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第二章 二回目の学園生活
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しおりを挟む混雑を極める学食にて、一人で静かに昼食を取っているリスティアに、何の気負いもせずに話しかけられる人間は限られている。
「リスティア様~っ!こんにちはぁ。プレゼントあるんですけどぉ、これ、要ります~?」
柔らかなミルクティーのような茶髪に、甘い桃色の、少し垂れた大きな瞳。
間違いなく、フィル・シュー男爵令息だった。四年後とそう変わらない美少年。
その後には、デレデレと顔を緩める宰相令息と、騎士団長令息とを引き連れている。
見たことのある視界だった。
ポン、と手渡されたのは、粗末な紙袋。そう、その中には、確かアレが……。
前回のリスティアは、うっかり紙袋をその場で開けてしまい、恥をかいた。
「……あれぇ、どうしたんです?開けてみてくださいよ~!」
「いいえ、このような贈り物は不要です」
無理やりフィルに握らせ返す。
すると、フィルはにやりと笑い、桃色の瞳を三日月に歪ませて、ガサゴソと中身を引っ張り出した。
「じゃ~~んっ!ほら、素敵でしょ?これならマルセルク様も、リスティア様にメロメロになること間違いなし!だってこれを着たぼくを……ふふふっ」
それは卑猥な夜着だった。フィルはそれをぴろんと広げて見せ、挑発的にリスティアを見つめる。
後ろの二人はヤレヤレ、という顔をして見守っていて、それが妙にリスティアの気に障った。
少し千切れた箇所のある、殆ど糸と僅かな布しかない、服とも言えない服だ。以前のリスティアならば顔を真っ赤にして放り出していた所だが……もう、違う。
純真無垢で耐性のなかったリスティアは、既に、死んでいた。
周囲の生徒たちは、リスティアがどう出るか、怖々と見守っている。それらの視線を意識しながら、フィルを見返し冷たく指摘した。
「使い古しを公爵令息に施そうとするなど、侮辱ですよ。……この件は公爵家から抗議します」
「へっ……!?えっ?じょ、冗談ですよ!あれっ、リスティア様、そんなんじゃ無かった、ですよね……!?」
いまさら上目遣いをしても無駄だった。フィルの持つソレを、摘むようにして紙袋に入れると、自身の魔法鞄の中に没収する。証拠の押収だ。
「後ろの二人も。黙ってみているということは同意しているということ。沙汰をお待ち下さい」
「えっ!?い、いや、こ、これはフィルの可愛い悪戯じゃないですか……!」
「そうですよ!狭量なのは殿下に嫌われますよ!」
途端に慌てる彼らのその言葉に反応はせず、黙々と食べ終わったリスティアは、ぷい、とその場を後にした。
彼らに言葉は通じない。それはもう、長い事経験してうんざりだった。
イレニアス公爵家にその旨をしたためれば、すぐに効果を発揮する。それは特にリスティアへの愛情と言う訳ではなく、公爵家の名前を守るため。ここまで馬鹿にされて何もしない、というのは、更なる被害も招いてしまう。
「ひどいんですぅッ、マル様ぁ、リスティア様が……っ!」
「そうですよ、殿下。冗談なのに通じなくて……」
「と言っているが、リスティア。真か?」
各実家に賠償を求められた三人が、マルセルクに泣きついて、その対面にリスティアも呼ばれていた。
髪一つも乱れる事なく、リスティアは佇んでいた。フィルの下品な悪戯に慌てる事も無い。慌てるどころか、心に小波すら立っていない。
その凜とした揺るぎない姿勢は、皮肉にも次期王太子妃に相応しく、その圧倒的存在感にマルセルクはゴクリと喉を鳴らしていた。
「マルセルク様との行為に使ったと思われる衣服を寄越してきたのです。例えそれが夜着でなくとも、高価なジャケットだとしても、男爵令息から公爵令息へ贈るものとして不適切です。この学生時代に一度痛い目を見た方がお学びになるのでは。そう考えると優しい方でしょう、違いますか?」
そう言いながら、マルセルクの前に証拠品をスッと出す。マルセルクもまた心当たりがあったのか、気まずそうに目を逸らし、額を抑えていた。
「……いや、違わないな。フィル達は一回外に出てくれ。リスティアと話したい」
「ええっ!マル様!このままじゃぼく、お小遣い無くなっちゃうんですよ~!?」
「はいはい、後でいくらでも買ってやるから。出て行ってくれ」
「それなら、はぁ~い……」
フィルは途端に納得し、ジロジロとリスティアを見ながら茶会室から出ていく。他の側近らも、リスティアを煙たいようなものでも見るかのような視線。
(後でいくらでも買ってやる、か……)
目の前に座るマルセルクには、前回の記憶は無さそうだった。あるのなら、死んだリスティアを見て驚いている筈だし、なにより。
(ほら、『正妻のご機嫌もとらなきゃな』、って顔をしているもの)
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