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第17話
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次の日、フィズ様はリリアさんを呼んで、歴代の耳つきについてや、耳つきの始まりについて調べてほしいと伝えた。
もしも本当に呪いなら、自分の代で終わらせたい、というフィズ様の言葉に、リリアさんは一瞬だけ悲しそうに眉を寄せてから、すぐにいつもの笑顔に戻って「任せてください!」と胸を張った。
やる気まんまんのリリアさんに、フィズ様が「くれぐれも無理しないように」と念を押す。
「承知しております!うふふ、久しぶりに本気出しますよー!」
とリリアさん。メイドとしても非常に優秀らしいリリアさんは、しばらくの間メイドの仕事をこなす人が減るため少し不自由が出るかもしれません、と言い残して、さっそく準備してきます、と使用人用の棟に向かった。
「不自由が出るかも、って言ってましたね。人を雇いますか?」
静かにそばに支えていたカラさんがそういうが、フィズ様は首を横に振った。
「信用できる人間を探す手間は、今はかけたくない。疲れる」
その返答に少し表情を曇らせたが、カラさんはかしこまりました、とすぐ頭を下げる。
「俺、手伝ってあげよーか?」
「お前の不器用さじゃ、邪魔以外の何者でもないからやめろ」
カラさんが困っているのに気がついたらしいエレンの提案はカラさんに一蹴される。
「じゃあ、足りない分の手は、俺がやります」
「リュカが?」
「一通りの家事、できますから。力仕事ももちろん。元平民あがりの傭兵旦那の底力お見せしましょう」
「お前はいつも真顔だからお前のそれは冗談なのか、本気なのかがよくわからん」
「わりといつでも本気なんっすけどね」
自分で言うのもなんだが、割と戦力になっていたと思う。
リリアさんが帰ってきたのは、予想よりもずっと早い、ひと月ばかり過ぎたころだった。
「とりあえず、興味深いお話を仕入れたので、第一報告を、と思いまして」
そういって、少年のような格好をしているリリアさんは古い書物を机に置いた。
「? リュカ様、どうかなさいましたか?」
「いえ、リリアさんはどんな格好をしていても可愛らしいんだなと思ったので」
「あら、やだもう。フィズ様の前で他の男口説いちゃダメですよ、リュカ様ったら」
「ああ、それもそうですね。気をつけます」
俺が素直に頷いたものだから、隣でフィズ様がもにゅもにゅと口を動かしつつ、黙っていた。なんか、すんません。
「とにかく、その書籍について詳しく教えてくれ、リリア」
フィズ様が、こほん、と喉を鳴らしてから、仕切り直してくれる。
「これ、いわゆる各国の昔話みたいなのを集めた古い本だそうで…。隣国の図書館に、これみよがしに置いてあったんですよ。ただ」
「ただ?」
「普通に売られてる本、じゃなさそうなんですよね。なんで隣の国に、あんなわかりやすい場所に陳列してあったのかが、ちょっと疑問で」
だから、何かの罠という可能性もあるかも…とリリアさん。
リリアさんが興味深い、と言ったお話は、次のような昔話だった。
***
昔々、とある国のとある王。
動物が好きだったその王は、ある日一羽雌のうさぎを助けた。
そのうさぎは、どうにか王に恩返しをしたいと思い、自らを人の姿に変え、王への忠誠誓った。
王はその忠誠と、美しさに惚れ込み、うさぎだと知った上で娶ったが、人とうさぎの間では、子は成せない。
うさぎは、それでもどうしても王との子が欲しく、とある星に願った。
どうか、どうか彼との子を。
そうしてある年、願いが届いたのかうさぎの腹に子が宿ったが、生まれた子どもには消すことのできないうさぎの耳が生えている。
これでは王の子として認められぬ、そう思い嘆いたうさぎは子どもと共に湖へと身を投げた。
王は涙を流したが、王たる立場から新しい妃を娶り、他の子をなすほかなく、皮肉にも、娶ったその年には世継ぎが腹にやどり、うさぎの死は、その喜びの影に消えていくこととなる。
