虚構の愛は、蕾のオメガに届かない

カシナシ

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第一章 一回目の結婚生活

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『愛している……』

(僕もです……マルセルク様)


 寝台の上で、絡み合う身体。覆い被さっているマルセルクは大きく、激しく腰を打ちつけてくる。激しさのあまり、視界はぶれていく。


『あんっ!ああぁぁん!イイッ!気持ちいいぃぃい!』

『可愛い……』


(……え?ちがう、僕じゃない)

 いつの間にか、天井から見下ろしていた。

 マルセルクの下の人物は、リスティアと目が合いニヤッと笑った。

 大きな桃色の瞳……!









「うあぁぁぁぁっ!」

「リスティア様!?」


 ガバリと飛び起きたリスティアは、一拍置いて夢だと分かり、細長い息を吐く。それでもまだ、痛いくらいに打つ心臓が収まらない。

 アンナが冷たい布巾で、びっしょりとかいた汗を拭いてくれる。熱い身体にひんやりしたそれが気持ちいい。不快な気分をぬぐい去ってくれるようだ。


「……大丈夫ですか?お水を……」

「ああ、ありがとう……助かるよ」

「いいえ!このくらいしか、出来ないのが悔しいです。お力になりたいのに」


 むーっと顔に皺を寄せたアンナの顔に、リスティアは『変な顔をしないの』と笑う。アンナの底抜けな明るさのお陰で、嫌な夢を忘れられそうな気がした。


(子猫があんなことを言うから、夢に見てしまったんだ。早く忘れなきゃ。あんな場面、僕は見たことないのに……夢は恐ろしいな……)


 夢でも破廉恥はれんちなことを考えているのか、とリスティアは反省した。閨のことばかり気に病んでいる自分が情けない。
 公務に没頭すれば、考えなくて済む。

 その結果、寝入る直前まで無心で執務をこなすようになった。












 魔石による耐性をつけるのは断念することとなったため、最後に残された選択肢として、マルセルクとの性行為に許可が出た。

 薬を飲んで吐き気を我慢しなくてはならないが、リスティアはその日を楽しみにしていた。


 ようやく、ちゃんと抱かれることが出来る、と。


 次の発情期は、約束通り、マルセルクがやってきた。
 およそ一年ぶりのガウン姿に、リスティアの方は完全に欲情していた。

(早く、抱いてほしい……)

 アンナやサラシャに聞いて、寝室の雰囲気も変えた。
 とはいえあんまりあからさまなのは恥ずかしかったリスティアは、寝室の色を暖色系にしたり、いい香りの香を焚く程度に抑えていたが……マルセルクは問題なく興奮しているように見え、その事実は、リスティアを安心させた。


「リスティア……薬は、飲んだか」

「はい、飲みました……っ!大丈夫ですから、どうか……」

「ああ、もちろんだ!愛している……っ」


 番になった時と同じように、やはり慎重に抱いてくるマルセルク。久しぶりのマルセルクのフェロモンを胸いっぱいに吸い込むと、番に触れられた喜びなのか、陶酔するほど幸せな気分になれた。

 大好き。愛している。早く、もっと内側まできて。

(子猫の言ったことは、やっぱり嘘。優しく、労わるように抱かれてる。うん、僕は、ちゃんと愛されている)

 感覚を鈍化させる薬は、きちんと働いていた。マルセルクが精を放っても、気持ち悪くなることは無かった。


 その代わり、一つ、問題があった。
 感覚が鈍化し、つまり――痛みも、気持ちよさも、中に入れられている感覚すら、鈍くなったのだ。
 リスティアは、自分の身体が、土くれで作った人形のようになった気がした。

 どこかぼうっと、別の場所から自分を眺めているような冷静さ。マルセルクがリスティアのフェロモンに煽られることなく、ただ、抱いている。

(僕のフェロモン……効いてない?えっ、発情期なのに?薬の、せい?)

 マルセルクは目を瞑り、リスティアから目を背けるようにしてようやく放った後、扉の向こうからトントン、とノックがされた。


『殿下、フィル様が……』

「……これで、十分中は満たされていると思う。リスティア、ゆっくり休め」

「あ……」


 顔を上げたマルセルクはそのまま、微妙な顔をして、出ていった。

 その、『ようやく一仕事終わった』かのような表情に、リスティアは呆然とした。

 マルセルクは休めと言ったが、まだまだ夜は長い。精を受け取って少し落ち着いても、またぶり返す。番になって多少短くなったとは言え、発情期は5日ほど続くのだ。


 抑制剤を打てば、せっかく取り込んだ子種を無駄にしてしまうため、リスティアはやはり、薬師団長から送られた張子――魔力のないマルセルクの精液入り――で、乗り越えるしかなかった。


 気持ち悪さを抑制する麻痺薬が切れると、やはり吐き気や頭痛となってリスティアに襲いかかってきた。常に鎮痛剤が手放せない。それはつまり、食欲減退の副作用もある。
 それなら麻痺薬無しで抱かれた方がいいかと考えるも、抱かれている最中に吐いてしまったら、多分、二度と修復出来ない。











 いくつ枕を犠牲にしたことだろう。

 毎回必ず、リスティアの発情期に重なるようにして、フィルの発情期が来る。

 ここまでくると、絶対に作為的なものだと、リスティアは確信していた。発情期が近いのは本当だとしても、こうぴったり重なるのは異常。

 自分で発情誘発剤を飲んでいるとして、何の罪もない。それで意に沿わない行為をアルファへ強要しているのならともかく、フィルの発情期と聞きつけたマルセルクが勝手に行っているだけ。

 ただのリスティアへの嫌がらせ。そして、それは非常に、有効な手だった。

 何故なら本当にフィルが『性欲処理』なら、マルセルクが行く必要はない。リスティアが結婚するまでしていたように、抑制剤を打ち、自分で慰めるか、あるいは、別のアルファに抱かせればいいだけ。


 フィルよりも優先順位が低いことを、思い知らされた。


『どうして初日にしか、来て下さらないのですか』

『どうして子猫を優先させるのですか』


 マルセルクを見れば、喉まで出かかる言葉。
 どんな返答が返ってきたとして、その言葉が真実だとはもう、思えなかった。

 リスティアは決して、聞かなかった。



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