暗いままで食べられたい〜腹黒社長と暗闇でする鬼ごっこ

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22 秘密の契約②

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真っ暗になった室内で、すんすんと鼻を鳴らす音が間近から聞こえる。

ぼんやりと「犬みたいだな」と思いながら、大神の位置を特定する。
たぶん、右の肩口に鼻を寄せているのだと思う。

「くすぐったいですよー」

笑いながら、肩口にあるだろう顔に手をのばす。
鼻だろうか。
すこし突起のあるものが指さきにあたった。
くすぐると、高い鼻梁が感じられた。

「酒のにおいが邪魔であまり君のかおりが嗅ぎとれない」
「お酒くさいってことですかー? 女性の香りをかぐなんて、親しき仲でもルール違反ですよー」
「……勝手にすまない」
「別にいいですけどー。でも、急ににおいをかぐのは変態さんの所業ですねー」

抗議の言葉が口から勝手に出ていくと、思った以上に大神の心をえぐったらしい。
彼は自嘲するようにわらうと、「すまなかった」と口にする。

「俺も自分自身の行動に驚いてる。自分で思っているよりも、焦っているのかもしれないな」

ため息を吐きながら、顔が離れていくのがわかった。
彫りの深い顔をもう少し指で触ってみたかったので、消えた感触を残念に感じる。

お酒くさいかもしれないが、手持ちぶさたになった手をグラスにのばす。

たしか、ここらへんにあったはず。
暗闇の中であたりをつけてテーブルをさぐると、グラスを探り当てることはできたが、同時につかみ損ねてしまった。
ガラスが何かにぶつかる音がして、シャンパンが香り立った。

「あああ。ごめんなさーい」

慌てて、倒れただろうグラスに手を伸ばそうとした。
しかし、そうする前に、声で制止される。

「このままで、聞いてほしいことがあるんだ。いいだろうか?」

グラスを倒したままでということだろうか。
何も考えずに、思いつくままを口にしてみる。

「でも、グラスを片付けないと部屋が汚れちゃいますよー?」
「もちろんグラスもそのままでいいんだが、そうじゃない。君はこの暗さが気にならないのか?」
「あぁ。電気のことでしたかー」
「だいぶ酔ってるようだね。あまり感じてなさそうだけど、一応聞く。暗くされて怖くないかい?」
「うーん。そう言われれば男女が2人でこの空間はまずいようなー。でもー、触ったりしないんですよねー? さっき約束してくれましたもんねー?」

少しの沈黙のあと、「まいった」と大神が言う。

羊子の何が彼をまいらせたのか知らないが、とても困った声が、とても面白い。
もう少し困らせたくなって、羊子は立ち上がった。

「どうした? 急に立ち上がって」

闇の中でも目がきくのか、大神が驚いた声を出す。
それに気をよくした羊子はさらに、一歩、彼がいるだろう方向に足を踏み出した。

無言で近づくと、つまさきが何かに当たる。
きっと、大神のブランドものでピカピカの靴に違いない。

(ここかなー?)

手探りで大神の顔か頭に触れようとすると、手を取られてしまった。
ぶーっとふくれた羊子に、諭すように彼は言う。

「俺はダメなのに、そっちは許可もなしに触るなんて不公平だろ?」
「そうですかー? さっき匂いは嗅ぎましたよね」
「でも触ってはいない」

鼻を寄せてくるのは立派なセクハラな気もしたが、ふわふわした頭は、どっちがどうかを考えることなんてどうでもよくなってしまう。

「じゃあ、触ってもいいですよー」

大神が息をのむのがわかった。
あんなに色男なのに、羊子ごときの言葉でたじろいだのかと思うと小気味いい。
くふくふと笑っていると、大神に手を引かれた。

「君は本当に予想のななめうえをいく人だな。まさか、先に言われるとは思わなかったよ」

近くにあったソファに座らされた。
3人は優に座れる場所で、ぴたりと体を寄せ合って向かい合う。

「先ほども言ったが君に頼みたいことがある」
「なんですかー?」
「君に触る許可が欲しいんだ」

もう手は触っているのに。
それに、先ほど羊子は触ってもいいと言わなかっただろうか。

それとも、ただ触るという意味ではないのかもしれないと思い当たる。
性的な意味だとしたら、さすがにおいそれとは頷けない。

「触るって、エッチなことをするってことですか?」

あけすけな言葉に、大神が黙る。

(黙られると、困るんだけど。え? 本当にエッチに持ち込もうと思ってるの? こんなモテる人が?)

わざわざ高級ホテルのスイートまで用意される価値は、さすがに羊子にはない。
よりどりみどりだろう大神が、頭の弱い巨乳キャラが好みのど真ん中だとは思えなかった。
そうならば、出会ったときにもっと迫られているはずだ。

まだお酒の残る頭でぼんやりと考えていると、羊子の手を握る大神の握力が強くなった。

「……俺には誰にも言えない秘密があるんだ」

絞りだすように告げられた言葉に、羊子は急に嫌な予感がした。

これは聞いてはいけないやつではないだろうか。
酔った勢いで肉食獣に近づいてしまった気がして、よく働かない頭は「まずいまずいまずい」と繰り返すしかなかった。
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