ただ、願いを叶えた星はその悲劇を嘆き、悲しみ、以来、その王の血族にときおり「うさぎの耳の生えた子」が生まれるように呪いをかけた。
王がうさぎを忘れぬように。
もしも本当に呪いなら、自分の代で終わらせたい、というフィズ様の言葉に、リリアさんは一瞬だけ悲しそうに眉を寄せてから、すぐにいつもの笑顔に戻って「任せてください!」と胸を張った。
やる気まんまんのリリアさんに、フィズ様が「くれぐれも無理しないように」と念を押す。
「承知しております!うふふ、久しぶりに本気出しますよー!」
とリリアさん。メイドとしても非常に優秀らしいリリアさんは、しばらくの間メイドの仕事をこなす人が減るため少し不自由が出るかもしれません、と言い残して、さっそく準備してきます、と使用人用の棟に向かった。
「不自由が出るかも、って言ってましたね。人を雇いますか?」
静かにそばに支えていたカラさんがそういうが、フィズ様は首を横に振った。
「信用できる人間を探す手間は、今はかけたくない。疲れる」
その返答に少し表情を曇らせたが、カラさんはかしこまりました、とすぐ頭を下げる。
「俺、手伝ってあげよーか?」
「お前の不器用さじゃ、邪魔以外の何者でもないからやめろ」
カラさんが困っているのに気がついたらしいエレンの提案はカラさんに一蹴される。
「じゃあ、足りない分の手は、俺がやります」
「リュカが?」
「一通りの家事、できますから。力仕事ももちろん。元平民あがりの傭兵旦那の底力お見せしましょう」
「お前はいつも真顔だからお前のそれは冗談なのか、本気なのかがよくわからん」
「わりといつでも本気なんっすけどね」
自分で言うのもなんだが、割と戦力になっていたと思う。
リリアさんが帰ってきたのは、予想よりもずっと早い、ひと月ばかり過ぎたころだった。
「とりあえず、興味深いお話を仕入れたので、第一報告を、と思いまして」
そういって、少年のような格好をしているリリアさんは古い書物を机に置いた。
「? リュカ様、どうかなさいましたか?」
「いえ、リリアさんはどんな格好をしていても可愛らしいんだなと思ったので」
「あら、やだもう。フィズ様の前で他の男口説いちゃダメですよ、リュカ様ったら」
「ああ、それもそうですね。気をつけます」
俺が素直に頷いたものだから、隣でフィズ様がもにゅもにゅと口を動かしつつ、黙っていた。なんか、すんません。
「とにかく、その書籍について詳しく教えてくれ、リリア」
フィズ様が、こほん、と喉を鳴らしてから、仕切り直してくれる。
「これ、いわゆる各国の昔話みたいなのを集めた古い本だそうで…。隣国の図書館に、これみよがしに置いてあったんですよ。ただ」
「ただ?」
「普通に売られてる本、じゃなさそうなんですよね。なんで隣の国に、あんなわかりやすい場所に陳列してあったのかが、ちょっと疑問で」
だから、何かの罠という可能性もあるかも…とリリアさん。
リリアさんが興味深い、と言ったお話は、次のような昔話だった。
***
昔々、とある国のとある王。
動物が好きだったその王は、ある日一羽雌のうさぎを助けた。
そのうさぎは、どうにか王に恩返しをしたいと思い、自らを人の姿に変え、王への忠誠誓った。
王はその忠誠と、美しさに惚れ込み、うさぎだと知った上で娶ったが、人とうさぎの間では、子は成せない。
うさぎは、それでもどうしても王との子が欲しく、とある星に願った。
どうか、どうか彼との子を。
そうしてある年、願いが届いたのかうさぎの腹に子が宿ったが、生まれた子どもには消すことのできないうさぎの耳が生えている。
これでは王の子として認められぬ、そう思い嘆いたうさぎは子どもと共に湖へと身を投げた。
王は涙を流したが、王たる立場から新しい妃を娶り、他の子をなすほかなく、皮肉にも、娶ったその年には世継ぎが腹にやどり、うさぎの死は、その喜びの影に消えていくこととなる。
ただ、願いを叶えた星はその悲劇を嘆き、悲しみ、以来、その王の血族にときおり「うさぎの耳の生えた子」が生まれるように呪いをかけた。
王がうさぎを忘れぬように。
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