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待ちに待ったデートの日は、朝からてんやわんやしていた。
「ファルシュカ様!ああっ、本当に、本当にこちらの服でよろしいんですかっ!ええっ!あたしはこの白のビジューのシャッツがとおっても良いと思うんですが!!」
「ええとね、それだとすっごく目立っちゃいますからね?今日は街歩きなので……ね?」
マーサさんの鼻息が荒いし、ローザさんも目の迫力が怖い。大小様々な化粧道具をずらりと並べているけど、僕、化粧は女の人ほどにはしたくないよ……。
「ろ、ローザさん。あの、ほんの、ほんの少しにしてくださいね。僕、いつもと違うと不安になってしまうので……」
「だいじょぶだいじょぶです~全てお任せくださいね~、最高にナチュラルな美神にしますからね~」
もともと、肌に関してはセオドア監修の化粧水のおかげでトラブル知らずである。
そこに、ローザさんは僕の顔よりでっかいパフを取り出し、数種類のお粉をぼふぼふ、容赦なく叩いていく。
「わ……」
もうもうと粉が舞っているけど……これ、大丈夫なの!?
でも、目を開けると、差は歴然としていた。
たったそれだけで、肌が物理的に光っているのだ。ラメ入りだったのかな?すごい……。
「真珠肌っ……マーサ!見て!これが真珠肌っ!」
「なんて眩しっ……、坊ちゃんに見せなくちゃ!」
「ええと、どっちみち後で会いますから!落ち着いて!」
僕だって早く出かけたいのに、マーサさんとローザさんときたら、僕のネックレスの角度までいちいち直すのだから、キリがない。
「ぼっ、僕、もう出ます!出ますからね!はい!おしまい!終わり!」
「あぁあ~~楽しい!楽しすぎるのにぃ~!」
「あっはっは!分かった分かった、行ってらっしゃいませ!」
ついに我慢の限界が来た僕は、部屋を飛び出すようにして出た。すると、今まさにノックをしようとしている姿勢のまま、ぽかんとしたルドルクス様がいらっしゃった。
「あっ……!お、お待たせしました!申し訳ありません……!」
「いや。可愛い……な、これは……攫われてしまうぞ、どうしてくれる」
「えっ」
ぎゅうっと抱きしめられてしまった。ああ、お粉が、ルドルクス様の服についてしまう!
「わ、わ、ルド様……!あの、顔にですね、お粉がついてるので……」
「ああ、化粧をしてもらったのだな。いつも美しいが、今日は増して輝いて見える」
ルドルクス様は長いお指で、僕の頬を掬うように撫でた。
翡翠の瞳はたっぷりの蜜を詰めたような甘さを含んでいて、見つめられた先から溶けてしまいそうだ。
「あ、……ありがとう、ございます……っ、ルド様も、大変麗しいです……っ!あ、マスクは……?」
「君の近くから離れなければ問題ないからな。このまま行く」
そう言って、自分の腕に僕の手を掴ませて、屋敷から連れ出される。
幾度となく一緒の馬車に乗っているのに、今日ばかりはドキドキが止まらなかった。あ……そうか、今日は、セオドアが居ないから。
向かいではなく隣に座ったルドルクス様は、僕の手をとった。大きな手にすっぽり包み込まれて、恥ずかしさと嬉しさに顔がふにゃけてしまう。
「そういえば……俺とのデートのために、手配をしてくれたと聞いた。とても嬉しい。ファルシュカも、楽しみにしていてくれたんだな?」
「あ……!は、はい。勿論です……お好みに合えば良いのですが……」
「合わないことはない。次は、俺に任せてくれるか?君を連れて行きたい場所が多くて、困っているんだ」
そんなの……もちろんに決まっている。そんなこと、してもらったこと、無い。いつも、僕がプランを考えて予約をしたりしていたから。
「わぁ、もう次が楽しみになりました。まだ今日も始まったばっかりなのに……!」
「ぐっ……本当に、今日は絶対に離れないぞ。誘拐の危険だ……」
街に着いた僕たちは、手を繋いだまま歩いている。
ちらちらとルドルクス様を見上げて、その流麗な横顔を見つめていれば、僕の視線に気づいて微笑み返してくれる。し、幸せ……!
いつも横顔を、背中を見ていた。けれどルドルクス様は、視線も、歩調も合わせて下さるのだ。
そのことに、泣きたくなるほど嬉しくなる。
「まぁ、初々しいカップルだこと!ほら、これ買って行きんさい!二人で分けて食べるんだよ!」
「わ……」
屋台のおばさまから渡されたのは、ふわふわのパンを揚げたようなもの。甘く香ばしい香りで、美味しそうだ。
「ありがとうございます、お代は……」
「いいよいいよ!それもって歩きまわっておくれ!」
「ありがたく頂戴する、マダム」
「あらやだ、マダムなんてねぇ!あんたっ良いおとこだねぇ!」
「うちのも持ってくれ!」
「大出血サービスだぜ!」
なんだかたくさんの屋台ものを貰ってしまった。どうやら宣伝効果があると見込まれたらしい。山ほど抱えて、前もおぼつかない程だ。
「あー……どうしましょう……?」
「護衛に食わせよう、さすがに食べきれないだろう?」
ルドルクス様は周囲に目配せをすると、すすす、とやってきた町民……じゃない、護衛さんたちだ。
『軽食にしろ』と渡すと、皆有り難がって受け取り、また散らばっていく。僕の手元には、最初に受け取った揚げパンだけ残った。
「すごい……みなさん、綺麗に紛れていたのですね。良く見れば顔つきが違いますよね」
揚げパンは揚げたてで、ふわふわとカリカリが合わさって美味しい!
表面に塗された茶色のお砂糖が、ジャリッとするのが好きかも。
「流石に一般人よりは凛々しい顔つきをしているだろう。常に扱いているからな」
「リンドバーグの騎士様は、憧れの職場だと聞きました。ルド様がまとめ上げているのですよね……」
「まぁ、何とか。君もあそこで度々走り込みをしているだろう?あれも『憧れ』の一部になってしまわないか、ヒヤヒヤしている」
「え?」
「走りに集中している君の姿は、神々しさまであるからな」
恥ずかしくなって、俯く。なにそれ。
ただ走っているだけだよ?たまに見守られているなあ、とは思っていたけど……実は結構な人数に見られていたのだろうか。
「俺にもくれ」
「あっ……」
食べかけの箇所に、ルドルクス様が齧り付いて、大きく欠けた。紅い舌が、唇周りについた砂糖を舐めとっていくのを見つめていると、ふと唇に指が掠めた。
「ついているぞ」
「ひ……」
砂糖を掬っていった指は、ルドルクス様の大きなお口でぺろり、舐められた。
なんだかそれがひどくえっちな気がして、赤面した。なんて目で見てしまっているんだ、僕は……!
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