虚構の愛は、蕾のオメガに届かない

カシナシ

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第二章 二回目の学園生活

32

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「あっ、……っ!?」


 思わずアルバートを突き飛ばす!

 ピリピリ、ピリピリ。肌に電流が流れたみたいに粟立つ。

(すご……!)

 気持ちいいあまりに力が抜けて、倒れ込んでしまった。


「だ、大丈夫か!?ティア!」

「ひっ、……ああっ……だめ、触っちゃ、だめ……」

「ぐっ」


 あ……っ?
 視界からアルバートが消えた。身体が離れると、さざなみが引くように快感が遠ざかっていく。あれは一体何だったのかと思うくらい、静かに。
 それでも身体には、ひりつくような余韻が残っていた。

 目も当てられないほどはしたない姿を見せてしまったようで、やっとのことで起き上がれば、アルバートは床に蹲って顔を覆っていた。


「ご、ごめん、アル……!」

「ダメだった、か……?」


 乱れた襟元を直し、心配そうに窺ってくるアルバートに微笑む。ダメな訳がない。そんな事は一切ない。
 ああ、これが『良すぎる』ということか。今唐突に、ノエルの言葉を理解した。


「い、いや……とても、良くて、ビックリしたんだ。ああ、すごかった……」

「そんなにか……?」

「アルも感じたら分かるかも。僕のをまだ送ってないから、もう一度、いい?」

「わ、わかった。来い」


 気合い十分なアルバートの手を握り、魔力を送る。彼にも気持ちよさを与えられたのなら嬉しい、と願いながら。


「ふ……っ」


 ピクリとアルバートの肩が揺れた。その直後、逞しい両腕がリスティアの腰に巻き付き、寝台に押し倒される!


「アルッ!?うわ……っ」

「く……っ!」


 アルバートはリスティアのネックガードに食らいつこうとしていた。

(そこは……っ!)

 恐怖に身体が竦む。強張った身体に気づいたのか、アルバートは自分の唇を強く噛み、血の匂いが弾ける。

 これ以上は良くない。非常に良くないのに、押し倒された拍子に体がぴったりと重なって、互いに硬くなった欲望を、擦りつけ合ってしまう!

 ガリッ!

 突如として、体が離れた。
 アルバートは自分の腕を噛んでいた。

 荒い息をフーッ、フーッと吐きながら、ギラギラした銀眼でリスティアに懇願している。『逃げろ』と。

 噛んでいる腕から、ぽたぽたと血が流れ、シーツに染み込んでいくのを見て、彼もまた本能に抗っているのだとわかった。

 彼の気遣いを無駄にはしたくない。
『また明日ね!』と叫んで、リスティアはバクバクと騒ぐ胸を抑え、慌てて自室へと逃げ帰ったのだった。







(……どうしよう)

 それにしても、驚いた。ノエルもアルバートとも、魔力の相性が良さそう、だなんて。

 フェロモンの問題など、とうに解決している。ノエルは静謐せいひつな深林のような香りで、アルバートは檸檬レモンのような爽やかな柑橘系の香り。どちらもうっとりするほどいい香りだ。

(殿下は、僕の魔力は如何だったのだろう)

 魔力を送ったこともなければ、リスティアの精液などを摂取もしていなかった。それは、リスティアがオメガという、受け入れる側の性であったから。

 本当に、困った。

 正直な所、どちらも好ましい。
 そして客観的に見ても、相性はどちらとも良い。

 もしマルセルクのような、受け入れ難い嗜好を持っていたら……とも頭に浮かんだ。二人とも経験は無いらしいし、リスティアも自身の性癖など分からない。つまり、これは経験するまで分からないこと。
 そういうこと・・・・・・をするのに抵抗はあるか、と聞かれれば、ない、というのが答えだった。それほど二人に対する信頼は高かった。

 これではまるで、リスティアとフィルの間で揺れるマルセルクのようだ。

(……同じ事なんて、したくない)








 リスティアのマルセルクへの恋は、フィルが登場してから、不安との戦いだった。結婚してからは思い出したくない程の苦痛を伴うもの。

 それに比べて、二人への想いは、温かく、どこまでも優しい。手先から体の芯までぽかぽかと温められるような。

(これは、恋か、親愛か……?でも、キスしそうになって、すごくドキドキしたのは……単に距離が近かったから……?)



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