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本編
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しおりを挟むグロリアスは国王と言っても、実質のアタマはお父様で、僕とグロリアスはスキルを駆使して民を救い、保護できる場所を作り、暴徒を抑える、という役割。
夜になる頃には僕は流石に魔力が尽きてしまうため、休息するのだが、グロリアスは僕が魔力を譲渡していることと、『竜化』スキルで体を強化するため睡眠時間は短くていいことから、働き続けている。暴徒や賊は、夜の方が動きが活発化するから。……その甲斐あって、この国は恐るべき速度で、落ち着いてきてはいるんだけど。
今日は、『ごめんね、シオン。こんな鳥籠に閉じ込めて安心するような狭量な男でごめん。君がここでゆっくりぐっすり休んでくれると、俺は安心して行けるんだよ』と、指にそっとキスを落とされて、おやすみを言い合って。そんなことを言われちゃあ、僕はほあほあした気分でベッドへ直行するしかない。
で、でもさ……、僕の、グロリアスに対する気持ちを確かめるためにも、もう少し会える時間があってもいいよね?
「ね、そう思うよね。リン」
シューッと返事をしてくれたのは、グロリアスが置いていったクリーム色の可愛い蛇さん。毒は無い、愛嬌に全てを振ったような蛇さんで、たまにグロリアスに僕の言葉を届けてくれる。くりっとしたローズレッドの瞳で、あざとく見上げてくるので、小さな頭をちょんちょんと撫でてあげた。
ホットミルクを飲みながら、膝に乗せたリンを撫でていると、ブロディは僕の腰ほどに長い銀髪を、丁寧に梳いてくれる。それらを慎重にひとまとめにし、摩擦で傷まないように絹の袋へ入れ、少し乾いた空気にミストをかけて、潤いを足してくれる。
それら一連の動作を、嬉々としてやっているブロディ。特に頼んではいないので、完全に彼の善意と独断によるお世話である。すごいなぁ……情熱が。
「……さて、終わりましたよ。早くお休みになってください、シオン様。万一クマなど作られては、陛下が大量の医師団を連れてきてしまいます」
「わ……分かった。たしかにそうかもしれない」
「ご理解頂けて何よりです」
にこ、とブロディは微笑んだ後、部屋を暗くして従者用の小部屋へと入っていく。
早く寝て、早く起きよう。そうしたら、少しは一緒に過ごせるかもしれない。
今の僕の身分はというと、相変わらずの平民である。
何故かというと、僕が貴族籍を復活させるのを嫌がったからだ。正しくは、新王族になるのだけど。
だって王子。それも、第一王子になってしまう。この、穢されきった僕が?何くわぬ顔をして?パーティーや何かに参加して、人脈を広げたり腹の探り合いをする?……僕はそこまで、強くは生きられない。貴族の半数は前から変わっていないから、僕の過去も知っている。もちろん口外しないように厳しく取り締まられてはいるけれど、人の頭の中までは制御出来ないもの。
だから僕は平民のまま。お父様と弟の家族ではあるからこうして城に置いて貰えているし、僕がこの部屋を作った時点で限定した人しか来られないような作りにしてあるから、安心。
ばったり誰かと会ったとしても、色々とスキルで尽力しているから『救世主』なんていうぶっ飛んだ称号で、一応王族に並ぶくらいの立場はあり、平定次第公爵位を賜る予定。だから今更、王子にはなりたくないのだ。
「おはよう!グロリアス」
「おはよう、シオン。今日も美しいね」
流れるように僕の側へ来て、艶やかになった髪に口付けを落としてくれた。う、わ、美貌が近い!
「あっ、えと……ありがと……」
「君の健やかな顔を見れて1日頑張れそうだよ。体調に変わりはなさそうだね?」
「う、うん。グロリアスは?」
「もちろん漲っているよ。君の魔力譲渡のお陰で」
ほわぁ……。
少年だったグロリアスも、微笑まれると物凄く愛らしかったけど。
美青年のグロリアスの微笑みは、溶けてしまう。ミルクに垂らした蜂蜜みたいに、甘く甘く。
「僕に出来ることなら、何でも」
「……それは、とても危険なお誘いに聞こえるね」
「えっ?」
「ふふ。何でもないよ」
行ってくる、というグロリアスに、手を両手で握られる。体が近付くと、僕の大好きなグロリアスの、静かに咲くリリーのような優しい匂い。この匂いをささやかに感じるだけで、たまらない気持ちになる。
ぎゅっと握り返すと同時に、“疲労軽減”、“魔力強化”、“結界”、“反射膜”など、モリモリに支援魔法をかけた。今日も無事に帰ってきますように。
国土の見回りをするグロリアスに、僕は毎日、魔力を半分ほど譲渡している。さっきの支援魔法とは別に、ね。具体的には僕の幻影をグロリアスにくっつけて、グロリアスの魔力が減る毎に供給させているのだ。
魔力譲渡は本来、体液を摂取するのが手っ取り早いんだけど、手を繋いだ状態でも少しは可能なんだ。それで、幻影の僕から少しずつあげている。僕の魔力はとても“濃い”らしいので、それでも十分な効果があって、グロリアスは夜まで活躍し続けていられるのだ。
しかし、視覚などの感覚は遮断していなさい、と言い含められている。かなり、凄惨な現場もあるからだそう。僕だってその業を背負うと言ったけど、グロリアスが頑として譲らず、この方法となった。
だから、人から見れば僕はグロリアスと一緒に、二人で各地を救済しているように見える。けど、僕は主にブロディと居て、グロリアスとはこの、朝と夜、ほんの少しの時間しか一緒に居られないのだ。
本体の僕のやっていることは、グロリアスによって暴動が鎮定し、ある程度平穏となった街に出向き、壊された家屋を直したり、新たに住居を作ったり。土地が荒れていれば豊かな土になるようにしたり。そうすることで、職も住居も失った人々に、希望を与えられている……と、願っている。
そんな背景から、僕とグロリアスは国民から、セットとして扱われるようになった。『竜の国王と救世主様がいれば、この国は安泰だ!』と。なんだか外堀が埋められているような気もしないでもないけど、別に満更ではない。
グロリアスは、大好きだ。けれど、大きなグロリアスは、こう、まだ慣れなくて。自分より高い位置にある暴力的なまでの美貌は、直視するのも難しい。これは、小さいグロリアス少年の時には無かったこと。
中身は変わっていないのに、僕が、変わってしまったんだ。大きなグロリアスになった途端、これまでしてきた事や、されてきた事、全てが恥ずかしく思えてしまって。
「会いたいな……」
ぽろり、溢した声は、誰にも聞かれることなく夜空へと溶けていった。
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