【完結】あなたが幸せなら、僕も幸せ……?

カシナシ

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70 エリュカside/ファルシュカside


(エリュカside)



 アウグスト殿下は元外交官の王族で、しかも、なんと、離縁なされたばかり!

 これってすっごく良い条件の男じゃないか!ルドルクス様も素敵だけど、辺境伯だもの。公爵であるアウグスト殿下に見初められれば、実質のトップ。だって今は王太子妃がいないもの。


 ルドルクス様にはちょっと手を焼いているけど、アウグスト殿下なら……離縁したばかりで狙い目かもっ!?


 ボクは喜んでアウグスト先生の元へ行こうとしたけれど、同じことを思っている生徒はうじゃうじゃいて、包囲網が出来上がっており近づくことすら出来ない。


「あのう……ボクも、先生とお話ししたいことが……」


 包囲網を管理する生徒まで現れていた。その生徒が『ヨシ』を出さないと、先生に近付けないなんて、どんな理不尽だ。それでも仕方なく、その子に言ってみる。


「あら、そうなの?レーゲン語?オッペン語?それともエレンコニャック語?」

「え?え?え?えぇと……レーゲン語かな」


 一体なんの話?……ああ、そうか。外国語の先生だから、外国語に関係する質問だと思っているのかぁ。
 適当にやり過ごそうとすると、その子の目が一瞬、光った気がした。


「では、まずはあたくしに聞いてみて。程度の低い質問で、アウグスト先生を煩わせる訳にはいきませんもの」

「えっ?あ……」


 まさかそう来るとは。何の言葉も出てこないボクに、その子は威嚇するように目を細める。怖い。


「ほら。やっぱり先生目当てなのね。質問もないのに近づかないで、エリュカ・ブルーム。そもそも、カイロス殿下と婚約しているのに……ふしだらね」

「誰がっ!ボクはふしだらなんかじゃないっ!」

「みんな知っているわ。ファルシュカさんを嵌めようとしたけど、貴方が遊んでる過去が曝け出されただけよね。実際、妊娠してるのはあなただし。ふしだらで、妊婦で、婚約者もいる人を、先生には近付けさせないわ」

「ひどいっ……うわぁぁあん!」


 ぽろぽろ涙を溢していると、そんなボクに近付いてくる人がいた。アウグスト先生だ!わーい!

 喜びを隠して、はらはらと泣き続ける。すると、アウグスト先生はボクの頭を撫でてくださったんだ。


「アウグスト先生……っ!」

「君は、ファルシュカくんの弟くんか。えっと、名前は何だったかな……」

「エリュカです!エリュカ・ブルーム……」

「ああ、良いんだ別に、覚える気はないから。うーん……よく似ているけれど、ファルシュカくんが月なら、君は団子といったところか。私の審美眼に間違いはない。うんうん。じゃ、ヴァネッサ嬢、いつもありがとうね」

「はあいっ……!」


 アウグスト先生は、ボクから興味をなくし、その女子生徒の頭もぽんぽんと撫でてから去っていく。

 なにあれ。なにあれ……!!侮辱だ!!なんだあいつ!!

 このボクを、おにーさまと比べて、最悪なことに、ボクを劣化版のような言い方をした。許せない。絶対に性格が悪いから、前の奥さんと離縁したんだ。

 ボクはあいつをよくよく観察することにした。とことん利用できるだけ、してやる。















(ファルシュカside)


 図書棟で勉強に励んでいると、僕にこそこそと忍び寄る気配があった。ふ、と顔を上げると、そこにはカイロス殿下が。


「……」


 見なかったことにしようと再び書物に視線を落とすと、見つかったことで吹っ切れたのか、カイロス殿下が隣の席に座る。

 申し訳ないけれど、僕は隣の机まで本を広げているから……そこで勉強は出来ないと思うのだけど……。


「ファルシュカ……もう、俺を見て、目を輝かせてはくれないのだな」


 そう言われて、気付いた。

 見上げたお顔は、当然ながら、カイロス殿下のお顔だ。以前の僕には眩しくて目も眩むほどの、美麗な。
 見るだけで胸がぎゅーっとなって、痛かったのに。


 今は、何も感じない。

 それは、カイロス殿下が少し疲れている風だったり、何だか哀愁の漂う雰囲気を持っている変化のせいかもしれないけれど、もう、胸の内側を焦がすような熱も何もかも、失っていた。


「殿下には婚約者がいるではありませんか。そして僕にも、素敵な婚約者がいます」

「お前ほど愛情深い人間なら、こうもすぐに心変わりすることはないと思っていたのだが……」

「お褒めのお言葉、ありがとうございます。光栄です」


 殿下は、僕の気持ちの変化を『心変わり』として責めるような口ぶりだ。少しカチンと来てしまう。

 どの口が、そんなことを言うのかと。

 実際、僕は一生分カイロス殿下を愛した。結婚して、エリュカの子供も三人育て、そして……死んだ。

 そこまで経験して――――実際にはしてないけど――――、ようやく、カイロス殿下を愛することを諦めたのだ。

 僕を愛情深いとしたなら、そんな人間を諦めさせる方は、一体何者なんだ?と言いたい。

 長くて辛くて苦しい恋だった。時折貰える小さな愛情を、砂金を集めるみたいにして拾い続けていた僕は、もういない。

 ルドルクス様がいるから。

 愛しい婚約者を思い浮かべた僕は、自然と満面の笑みとなった。


「僕はいま、とても幸せなんです。婚約でこれだけ幸せな気持ちにしていただける方と、結婚なんてした日には、どれだけ幸せになってしまうのかと、楽しみでしかありません」

「……っ、俺と、婚約をしていた時……は、幸せではなかったのか」


 カイロス殿下と婚約をしていた時?

 フッと表情が消える。その変化を目の当たりにした殿下は、顔を引き攣らせた。


「……あの時の僕は幸せだと思っていましたよ。でも、今の僕は、違います。もう、溺れるほどの幸せを知ってしまいましたから……」


 きっと、もう、カイロス殿下と婚約したとしても、幸せを感じられないだろう。

 カイロス殿下はしばらく固まっていた。その視線の先には、僕のデートの予定を記したメモがあった。
 それを拾い上げると、ふう……と寂しそうなため息をついていた。


「かつては、俺に全てを捧げてくれていたのに……今や、別の人間に向けられているのを見ると、本当に悔しい。何故、俺は気づかなかったんだ……」

「……」

「お前が惜しい……クソッ……失礼、する」


 ふらふらと去っていく殿下。僕はもうその背中を見送ることなく、また教本に目を落としたのだった。













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