【完結】あなたが幸せなら、僕も幸せ……?

カシナシ

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(ファルシュカside)


 混濁する意識の中で、ルドルクス様の手だけが光のようだった。

 その手に導かれるようにして、ふわふわと、熱波の中を泳ぎ続けた。

 僕にはこの、頼れる大きな手がある。
 そう思えるだけで、いつもの発情期より、断然楽だった。


「……すっきり」


 起きたら、発情期が終わっていた。大体、熱はだらだらと少しずつ収まっていくのだけど、ぴたっと無くなった。とても元気である。


 そして寝台横を見ると、僕の手を握ったまま寝ているルドルクス様がいた。

 なんで一緒に寝なかったのかって、婚約者とはいえまだ結婚していないから、気を遣っていただいたのだろう。

 ずっと、このつらい体制で、握っていてくださったみたい。
 僕の心細さが、なくなるように。


 愛しさが込み上げて、つい、ルドルクス様の黒髪に、口付けをした。大好き……。


 そのままご起床なさるまで、黒髪を撫で撫でしていた。滑らかな手触りの黒髪は、ずっと触れていたいくらいだ。


「ああ……おはよう、ファルシュカ。すまない、寝過ごした」

「いえ……ありがとうございます。ずっと、側にいて下さって」

「今の俺には、このくらいしか出来ないからな」


 うう……それって。

 婚姻をしたら、もっと色々……していただけるということ?

 ふと頭を過ったのは、きっと、出産という大きな痛みと恐怖に耐える時だって、ルドルクス様は、お側にいてくださる、ということ。
 易々と想像が出来た。

 このお方は、どれだけ僕を夢中にさせたら気が済むのだろうか?困るんですけど……。









 *




 学園へ行くと、掲示板の前がザワザワしていた。興味本位で覗いてみると、この間断ったはずの『外国語補講クラス』に、何故か僕とセオドアの名前があったのだ。


「わあっ、外れた~!」

「やった、今週は入れる!」


 まるで人気俳優との握手会のような熱気の中、僕とセオドアだけが置いてけぼりの状態だ。


「な、なんで……?」


 周りの話を注意深く聞くと、アウグスト先生の補講は一人一人丁寧に見てもらえて上達も早いと。

 そのため人気が大変なことになっていて、まず申請書と共に質問をしたいことを書いて、それのレベルがボーダーラインに達していなければならず、その中でも人数に限りがあるから抽選になるらしい。

 僕も、セオドアも、何にもしていないのに……?


「せ、セオドア。実はこっそり応募してたりした……?」

「まさか!ボクはむしろ外国語は及第点さえ取れればいいから、そんなに熱心じゃないし!」


 そうだった。セオドアは広く浅くがモットーである。
 各国の挨拶や決まりきった定型文は頭に入っているので、それ以上の難しい単語や文法は必要としていない。

 それじゃあ、どうして……?


「はい、あなたたちの分」


 なにやら整理券のようなものまで配っており、渡してくれたのはあの侯爵令嬢だった。


「あたくしが推薦したら、先生も『いいアイデアだ』って喜んで下さったのよ。感謝することね」

「ええっ!?あの……何故?僕たち、希望はしていないのですが……」

「分かるでしょう。貴方たちは先生に興味がない。そのふた枠分、あたくしのライバルが減るわけ。そうでしょう?」


 その理屈は……付き合わされる僕たちは完全に迷惑を被っているじゃないか。しかし、侯爵令嬢の目付きがとても怖いので言えない。ひえぇぇ……。


「それに、先生……たくさんの生徒にアピールされて、お疲れのようなのよ。だから、本当に優秀な生徒の面倒を、見たいんじゃないかと気を回したのよ。ウフッ!わたくしって、なんて気の利く女なのかしら……」


 自己陶酔しているご令嬢の頭上には、公爵夫人となった彼女がくるくる踊っているのだろう。うぅんと……仕方ない。


「では、次回は僕たち以外の成績優秀者を呼んでください。その方が顔ぶれが違って良いでしょうから」

「あら、その案もいいわね。先生に聞いてみるわ!ありがとう」


 濃厚な睫毛でバチン!とウインクをされると、悪い気分ではなかった。今回だけは、彼女の顔を立てて参加することにしよう……。







「ねぇなにあれ。おにーさま。アウグスト先生の補講に出る、って、ほんと?整理券、ちょうだい」

「え……」


 掲示板から離れてすぐに、エリュカに捕まった。

 僕の手に持つ――というか持たされた――整理券を奪おうと、腕をギリギリと締め上げてくる。


 僕は少し迷った。本音で言えば、行きたくはない。エリュカにあげてしまっても問題ない。

 けれど、そうしたら、あのヴァネッサ嬢の機嫌を損ねるだろう。あの恐ろしい眼光を思い出し、縮み上がりそうになる。


「待って、落ち着いて。これ、ほら、名前とクラスも書いてある。エリュカが持って行ってもおかしいって弾かれてしまうだけだよ」

「そんな……」

「本当に出たいのなら質問のレベルを上げないといけないんじゃないかな。アルパ先生に聞けば……」


 アウグスト先生に聞くために、アルパ先生でレベルを上げる。……って、なんて失礼な発想か。

 エリュカは外国語を学びたい訳ではないのだ。ただ、補講に出たいだけで。


「どうして、どうしておにーさまばっかり!ひとつくらい、くれたっていいじゃないか!」


 エリュカは爆発したように泣き出した。
 その大声に、廊下にいる生徒たちがざわざわと立ち止まる。
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