僕は人畜無害の男爵子息なので、放っておいてもらっていいですか

カシナシ

文字の大きさ
46 / 76
本編

46 野営

しおりを挟む

 緊急信号を見た教師たちがすぐにやってきて、青ざめながらオーランドたちの状況を判断し、彼らは棄権きけんすることとなった。


「では、もう治していいですよね?」


 気押けおされたように慌てて頷く教師たち。

 僕だって分かっている。治癒は慈善事業じゃない。けれど、治せると分かっている重体の人を前に治癒を我慢するのは、どうしてもイライラしてしまう。
 オーランドの足をにょきにょきと再生しながら、きっと後で、とんでもない高額の請求が侯爵家にされるのだろうと想像した。

 やっと全てを再生し終えた頃には、僕もかなり疲弊し、崩れ落ちてしまう。そういや徹夜同然の状態だった……。
 ぽす、とグレイの腕に受け止められて、ああ、安心だ、と思ってすぐに意識を失った。






 ふと目覚めたら、天幕の中に寝かされていた。毛布が何枚も厳重にかけられているのは、きっとグレイかな。

 その外ではガヤガヤと賑やかな声がして、僕は重怠おもだるい体を起こして外へ出た。みんなが焚き火を囲み、アツアツのシチューを作っていた。温かで美味しそうな匂いだ。


「わ、すみません!僕、お手伝いもせずに……!」

「いや、ロローツィア、まだ休んでいていい。夕飯は……食べられそうか?」


 ぐぅうとお腹が鳴り、慌てて手で押し込むも、黙らない。
 恥ずかしくて俯いた目の前に、グレイが皿を差し出してくれた。


「一番の功労者なのだから、気にすることなど一つもない。ほら」


 そんな、と思って周りを見渡すと、あちこちからきらきらした視線を貰った。どうやら、僕が聖者であることをみんな改めて?ようやく?認識したようで、オーランドの足を再生したことがよっぽどの衝撃だったみたい。

 そんなことを言うのなら、目とか心臓も再生できるのだけど……目の前で見たりしないと、そうそう実感できないよね。


 グレイをちらりと盗み見ると、もう食べ終わって、僕のためにお茶を沸かしてくれてるみたい。うう、優しい……。

 さっきの女郎蜘蛛アラクネを断ち切ったのも、僕たちを背中に守ってくれたのも、とてもとても頼もしかった。強くて優しいなんて、どこの勇者か英雄ですかって。守ってくれたのは僕だけじゃないのに、もしかしたら、グレイの中で僕は大事な存在なんじゃないかって、勘違いしてしまいそうだ。

 隣の格好良すぎる人を意識すると、お腹は空いているのに胸がいっぱいになって苦しい。よくない。


 頭を振り払って、皿に手をつけた。ジキル先輩がメインになって作ってくれたシチューは絶品で、一口食べればどんどん進む。


 食べている間、周りを観察していると、先生たたちが疲れた顔をしながら荷物検査をしていた。騎士養成学園の方も人数が多いので、殿下の騎士さんたちも数名動員して。あとでお守り貸し出した方がいいかな。

 お腹が温かく満たされると、また眠たくなってきた……けれど、まずは小用を足しに行きたい。


「ちょっと……行ってくるね」

「俺も行こう」

「いや!その!それは!大丈夫!本当に!」

「……そうか?しかし……」

「本当に本当に大丈夫だからねっ!こっそりついてくるとかもダメだからねっ!?」


 心配してか付いてこようとするグレイを押し留めて、なんとか一人になれた。ふう。過保護なんだから。グレイこそ一番付いてきちゃだめなんだ。恥ずかしいからね!

 ゴソゴソと用事を済ませて、戻ろうとした時だった。




「こんにちは、転生者さん」




 その声に、びくりとして振り向いた。

 煌びやかな銀髪。瞳孔の開き切った紫紺の瞳。……エカテリーナ様だ。
 僕の顔を見て、ふふふっと軽く笑い声を上げている。その後に、ぬっそりと大きな男の人もいたけれど、それよりも。



 ここにいてはいけない存在が、いる。


 エカテリーナ嬢の腕に抱かれているのは……僕の、弟。

 一番下の弟が、彼女の腕の中ですやすやと眠っていた。


「お化けでも見たみたいな、間抜けな顔ね!ふふっ、どう、良い夢は見れた?そろそろ、わたくしに返してくれる覚悟は出来た?」

「なんの、お話、ですか」


 先ほど見た、女郎蜘蛛アラクネと同じニオイを感じた。狂っているのに、本人だけが気付いていないような。


「うふふふふふっ!そりゃあ、ねぇ?攻略対象たちに決まっているでしょぉ?みんな、みんなわたくしのものだったのに、あんたが全部台無しにしたの……!」


 急にいきどおったエカテリーナ様は、僕に向かって何かを放った。ジュウッ!と音を立てて、肌が熱く焼ける。なんだこれ、火……っ!?


「フフッ!それ、治しちゃ、ダメよ。今のあんた、すっごくブサイクだわ。でもね?治すのはだぁめ。この子がどうなってもいいの?」


 どうやら、エカテリーナ様の火属性魔術を受けたらしい。顔が熱く、ジュウジュウ燃えている!


「うう……っ!まさか、父は、母は……!?」

「さあ?気にしたことないからわからないわぁ。ねーぇ?」


 エカテリーナ様に同意を求められた僕の弟は、まだ眠っている。おかしい、気配に敏感な末弟が、この状況で寝続けているなんて!!

 両親の絶望した顔が思い浮かぶ。愛情深い父と母は、何を言われても子供を引き渡すことなどないはず。こんなことになったのは、僕のせいだ……!

 ぴりぴりと肌が焼けて痛いのを、必死に我慢しながら彼女へと問う。


「何が、目的で、こんなことを?」

「えーっ?」

「僕が、お嫌いなんですよね。だから、危険を冒してまで、僕の家族を人質に取った」

「ええ、まぁ、そうね。うーん、端的に言うと、死んで欲しいのよね」



しおりを挟む
感想 143

あなたにおすすめの小説

僕はただの平民なのに、やたら敵視されています

カシナシ
BL
僕はド田舎出身の定食屋の息子。貴族の学園に特待生枠で通っている。ちょっと光属性の魔法が使えるだけの平凡で善良な平民だ。 平民の肩身は狭いけれど、だんだん周りにも馴染んできた所。 真面目に勉強をしているだけなのに、何故か公爵令嬢に目をつけられてしまったようでーー?

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした

水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」 公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。 婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。 しかし、それは新たな人生の始まりだった。 前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。 そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。 共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。 だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。 彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。 一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。 これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。 痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます

まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。 するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。 初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。 しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。 でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。 執着系α×天然Ω 年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。 Rシーンは※付けます ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

処理中です...