泥ねずみと呼ばれた少年は、いっそ要塞に住みたい

カシナシ

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この世界というかこの国は、基本的に椅子生活だ。家の中は靴のまま。靴を履き替えることはあっても、脱ぐのは寝る時だけ。

なので、コタツはあまり馴染まないだろうと思っていた。ただ、魔道具としては簡単な構造だし、素材に拘らなければ安価なため、冒険者向けコンビニ店の隅っこにそっと置いておいたのだが、意外にも売れ行きは良かった。

なんでも寒い地方では、雪の降っている間じゅう家に引きこもり、家族みんなで暖房の魔道具を囲みながら、冬仕事をする。その際に、コタツはピッタリだったみたい。

ということで、通行税がゼロということもあり、モルモル伯爵領へ支店を出すことになった。かの土地での第一号店は、冒険者向けコンビニ店、すなわち平民向けだ。

馬車で行くと3週間ほどかかる道のりになる。僕はその近くの迷宮に行ったこともあったので、目的地までぴゅんっと行って、皆を転移で連れてきたりして、店が出来たら管理職の従業員だけが使える転移陣を設置した。

転移陣って、作れるのは本来、精霊だけとされている。ちょっと躊躇ったけど、ロイド様に聞いたら法に違反している訳でもないし、国家転覆を狙っている訳でもないから大丈夫とのこと。

見知らぬ人は使えないようになっているし、一度に一人ずつ。荷物の場合は魔導人形たちによる厳格な検品をしてから。だって違法薬物とか紛れ込んでいたら嫌だしねぇ。

そんなこんなで、僕の商会は他領へも進出していったのだ。いってらっしゃい。








長期休暇中に行きたいと思っていた、オルの里に連れて行ってもらうことになった。竜人の里。

竜人の強靭な肉体でも堪えるほどの極寒ってどんなところなのだろうと、興味を持ってしまったのだ。オルは夏の方がいいと言ってくれたけれど、せっかくなら雪も見たい。冬に北海道へ行くようなものだよね?

隠密を発動して存在感を消し、オルに抱き抱えられる。


「じゃあ、ちょっと目瞑ってて!びゅんって行くから!」

「わ、わかった」


オルの火のシールドで包まれて、全く寒くないし、オルの体も逞しくて安定感がある。それでもちょっと怖いのは、目を瞑っているからか、恐ろしいスピードで移動しているからか。

目の前の首にがっしりとしがみついて数時間。気がつくと、空気の薄い、一面の銀世界にいた。

ふわっ、と地面に降ろされたけれど……ぽすっ!


「うわぁ、埋まっちゃう。すごい!ふわふわでサラサラ……!」

「やべ、死ぬな、これ。ロキ、もう一回抱っこするから掴まれ!」

「はーい」


どうやら雪に埋まるというのは想像以上に危険らしい。
ミズタマとケルンは水属性の魔物だから、ここで出したら凍ってしまいそうだな。

するとネロが出てきて、『乗れ』と言う。渋々乗ると……おわ。中々良い。もふもふに包まれている。
体重の軽いネロは雪の上も軽やかに進めるみたい。
ただ、しなやか過ぎるネロの身体はあまり乗り心地が良く無い。捕まるところもなくてヒヤヒヤする。


「あ、取手が欲しい……」

『掴むところ?分かった!」


ギンが収納にある皮の素材などを駆使して、ネロに付けるくら頭絡とうらくを作ってくれた。なんて出来る男……じゃなかった、スライムなのか。


「ロキのスライムってどうなっているんだ……?まぁいっか……」

「ごめん、オル、お待たせ。案内をお願い!」


オルは僕がネロから振り落とされない速度で、ゆっくりと飛んでくれる。自分で登るのは大変そうだけど、ネロがサクサクと斜面を登っていくので、とても楽しかった。

竜人の里は、山の天辺だった。
僕の装備は、体温を適温に保つように設定しているのだけど、あんまりに寒すぎて魔力の消費がぐんと高まった。これは、長時間は滞在出来ないなぁ。こまめに補充しなくちゃ。



そうして二人、オルのよく言う『爺』様の家へとやってきた。

じい様の家は、豪快なことに山の斜面を削って作った洞窟だった。中は魔道具が使われているのか暖かい。良かった。


「爺。ただいま」

「ああ、オーランドか。……っ!?なんだぁ、その美人は!」

「えと、初めまして、ロキと言います。オルに連れて来てもらいました」


じい様というから勝手にトア爺みたいなイメージがあったのだけど……全然違った!え、え、めちゃくちゃ格好いい。やっぱり竜人は美貌を持つみたい。それでいて、鍛え上げられた肉体に、武神のような覇気。……わぁ……!


「ロキというのか。なにもこんな酷い時期に来ずとも。人間には毒だろう。オーランドもなぜ止めなかった」

「あ、いえ、僕が見たくて!極寒を体感してみたかったんです、すみません」

「そうか!坊やは強いのだな。疲れたろう、奥の方に入って休みなさい。さぁ。オーランドは薪でも拾ってこい」

「ええ~!爺!なんでだよ!」

「お前は火の精霊王の加護で薪が見つけやすいだろう。適任だ」

「ちえっ。ロキ、パッといってすぐ戻ってくる!爺はあんなんだけど強ぇから、安心していいぞ」


そうなんだねぇ。わかった、と頷くと、オルは瞬く間に出ていった。


じい様に連れられて洞窟の奥へと進む。広い広い洞窟で、ここに入ってからは空気の薄さを感じない。ああ、だから薪を燃やしていても大丈夫なのかな。


「それにしても、驚きました。オルが爺、爺、って言うから、もっとお年を召した方かと……」

「ハハッ!それは嬉しいな。だが、こう見えても私は1000……とちょっとは超えている。爺と呼ばれていい年なんだ」

「ええっ……見えません……!」

「ロキ坊の話も聞いている。オーランドと同じ年の人間なのだろう?それにしては小柄で可愛らしい。ああ、本当に可愛らしい。竜人は小さくて可愛いものが大好きなんだ」


一体何回可愛いと小さいをいうのか。格好いいと言われたい僕は、ちょっと唇を尖らせムッとしてしまった。




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