悪役令嬢は、もう推しません

カシナシ

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本編

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 コテージの広めのキッチンで、ミミが漁師の妻と共に魚を捌いている。
 少し血生臭いが、気にしない。それよりも楽しみなことが待っていた。

 わくわく。

 前世を思い出してからずっと、我慢していたこと。ダリアローズのテンションは最高潮に高まり、琥珀色の瞳をギラギラと輝かせるさまに、シドはたじたじだ。

 先ほどシドに買ってきてもらったのは、この地で良く飲まれているという辛口の清酒。出来るだけ雑味の少ないものにしたらしいが、ダリアローズにこだわりは無い。


「おさしみっ!おさけっ!ああっ、今日は帰らなくていいかしら」

「……………………」


 シドからはじとりとした目線を貰っているが、気にしない。


「それにしても、生で食べようとする貴族のお嬢様なんているんですねぇ。あたしらは慣れたもんだけど、他の土地なら平民でも手を出さないよ?」


 ミミに捌き方を教えてくれた主婦が言う。すっかり打ち解けたミミは、その主婦の方をバンバン叩きながら笑った。


「うちのお嬢様は規格外なんだよ。そこらのご令嬢と一緒にしてたら、ひっくり返っちまうよ」

「ミミ?それ、褒めているのよね?そうよね?」

「もちろんです!ミミはお嬢様至上主義ですからねっ!」

「ふぅん?あらシド、貴方も座りなさい。毒味をお願いするわ」

「………………」


 シドのお猪口ミニミニカップに清酒を注ぐ。毒味と言えば断れはしないことを、ダリアローズは知っている。

(さっき【浄化】はしたから確実に大丈夫だと思うけれど、建前は建てとかなくちゃね)

 無言のままぐいと飲んだシドの前に、ミミが捌いたばかりの刺身を出してくる。鯛のような、透き通った白身の美しい一切れ。美味しいに違いなかった。


「ほら、これも毒味してやんな」

「……………………」


 シドはフォークで刺身を、ちょんちょんとショーユに付けて一切れ食べ、そして僅かに目を見張る。


「美味しい?おいしいの?どうなの?」

「……」

「はやく!焦らさないで!もうっ!」

「……問題、ありません」

「美味しいのね!わたしも頂くわ!」


 待ちきれなかったダリアローズは、刺身をすぐさま口へ運んだ。ショーユと共に、ほんのりとした柚子の香り。それからぷりぷりとした新鮮な鯛の切り身が、弾力を持って舌の上を踊る。

 たっぷりと味わったあとは、清酒を流し込む。喉を焼けつくような辛さで、胃へぽとり、落ちていくのを感じていた。


「…………っふぁ~…………っ」

「お嬢。一度に飲み過ぎでは……」

「え?大丈夫よ、このくらい。それより、思ったよりとても飲みやすいわ!シドも飲みなさい。ほら、遅効性の毒って線もあるもの」

「お嬢も飲んでいればもはや意味がない気がしますが?」

「いーのいーの!ほら、飲みましょ」


 このダリアローズの体では初めての飲酒だ。しかし前世はよく酒を飲んでいたから加減を知っているし、この国では18歳から飲めるようになるので問題ないし、信頼のおけるミミとシドがいるので、さらに問題ない。


 一人暮らしとは違い、ミミたちが次から次へとお酒のアテ……刺身や魚の煮付けなどを持って来て、机に並べていく。酒の進むメニューを、さすが分かっている。

 ダリアローズはシドだけではなく、調理を終えた主婦や、その夫らも誘い、同じ卓を囲んで酒を振る舞った。ふわふわと、とても気分が良いのである。

 隣にはシドが全くの素面で控えているのが面白くなくて絡み酒をし、主婦の夫に対する愚痴を聞きながら泣き上戸になり、男らの海の中の冒険話を聞いて笑い上戸になり。







 飲み過ぎると闇魔法も使えなくなるということを、この時のダリアローズはまだ、知らなかった。




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