61 / 95
第二章 二回目の学園生活
48
しおりを挟む
「そうだったの……」
リスティアもまた、しっかり覚えていた。ノエルと初めて挨拶して、それっきりだった事を。
あの当時、リスティアは毒殺の危険性について学んだばかりだった。王族に嫁ぐと言う事は、危険と隣り合わせということ。根は小心者のリスティアは、自分やマルセルクの安全を考えてひたすらに鍛錬をした。無属性魔術である浄化と隠蔽は比較的直ぐに使えるようになった為、常に練習をしていたのだった。
「僕も、覚えているよ。あれに気付いたのはノエルだけだった。もちろんそうそう毒なんて入ってないから、気付かれたら『臆病者すぎる』と言われるかなと思ってて……キラキラした目で褒められるなんて思ってなかったから、思わず照れてしまったんだ」
「とても、可愛かったです。息が止まるかと思いました」
「大袈裟なんだから……」
「まさか。……今は増して、私の息の根を止めるのに十分な魅力ですが」
ノエルはそう言うと、リスティアの両の頬に手を添えて、口付けをした。ちう、ちうと吸い付くような音。
アルバートも背後から抱き付き、ノエルから離れたリスティアを奪う。ぐっと引き寄せられると、食べられるようなキスが降ってくる。くちゅくちゅと嬲るように舌を絡ませられ、リスティアはもぞもぞと身を捩った。
暑い。肌が発火するように、カッカッと火照る。
(気持ちいいの……好き……)
「んっ……ぷ、はぁ」
アルバートとも顔を離したところで、いつの間にか周囲から熱視線を貰っているのに気付く。
恋人達はそれぞれの世界に浸っていたはずだった。何故こんなに注目されているのか。さっきのキスシーンもしっかり見られていた!
混乱と羞恥に顔を隠すリスティアに、一番近くにいたカップルが慌てて弁明する。
「すっ、すみません!ど、どうぞ!続けてください……!」
「その、とってもかかかわいくてかわいかったので、思わず魅入ってしまって……すみません!」
その言葉に、ノエルが『そう?ありがとう。私たちの恋人は最高に可愛いから仕方ないね』などと惚気ていたが、すっかり殻にこもってしまったリスティアの耳には入らなかった。
「そうだ……僕、言わないといけないことがあって」
その帰り道。顔を冷却し終えたリスティアは、ごくり、と喉を鳴らした。これだけは、言っておかなければならなかった。
口付けを交わし、服越しに触られるようになると、やはりその先のことも想像してしまう。しかしそこには、リスティアにとって大きな関門が聳えていた。
「その、この前、婚姻した時の記憶があると言ったけれど……つまり、その、僕には経験があって」
「……リスティア。辛いのなら、言わなくても……」
「いや、これは言わないと……。その、僕の身体は、あまり、具合が良くないみたいなんだ」
その言葉に、二人は身を固くした。
しかし歩いているリスティアは、二人の顔を見ないようにしていた。こればかりは、目を見て話す自信が無い。だからどれだけ瞳孔が開いていても、気付かなかった。
「その……すごく、痛くて。きっと可愛くない、し、つまらないと思う。フェロモンも、相性は良くても薄いかもしれない。花紋も、蕾のまま花開くことは無いかもしれない。だから、君たちも愛想を尽かしてしまったら、すぐに言って欲しいんだ。番にさえなってなければ、まだ取り返しはつくから」
本当は、嫌だ。二人に『やっぱりやめる』と言われるのは。ただでさえ、リスティアは傷物のオメガなのに、経験した記憶もある。王族の伴侶に処女性が求められるように、処女信仰を持つ人もいる。
厳密には処女でも、リスティアは色々と知ってしまっているのだ。
だからこそ、傷は浅いうちの方がいい。別れは早いうちの方が……。
ぐっと手を握る力が入った、と思えば、リスティアは左右から抱き締められていた。
「…………私は、あなたにそう思わせた元凶を罵倒したい気持ちでいっぱいです。私たちは、花紋を愛しているのではなく、貴方を愛しているのです。いいですか、リスティア」
「……はい」
「あなたに痛みばかり味合わせて自分の快楽ばかり追求した男の事など、忘れさせて差し上げます。ろくでもない!あなたは被害者ですよ。さぁ、言ってごらんなさい。『ろくでもない!ど下手くそ!』と」
「え……?ろくでもない、……ど、何だって?」
「その通りだ。ティアを大切にせず、何が愛している、だ。奴が愛しているのは自分自身だけ。そんな自分本位な奴の事など考えるだけ無駄だ」
「た、たしかに……」
アルバートの言葉に、心の底から同意する。自分本位。マルセルクにとてもしっくりする言葉だ。
しかしそれでも不安の拭えないリスティアの顔色を見て、ノエルは提案をする。
「それでは、リスティア。我々に触れさせてくれませんか?絶対に痛みを感じさせることはしません。ただの…………触れ合いっこを」
リスティアもまた、しっかり覚えていた。ノエルと初めて挨拶して、それっきりだった事を。
あの当時、リスティアは毒殺の危険性について学んだばかりだった。王族に嫁ぐと言う事は、危険と隣り合わせということ。根は小心者のリスティアは、自分やマルセルクの安全を考えてひたすらに鍛錬をした。無属性魔術である浄化と隠蔽は比較的直ぐに使えるようになった為、常に練習をしていたのだった。
「僕も、覚えているよ。あれに気付いたのはノエルだけだった。もちろんそうそう毒なんて入ってないから、気付かれたら『臆病者すぎる』と言われるかなと思ってて……キラキラした目で褒められるなんて思ってなかったから、思わず照れてしまったんだ」
「とても、可愛かったです。息が止まるかと思いました」
「大袈裟なんだから……」
「まさか。……今は増して、私の息の根を止めるのに十分な魅力ですが」
