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第16話
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「ここから逃げちゃうってのはダメなの?」
全員が食堂で食事を摂れるくらいに回復したある日、エレンが言った。
「フィズ殿下は、もう王位継承権だってないわけでしょ?多少生活は不自由になるかだけど、行方くらませてしまうのもアリじゃない?」
「却下だ。私だけならともかく、それをすると離宮にいる全員が路頭に迷うことになるだろう?下手をすると死罪だ」
「まあ、そりゃそうか。ていうか、ふと思ったんだけど、耳付きってさあ、何?」
「…は?」
エレンの問いに、全員の眉間に皺がよる。
「何、とはどう言う意味だ」
「そのまんまの意味だよ。王族にしか、そして稀にしか生まれない、ウサギの耳を持ったこども、…ってなんかもう呪いみたいな感じしない?」
耳付きというのは王族に生まれるウサギの耳を持ったこども、…という認識以外を考えたことがなかった俺は、エレンの言葉に軽い衝撃を受けた。
確かに、なんなんだろうか。
呪いと言われたら、そんな気すらしてくる。
「何かないの?王族に伝わる伝承的な」
「私は生まれてすぐにこちらの離宮に送られたから、王族の歴史や知識は、一般的に公開されているものくらいしか知らない」
フィズ様が、久しぶりに自嘲気味に呟いたから、なんとなく腹が立ってエレンを睨む。受け流されたが。
「でも、確かに不思議ですね」
「カラ」
「なんとなく、そういうものとして受け入れてましたが、何故耳付きは生まれるのでしょう。うさぎの耳が生えていること、自己治癒能力、発情期という特殊な体質もそうですし…」
「ハツジョウキってなに?」
エレンの疑問に俺もそれは気になった。
「ああ、発情期というのは…」
「カラ!カラ、ストップ!」
フィズ様が慌ててカラさんの口を手で塞ぐ。その顔は真っ赤になっていて、ハツジョウキ、ハツジョウ、発情?あ。
動物には妊娠しやすい時期に盛るという習性がある、とどこかで聞いたことがある。
フィズ様は男性で、妊娠しやすいというのはないとしても、こう…乱れやすい、セックスをしたくてたまらなくなる、みたいな時期がくるということか。
俺の視線に気がついたらしいフィズ様が、真っ赤な顔をそのままに、ゆっくりと息を吐いてからぼそぼそと続ける。
「多分。お前らが考えているのが正解だ。ヤリたくてたまらない時期のことを発情期という…。といっても」
フィズ様がいつもの煙管を手に取って俺たちに見せる。
「私はこれがあるから、発情期というのを経験したことはない」
「抑制剤みたいなものですか?」
「そうだな」
そういって、また火をつけてぷは、と煙を吐き出すフィズ様の色っぽさに、ごくり、と喉が鳴った。
「なに、リュカくんが発情してんの?」
「バカ言うなバカ」
いつの間にか、俺のことをリュカくんといい出したエレンがツンツンとつついてくるからその手の甲をひねると「痛いっひどいっ」と悲鳴をあげた。
「お前ら仲良いな」
「よくないっす、フィズ様その誤解は今すぐ解いてください今すぐ」
食事を終えたあと、カラさんを「寝かす!」とエレンは抱き上げ、カラさんは呆れながらも御前失礼いたしますとそのまま抱き抱えられていった。
その様子を見ながら、フィズ様がもやもやしていたようなので、「やきもちですか?」と聞いたら「…うるさい」と怒られた。
いいと思うんだけど。やきもち。
カラさんなら喜びそうな気もする。そんなふうに考えながら歩いていると、フィズ様が「それより」と呟いた。
「さっきの耳つきの話」
「発情期の話ですか?大歓迎ですけど」
「そこじゃない!…ったく。呪いじゃないか、という話だ」
「ああ」
確かに、考えたこともない視点だったから、興味深くはあるが、なぜ、フィズ様はこんなに気にしているのだろう。
「少し、調べてみようと思う」
「なぜですか?」
「これが呪いなら、解く方法があるかもしれないだろう?」
フィズ様は、ふっと笑った。
「私を最後に、耳つきが生まれないなら、それはとても、良いことのように思うんだ」
自分を最後に、というフィズ様の微笑みにたまらなくなって、俺はフィズ様を強く抱きしめていた。
「お、おい、リュカ?」
あなたは、どうしてそんなに優しいのだろうか。
「わかりました。調べてみましょう。…でも、俺はできればあなたのそばを離れたくないですし、カラさんもまだそれほど動けませんし…」
エレンはカラさんから離れる気はなさそうだし。
「そうだな…。リリアに任せてみるか」
