虚構の愛は、蕾のオメガに届かない

カシナシ

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第一章 一回目の結婚生活

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 その話をした数日後。リスティアが思っていたよりもずっと早く、薬師団長はきてくれた。


「リスティア様には、殿下の魔力の耐性をつけて頂きます。こちらが殿下の魔力を抽出した魔石です」

「うわあ……」


 その声は、決して宝石箱の煌びやかさに感嘆したためではなかった。

 宝石箱の中に鎮座した小さな魔石は、マルセルクの深碧眼と同じ綺麗な色なのに、どこか禍々しいのだ。
 底に苦痛がうごめいて、目が合えば引き摺り込まれそうな。

 それは、リスティアの受けた魔力の印象で、そう見えているに過ぎなかったらしい。薬師団長からは、貴重な王族の魔力が含まれているため、扱いに気をつけるよう言われただけで、特に異常は見えていないらしかった。


「これを……?」

「一日に二度、お腹に当ててみて下さい。段々と耐えられる時間は長くなっていくと思います。しかし間違いなく拒否反応は起こるでしょうから、一緒に鎮痛剤も処方しておきます」

「これで、慣れるの?本当に?」

「…………五分五分、ですね。リスティア様の場合、珍しい程の拒否反応ですから。これでもダメな場合は、もう、麻痺薬を使って気持ち悪さを誤魔化すしか……」

「そう……分かった、まずは試してみるよ」


 これを乗り越えられなければ、マルセルクとの子は絶望的。耐える選択肢しかなくなる。

 早速その魔石を摘み上げた所で、やはり気持ち悪さが伝播してくる。
 服を捲って腹に当てると、……たった10秒ほどで耐えられなくなってしまった。












 魔石を腹に当て、耐性をつける日々が始まった。

 その間訪れる発情期は、マルセルクが『無体をしてしまわないように』と訪れることはなく、薬師団長の提供してくれる、魔力を抜いたマルセルクの精で乗り切らなければならなかった。


 マルセルクなりの優しさのはず。

 耐性を付けるまでの我慢。


 そう言い聞かせて、届けられた小包を仕方なく開ける。男根を模した張子は、注射器のような構造になっており、取手を押し込むと、マルセルクの精液がリスティアの中に注入されるのだ。


 どんな気分か。


 最悪、の一言だった。


 発情期は人肌が恋しくて恋しくて、寂しい。

 それなのに、こんな、物言わぬ無機物が相手。

 世界でたった一人、打ち捨てられたような心細さに苛まれながら、ただひたすらに己の浅ましい欲を慰める。

 マルセルクに願えば、フェロモンを付けたシャツを数枚用意してくれたが、肝心の本人はいない。シャツで自身を包んで呼吸をすれば、ひどく落ち着ける代わり、寂しさと虚しさが余計に際立った。

 同じ城にいる筈なのに、何故、触れてくれさえしないのか、と。

 快感を得たいのに、感覚はどんどん鈍って達しにくくなる。

 張子はリスティアの指より少し太いくらいで、無理のない大きさだった。痛いことはないが、温度もないどころか、中に詰められた精液はひやっとするほど冷たい。
 それで発情期が軽くなるのかと言えば、薬師団長の言う通り、無いよりマシ、という程度。


(どうして、僕は、番もいるのに一人なの)


 寂しさに耐えかねたリスティアは破壊衝動に駆られて、手元にあったペーパーナイフを、枕に突き立てた。プスリと穴の空く枕と、小気味良いその感触で、すこし気分が晴れた気がした。


「は、はっ……。はははははっ!」


 リスティアは何度も何度も突き刺した。
 この苛々を、治めるために。

 自分も誰も傷つけていない。
 枕はずたずたに引き裂かれても、感情を持たない。
 強いて言えば、自身の手首を少し痛めたくらい。

 だからか、発情期開けに来た薬師団長は黙ってリスティアの凶行を見逃した。新しい枕を、注文するように部下へ指示をして。


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