ノエルはそう言うと、リスティアの両の頬に手を添えて、口付けをした。ちう、ちうと吸い付くような音。
アルバートも背後から抱き付き、ノエルから離れたリスティアを奪う。ぐっと引き寄せられると、食べられるようなキスが降ってくる。くちゅくちゅと嬲るように舌を絡ませられ、リスティアはもぞもぞと身を捩った。
暑い。肌が発火するように、カッカッと火照る。
(気持ちいいの……好き……)
「んっ……ぷ、はぁ」
アルバートとも顔を離したところで、いつの間にか周囲から熱視線を貰っているのに気付く。
恋人達はそれぞれの世界に浸っていたはずだった。何故こんなに注目されているのか。さっきのキスシーンもしっかり見られていた!
混乱と羞恥に顔を隠すリスティアに、一番近くにいたカップルが慌てて弁明する。
「すっ、すみません!ど、どうぞ!続けてください……!」
「その、とってもかかかわいくてかわいかったので、思わず魅入ってしまって……すみません!」
その言葉に、ノエルが『そう?ありがとう。私たちの恋人は最高に可愛いから仕方ないね』などと惚気ていたが、すっかり殻にこもってしまったリスティアの耳には入らなかった。
「そうだ……僕、言わないといけないことがあって」
その帰り道。顔を冷却し終えたリスティアは、ごくり、と喉を鳴らした。これだけは、言っておかなければならなかった。
口付けを交わし、服越しに触られるようになると、やはりその先のことも想像してしまう。しかしそこには、リスティアにとって大きな関門が聳えていた。
「その、この前、婚姻した時の記憶があると言ったけれど……つまり、その、僕には経験があって」
「……リスティア。辛いのなら、言わなくても……」
「いや、これは言わないと……。その、僕の身体は、あまり、具合が良くないみたいなんだ」
その言葉に、二人は身を固くした。
しかし歩いているリスティアは、二人の顔を見ないようにしていた。こればかりは、目を見て話す自信が無い。だからどれだけ瞳孔が開いていても、気付かなかった。
「その……すごく、痛くて。きっと可愛くない、し、つまらないと思う。フェロモンも、相性は良くても薄いかもしれない。花紋も、蕾のまま花開くことは無いかもしれない。だから、君たちも愛想を尽かしてしまったら、すぐに言って欲しいんだ。番にさえなってなければ、まだ取り返しはつくから」
本当は、嫌だ。二人に『やっぱりやめる』と言われるのは。ただでさえ、リスティアは傷物のオメガなのに、経験した記憶もある。王族の伴侶に処女性が求められるように、処女信仰を持つ人もいる。
厳密には処女でも、リスティアは色々と知ってしまっているのだ。
だからこそ、傷は浅いうちの方がいい。別れは早いうちの方が……。
ぐっと手を握る力が入った、と思えば、リスティアは左右から抱き締められていた。
「…………私は、あなたにそう思わせた元凶を罵倒したい気持ちでいっぱいです。私たちは、花紋を愛しているのではなく、貴方を愛しているのです。いいですか、リスティア」
「……はい」
「あなたに痛みばかり味合わせて自分の快楽ばかり追求した男の事など、忘れさせて差し上げます。ろくでもない!あなたは被害者ですよ。さぁ、言ってごらんなさい。『ろくでもない!ど下手くそ!』と」
「え……?ろくでもない、……ど、何だって?」
「その通りだ。ティアを大切にせず、何が愛している、だ。奴が愛しているのは自分自身だけ。そんな自分本位な奴の事など考えるだけ無駄だ」
「た、たしかに……」
アルバートの言葉に、心の底から同意する。自分本位。マルセルクにとてもしっくりする言葉だ。
しかしそれでも不安の拭えないリスティアの顔色を見て、ノエルは提案をする。
「それでは、リスティア。我々に触れさせてくれませんか?絶対に痛みを感じさせることはしません。ただの…………触れ合いっこを」
489
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
優秀な婚約者が去った後の世界
月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。
パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。
このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。
【運命】に捨てられ捨てたΩ
あまやどり
BL
「拓海さん、ごめんなさい」
秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。
「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」
秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。
【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。
なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。
右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。
前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。
※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。
縦読みを推奨します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる