悪役令嬢は、もう推しません

カシナシ

文字の大きさ
3 / 42
本編

3

しおりを挟む

 コゼットもいなくなり、お転婆な一つ年下の王女とも仲良くなった。外を駆け回り、元気にすくすくと成長していくダリアローズ。もう性格を捻じ曲げる要素は無くなった。



 だが、心配なのは、断罪。

 婚約直前まで、ダリアローズには選択肢があった。


 例えば、婚約をしても、攻略対象に近付かない。
 あるいは、侯爵家を飛び出して冒険者にでもなる。

 ダリアローズはどちらも選ばなかった。

 正確に言えば、諦めきれなかった。


 ダリアローズの婚約者となるレオナルド第一王子殿下は、前世でのの攻略対象だったからだ。


 レオナルドの容姿は神の作りたもうた逸品の如く、完璧な美形だった。

 それにも関わらず、現実の扱いとしては不憫だった。一番の権力者で、王道攻略対象の割に難易度が低すぎ、いまいち人気が出ない。グッズが出たならば、他のキャラと比べて2、3割発注数が足りない。キャラ設定の作り込みが甘く、製作陣の情熱が伝わってこないと言うべきか、存在感が薄い。


 神絵師の情熱は伝わってくるのだから、きっと王道の王子様が嫌いなニッチ系オタクが製作陣にいるに違いなかった。


 そんな可哀想なレオナルドのために、前世では悉くグッズを買い集めてきた。それだけでは飽き足らず、手作りのグッズも作るほど。二次元ライブも須く参加し、そのたびにレオナルドを応援した。

 一人暮らしの部屋は到底誰も招待出来ない有様と化していた。当然、彼氏など出来た試しはないが、幸せだった。

 オタ活は金がかかるものだ。前世では体に鞭打って社畜をこなしてきたが、最期の記憶が無い。無いことはきっと良いことなのだろう。おそらく状況的に過労死だと思うが、ダリアローズは悪役令嬢として転生してきて本望であった。

 何せ、目の前に推し。2Dではない、3Dいや、香りも含めると4Dと言っていいのか、神がかったファンサをただ唯一の人として受けられるのだ。



 レオナルドと婚約の顔合わせをした瞬間、ダリアローズは五体投地したい欲求を抑えながら、天へ感謝した。推しが生きている。推しが生きて自分と同じ空気を吸っている。


(こんなの、婚約するしかないわ!わたしほどレオナルド様を愛して献身出来る女は居ないもの!)


 婚約が結ばれてからはもちろん、彼と過ごせる時間、時間を、宝物のように大切にし、いつ死んでも悔いのないように、全力で尽くしてきた。

 どれだけ全力なのかと言うと、出しゃばらないように、けれど彼が転ばないよう、その前に杖を差し出せるよう用意し、万が一転んだ時のための軟膏を懐に忍ばせ、いつ道に迷ったとしても道案内のフラップまで持って彼の後ろを追従するように、全力で尽くしてきた。

 レオナルドからすれば、単なる幼馴染だったかもしれない。しかし、ダリアローズへの贈り物や手紙は欠かさず、紳士的に振る舞うレオナルドに、恋に落ちていくのは当然のことだった。


 二人は成長し、年頃の男女となっても、仲良しであった。


 もう、ゲームのキャラクターだとは思わない。ダリアローズは、レオナルドを一人の男性として、愛するようになっていた。


 疲れたレオナルドに、こっそりブルーベリーの一粒を渡すことは、よくある。

 キラキラとサファイヤのように輝く一粒を、レオナルドの口元へ持っていく。薄く開いた唇が開き、青い粒を挟み、その向こうへ消えていくのを見守る。口の中で甘酸っぱく弾ける感触を楽しんだ後、『ありがとう』と内緒話をするように小声で囁き、嬉しそうに微笑んでくれるのだ。

 ダリアローズが猛烈な勢いで勉学に励んでいれば、とん、とん、とん、とん、とレオナルドの指が歩いてくる。ダリアローズが気付かない振りをして、クスクス笑いを堪えていると、その小さな人はとん、とん、とペンを持つ手に登ってくる。

『疲れない?一緒にサボろう』

 そう言って、ダリアローズの手を取り、抜け出させてくれるのだ。自分を力強く引く後ろ姿は、いっそうきらきらと輝いて見えた。








 そんな時間を過ごすうちに、いつしか思い上がってしまうようになっていた。

 もしかして、本当に結婚出来るのではないか。

 もしかして、聖女は他の攻略対象を選ぶのではないか。

 いずれにせよ、ダリアローズができることは全力で尽くすこと。そして、聖女が現れたのなら虐めなどしないこと。

 自分が彼の幸福の一部になれるのであれば、それほど幸せなことはないのだから。







 そんなダリアローズの期待とは裏腹に、聖女ユリアナが現れてからは、徐々に雲行きが怪しくなってくる。

 聖女――――つまり、『聖歌』に目覚めた彼女は、あっという間にレオナルドの視界へ映り込むことに成功した。

 レオナルドは、どんな彫刻家も画家も再現し得ない美貌と、王家特有の輝く黄金のブロンドに、湖の水底のように透き通った碧眼を持つ。これまでほとんどの子女は、レオナルドの姿を見てはほう……と息を吐いたまま、吸い込む事はできなくなり、容易には近付けなかった。あまりに神々しい彼の周辺の、空気すら神秘なため。

 だがユリアナは、違った。まるで親しい兄のように、頼れる唯一の男のように、レオナルドを見上げては瞳を潤ませる。――――その姿が、レオナルドには新鮮だった、らしい。



しおりを挟む
感想 141

あなたにおすすめの小説

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

【片思いの5年間】婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。

五月ふう
恋愛
「君を愛するつもりも婚約者として扱うつもりもないーー。」 婚約者であるアレックス王子が婚約初日に私にいった言葉だ。 愛されず、婚約者として扱われない。つまり自由ってことですかーー? それって最高じゃないですか。 ずっとそう思っていた私が、王子様に溺愛されるまでの物語。 この作品は 「婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。」のスピンオフ作品となっています。 どちらの作品から読んでも楽しめるようになっています。気になる方は是非上記の作品も手にとってみてください。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

処理中です...