いま、この離宮の周りをぐるっと惑いの術…ええとね、見えてるのに近づけない、みたいな術と、招かれてない人が足を踏み入れたら俺に知らせが来る術で囲ってるんだけど。その近づけないほうを王宮との入り口だけ強めにかけたの。これで、王宮の騎士も、ちょっとした刺客も、離宮に入り込むことは不可能だよ」
「カラさんの紋様があってもか」
「うん。ていうかね、ここに元々張ってあった結界自体が、もう、てんでお子様レベルだったんだよ。俺がめちゃくちゃ優秀だってのを差し引いても、ありえないくらい弱かった」
エレンが、ずずっと音を立ててスープを飲み干す。
「それが何を意味するのかは分からないけどね。もちろん術を弾く結界自体も強化…ていうか完全に張り直した。さっき言ったような気もするけどさ、隠れる、逃げると言うことにかけては、この国に俺を捕まえられる奴はいないから、現時点でここに侵入できる術士はいないよ」
随分と自信満々だが、そう誇張されたものではない気がする、というのは希望的観測すぎるだろうか。
「カラの紋様も、今の俺なら完全に解除できるから、カラの体力が戻ったら解くよ。他の男がつけたマークがいつまでもカラの中にあるなんて許せないし」
「なんでもっと早く外さなかったんだ」
「言ったでしょ。今の俺ならって。カラに出会った頃は俺だって紋様崩せば解除されるもんだと思ってたし。さっき改めて見るまで、正直見抜けてもなかったし。…でも」
エレンが机に突っ伏した。
「ほんと、…よかった。カラが死ななくて…」
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失いたくない。
その強烈な思いだけは、共感できるから。俺は静かに頷いた。
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