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しおりを挟む洞窟の奥は、意外と言うべきか絵本に出てくるような秘密基地めいた可愛らしさがあった。
じい様もまた、時折人里に降りて物資を調達してくるみたいで、普通の寝台や本棚などが、絶妙な位置で配置されていた。
招いて頂いたお礼に、料理を作らせてもらうと、じい様は殊の外喜んでいた。
「人に作ってもらう料理は大体美味いが、ロキ坊の料理はまた格別だな!オーランドが懐くのも納得だ」
「懐くなんて……オルは放っておくと生のまま食べようとするので、放っておけなくて」
「そうか?私も面倒な時は生のままだが」
「それはちょっと」
「おーい!いっぱい取って来たぞ!」
あ、オルだ。
ぱっと見ると、息を切らせてオルが走ってきていた。
「えー何!?煮込みハンバーグってやつか!?オレの分は!?たっぷりあるよな!?」
「あるから、大丈夫だよ。もう、焦らなくても」
「いいや、爺はよく食べるから油断ならねぇ!」
オルは魔法鞄から薪をぽいぽいと放り出し、早速ガツガツと食べ始めた。そんなに急いで食べなくても、ねぇ?
そう思ってじい様を見た。ほら、上品に……大量に食べている……!
オルとは違い綺麗に食べていると思ったけれど、一口が大きいし、すぐに二口目にいく。ああ、それで減りが速いんだね。
オルとじい様は競い合うように食べて、満足したようにほうっと息を吐いた。
「ご馳走様!本当に俺、これもめっちゃ大好物。な、爺。ロキの手料理は最高だろ」
「ああ、最高だ。違いない」
「ありがとうございます。そう言ってもらえて良かったです」
薪はどうするのかと言うと、どうやら地下に暖炉があって、そこに投入しておくと洞窟全体が暖まる仕組みになっているのだそう。へぇえ、要塞に使える技術かもしれない。
じい様の寝床は食べるところとは別の奥まったところにあって、とっても大きかった。キングサイズベッドを何個か並べたのかな、ってくらいに。
「いいんですか?一緒に寝て……」
「ああ、勿論。オーランドもいつもここで寝ているからな」
「へぇ……」
「いや、ウチにいたって親いねぇし……こっちが落ち着くだけだ!」
オルは照れたのか、顔を真っ赤にしていた。そういえば、オルの家はじい様の近所だと教えてもらったけれど、この感じだとあまりそちらには帰っていないみたい。
その晩は、じい様を真ん中にして三人で話しながら寝た。
オルの両親の話。オルが赤ちゃんの時から、片方ずつ旅に出るくらい、旅好きなんだって。それでオルが10歳になったのを期にじい様に預けて、どこかへ旅に出てそのまま。
竜人は旅好きが多く、他の子供もそういう育ち方をする。じい様とオルも血縁関係は無く、同じ里の年長者、という意味でのじい様だった。
竜人の里というのはこの山全体のことを言うみたいで、僕が思い描いていたよりも遥かに規模は大きく、家と家の距離は相当に離れていた。他の竜人との交流はさほど無いんだって。
ふむふむ。オルの寂しがりというか、くっつきたがりな理由が、少し分かったかもしれない。
親からはたっぷり愛情をもらっていても、まだ14歳だものね。それに、同じ年頃の友人も、多分、いない。迷宮で僕と出会ったのも奇跡的だったし、それは、確かに大切にしてくれるのも納得だった。もちろん、僕にとってもオルは大事な存在。
洞窟を出るとやっぱり寒い。ネロに乗り、装備をしていても寒いのだから、生身で来たら凍えてしまうだろうなぁ。
それでもふわっふわの雪は楽しくて、ソリのような板を作って乗って、何度も斜面を滑っては羽を付けて登り、また滑った。汗だくになって耳や鼻を赤くしたオルを見て笑ったら、僕も同じだったみたいで笑われた。
毎日雪で遊んで、雪の中の魔物と戦い、じい様とお話をしているうちに、僕はすっかりじい様が大好きになってしまった。
えっと、格好いいからじゃないよ?なんと言うか存在感が安定しているというか、揺らがない感じが、一緒にいて安心感を覚える。
樹齢何百年の大樹、みたいな雰囲気なんだよね。
じい様は、愛した人に竜心を渡せないまま、亡くしてしまったらしい。それ以降、ずっと一人で過ごしているのだそう。たまに、竜人の子供達を世話したり、迷宮へ闘いに行ったりしている。
もうそんなの聞いたら、なんかしたくて……!
実は僕の父方の祖父は、割と資産家だった。僕のことも可愛がってくれていて、その時教えてくれたのが、囲碁だった。だから僕の中で囲碁は『高級感のある遊び』という印象がついてしまっている。違うと思うけどね。
囲碁は中学生くらいでハマったけど、当時友達で囲碁をやってる子はいなくて、対戦相手はおじいちゃんだけだったから段々やらなくなってしまっていた。
それを思い出し、即席土魔法で作り、じい様にルールを教えると、あっという間に習得してしまった。オルにも教えたけど、途中で『ウガァッ!無理!』ってどこかへ行ってしまったので、向いてなかったみたい。
パチパチといい音を立てる碁石。じい様にぴったりだ。そうだ!トア爺も好きかもしれない。コタツの上に置いておいたら遊ぶだろうなぁ。
数日間、思う存分楽しんだ後、僕は屋敷へと帰ることとなった。次は、トア爺にも囲碁を教え、じい様の対戦相手を作っておくことを約束して。
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