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ぐったり。もう、ものすごーく、疲れた。
帰ってからも、卒業試験のための勉強は待ち構えている。結婚式の準備もある。
ルドルクス様はお忙しい中時間を取ってくださるのだが、あまり引き留められなくて、少しだけ話してそれぞれの部屋へ戻らなければならない。
今日もルドルクス様とお話しし、もう部屋に戻らなければならない時間なのに、名残惜しくて離れられないでいた。
すると、ルドルクス様が、言いにくそうに口を開いた。
「そういえば……その。これを、言いたかったのだが……」
「はい?」
「先日の、君の発情期。フェロモンが少し分かってな……。君、普段、ほとんどフェロモンを漏らしていないから、初めて分かったのだが……」
「あ……すみません。フェロモンの出し方、分かっていなくて……、発情期の時は、多分、自然に漏れてしまっていたんですね?申し訳ないです……」
アルファもオメガも、自分のフェロモンはある程度操作出来るらしい。でも、僕はとんと感じることが出来ない。自分のフェロモンに関しては。
ということは、ルドルクス様……僕のフェロモンを感じながら、耐えて下さったということ……?なんて……なんて我慢強い。
「ああいや……それはいいんだ。続きがある。それで、あまりに君のフェロモンが……好ましくて……正直、他のオメガからフェロモンを匂わされたこともあるが、比ではない程、良くて……」
「えっ、あ、ありがとう、ございます……?」
「俺は、決して夢見がちでも、少年病でもないが……」
とっても言いにくそうな上に、お耳が赤くなっていらっしゃる。
ちなみに少年病というのは、15歳くらいの少年がかかる流行病のことだ。急に空を見上げてなにやら呟いたり、片目に眼帯をかけだすような症状を、揶揄しているのだが……、えっと?
「俺と、ファルシュカは、運命の番……なのではないか、と……思っている」
運命の番。
それは、この世界でたった一人と一人しかいない、奇跡の巡り合わせ。
出会える確率はゼロに近い。
……僕と、ルドルクス様が……?
「そのような目で見るな。恥ずかしい……、だが、本当にそう思う。俺は、まだ、ファルシュカに向けてフェロモンは放っていないが……もし発情してしまったら申し訳ないからな。婚姻した後で……確かめてみようか」
「あっ……は、はい……?」
確かめるって……どうするんだろう?
フェロモンの相性がいいことは間違いない。だってもう既に、ルドルクス様のローブは僕のお気に入りだもの。勝手に。
そして、ルドルクス様の方も、“運命”だと仰って頂ける程に、僕のフェロモンを気に入って下さったようだ。嬉しい……。
僕のあまり理解していない様子に、ルドルクス様は苦笑しておられた。
「仮に運命の番ではなくとも、俺はファルシュカを愛している。手放す気はない。……お互いに唯一無二であれば良いと、思っている」
「僕も……僕も、愛しております。ルドルクス様……」
この腕の中にいられる幸福は、何にも代え難い。
どうか、僕たちを引き裂こうとしないで欲しい。
*
いよいよアウグスト殿下の特別補講は最終回となった。
何度も舌や唇の形を、矯正されている。触れられるのが嫌で不愉快でたまらないのだが、確かに上達はするので、出来るだけ一瞬でその形を覚えるように集中していた。
ヴァネッサ嬢は少し痩せたみたいだ。それも、あまり健康でない方の痩せ方で。
何か思い詰めているかのようにピリピリしている。
「それじゃあ、来週は卒業試験だね。二人とも頑張って。大丈夫だとは思うけど」
「ありがとうございました」
「ありがとう……ございます……」
もう校舎の所々が施錠されており、暗い中、先生が馬車寄せまで送っていってくれる。
元気のないヴァネッサ嬢を馬車に乗せて見送り、いざ僕が乗ろうとした時だった。
「あっ、ファルシュカくん。鞄は?」
「……あれ?」
「教室に忘れてきちゃった?取りに戻ろうか」
「あっ……あ、すみません。僕、取ってきます」
「私も行くよ。暗いから危ない」
「……い、いいです。大丈夫です、先生は、こちらで」
僕はそう言って、急いで教室へ向かった。鞄を忘れるなんて……と思ったが、そうだ、いつも先生が僕たちの鞄を持っていて下さるから、それが習慣になってしまっていたんだ。
着いてこようとする先生が恐ろしく見えて、僕は走った。ほとんど灯りのない、暗い廊下は怖かったが、それよりも背後から付いてくる足音の方が怖かった。
早く、鞄を取って戻らないと。
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