「リリアさんですか?」
「ああ」
これは、のちに知ったことだが、メイドのリリアさん。本業は諜報員なんだそうだ。
人は見かけによらない
全員が食堂で食事を摂れるくらいに回復したある日、エレンが言った。
「フィズ殿下は、もう王位継承権だってないわけでしょ?多少生活は不自由になるかだけど、行方くらませてしまうのもアリじゃない?」
「却下だ。私だけならともかく、それをすると離宮にいる全員が路頭に迷うことになるだろう?下手をすると死罪だ」
「まあ、そりゃそうか。ていうか、ふと思ったんだけど、耳付きってさあ、何?」
「…は?」
エレンの問いに、全員の眉間に皺がよる。
「何、とはどう言う意味だ」
「そのまんまの意味だよ。王族にしか、そして稀にしか生まれない、ウサギの耳を持ったこども、…ってなんかもう呪いみたいな感じしない?」
耳付きというのは王族に生まれるウサギの耳を持ったこども、…という認識以外を考えたことがなかった俺は、エレンの言葉に軽い衝撃を受けた。
確かに、なんなんだろうか。
呪いと言われたら、そんな気すらしてくる。
「何かないの?王族に伝わる伝承的な」
「私は生まれてすぐにこちらの離宮に送られたから、王族の歴史や知識は、一般的に公開されているものくらいしか知らない」
フィズ様が、久しぶりに自嘲気味に呟いたから、なんとなく腹が立ってエレンを睨む。受け流されたが。
「でも、確かに不思議ですね」
「カラ」
「なんとなく、そういうものとして受け入れてましたが、何故耳付きは生まれるのでしょう。うさぎの耳が生えていること、自己治癒能力、発情期という特殊な体質もそうですし…」
「ハツジョウキってなに?」
エレンの疑問に俺もそれは気になった。
「ああ、発情期というのは…」
「カラ!カラ、ストップ!」
フィズ様が慌ててカラさんの口を手で塞ぐ。その顔は真っ赤になっていて、ハツジョウキ、ハツジョウ、発情?あ。
動物には妊娠しやすい時期に盛るという習性がある、とどこかで聞いたことがある。
フィズ様は男性で、妊娠しやすいというのはないとしても、こう…乱れやすい、セックスをしたくてたまらなくなる、みたいな時期がくるということか。
俺の視線に気がついたらしいフィズ様が、真っ赤な顔をそのままに、ゆっくりと息を吐いてからぼそぼそと続ける。
「多分。お前らが考えているのが正解だ。ヤリたくてたまらない時期のことを発情期という…。といっても」
フィズ様がいつもの煙管を手に取って俺たちに見せる。
「私はこれがあるから、発情期というのを経験したことはない」
「抑制剤みたいなものですか?」
「そうだな」
そういって、また火をつけてぷは、と煙を吐き出すフィズ様の色っぽさに、ごくり、と喉が鳴った。
「なに、リュカくんが発情してんの?」
「バカ言うなバカ」
いつの間にか、俺のことをリュカくんといい出したエレンがツンツンとつついてくるからその手の甲をひねると「痛いっひどいっ」と悲鳴をあげた。
「お前ら仲良いな」
「よくないっす、フィズ様その誤解は今すぐ解いてください今すぐ」
食事を終えたあと、カラさんを「寝かす!」とエレンは抱き上げ、カラさんは呆れながらも御前失礼いたしますとそのまま抱き抱えられていった。
その様子を見ながら、フィズ様がもやもやしていたようなので、「やきもちですか?」と聞いたら「…うるさい」と怒られた。
いいと思うんだけど。やきもち。
カラさんなら喜びそうな気もする。そんなふうに考えながら歩いていると、フィズ様が「それより」と呟いた。
「さっきの耳つきの話」
「発情期の話ですか?大歓迎ですけど」
「そこじゃない!…ったく。呪いじゃないか、という話だ」
「ああ」
確かに、考えたこともない視点だったから、興味深くはあるが、なぜ、フィズ様はこんなに気にしているのだろう。
「少し、調べてみようと思う」
「なぜですか?」
「これが呪いなら、解く方法があるかもしれないだろう?」
フィズ様は、ふっと笑った。
「私を最後に、耳つきが生まれないなら、それはとても、良いことのように思うんだ」
自分を最後に、というフィズ様の微笑みにたまらなくなって、俺はフィズ様を強く抱きしめていた。
「お、おい、リュカ?」
あなたは、どうしてそんなに優しいのだろうか。
「わかりました。調べてみましょう。…でも、俺はできればあなたのそばを離れたくないですし、カラさんもまだそれほど動けませんし…」
エレンはカラさんから離れる気はなさそうだし。
「そうだな…。リリアに任せてみるか」
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