虚構の愛は、蕾のオメガに届かない

カシナシ

文字の大きさ
34 / 95
第二章 二回目の学園生活

21 マルセルク side

しおりを挟む

 そして悪夢は訪れる。



「お、お、王太子殿下……!」

「どうした、騒がしい」

「あっ、あっ、アンッ……~~!」

「はぁ、はぁ、はぁ」


 侍従が血相を変えてやってきた。部屋には、マルセルクと、フィル。それからマルセルクの側近二人もいた。久しぶりの行為に興奮し、朝も夜も構わず交わっていた所だった。


「ど、どどうかこちらに……!」


 侍従は混乱しながらも、――こんな享楽に耽っている部屋で話していい事ではないと――マルセルクだけを扉の方に誘導しようとした。

 面倒くさそうに起き上がったマルセルクは、雑に素肌の上にガウンを羽織る。
 その間にもフィルは他の男二人から上へ下へ注ぎ込まれて恍惚とした顔をしていた。


「……ふっ、エロいな。さすがフィルだ」

「アンっ、も、マルも……っ!」

「後でな。言伝を聞いてからだ」


 マルセルクには特殊な性癖があることを、そろそろ認めなければならなかった。

 それは複数人で事に及ぶことだ。
 他人がフィルを犯しているのを見るのも興奮するし、自分が犯しているのを見られるのにも興奮する。一番は、大勢を相手にしても善がっているフィルの、うっとりとしたどこか幼い顔が、何よりもマルセルクを滾らせた。

 リスティアを誰よりも愛している。それは間違いなく、永遠に、だ。

 何も身体を重ねるだけが愛ではない。リスティアが発情期で辛い時だけ、抱けば満足なのは、大事にしている崇高な愛だから。例えプラトニックでも、愛はリスティアに捧げている。

 しかしマルセルクの凶暴な性欲を満たすのには、フィルと仲間と共に交わる必要があった。

 婚姻からフィルが確実にマルセルクの子供を孕み、産むまでの丸三年、我慢していたのだ。
 そして男児を得、身体を回復させたフィルを見れば、あの性欲が爆発してしまった。


(この男を誘う下品なフェロモンが、何よりも効く。抱けば抱くほど馴染んでいく気がする)


 一晩で何回も、何人をも咥え込む行為で喜べるのは、フィルの才能に他ならない。これは、決して愛する、儚く純粋で綺麗なリスティアに向けることは出来ない、穢れた欲望。

 何故なら、対象がリスティアならば誰の目にも触れさせたくないし、肌に触れさせるのも我慢がならない。その点、フィルならいくらでも構わなかった。何なら、秘密裏にフィルを餌にし接待させることで、外交をスムーズにするという計画すらあった。

(フィルも喜ぶ仕事の上、国の利益にもなる。もう少し顔を広げさせてから、な)

 リスティアが発情期だと聞いたが、今回は我慢をしてもらおうと思っていた。何故なら、婚姻してから三年もの間、マルセルクはこの狂乱の宴を我慢していたのだ。もう少し堪能させてくれれば、次の発情期には必ず相手をする心づもりだった。

 だが、それは二度と叶わない。


「……リスティアが、死んだ……?」

「は、はいっ!い、い、今、現場を保存して調査中ですが……お、恐らく、自害、かと」


 すぐさまリスティアの部屋へと走った。
 いつもより長く感じる距離を全速力で走れば、薬師団長や魔術師団長も既に駆けつけており、その騒めきの中心には――――


「リスティアッ!!」


 妻が、死んでいた。
 番にしか分からない、リスティアの甘く、優しく、蕩けるようなフェロモンのうっすら漂う部屋。
 予定にはない礼服を身につけ、折目正しく寝台の中心に座り、喉笛を見事なまでに掻き切って。

 その真っ白な死に顔は、笑っていた。

 まるで、苦から解放されたかのように。
















「……なんだ、これは……」

(リスティアが、自ら死を選んだ……?)

 違うと思いたいのに、生々しいまでの記憶が、そうさせてくれない。

 冷たく硬くなったリスティアの体と、ぬるりとした血の感触が、手に染み付いているようで。

 そこを見れば、ただ、真っ黒のインクが付いていた。









しおりを挟む
感想 184

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する

SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する ☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

処理中です...