煩悩僧侶、ナースに恋する

神月 一乃

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煩悩僧侶、入院す

病院内にて

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 悪運強い禅雁ぜんがんにとって、毎度健康診断に行くのは当たり前のことである。
「……意外です」
「酷いですね、尋花ひろかさん。その辺りは半年に一度行っておりますよ」
「病院嫌いそうに見えたので」
 看護師である己の恋人にまで、「病院嫌い」と思われているとはこれ如何に。そう言いたくなる禅雁だった。
「私の場合、体力で色々補っているところがあるので、気づきにくいところがあるんですよ」
「で、今まで何か引っかかったことは?」
「ないですねぇ。一応検診の前だけは十時前に就寝するようにしているので」
 禅雁が行う健康管理はそんなものだ。

「健康な人って、過信しやすいのだと思っていました」
「それはありますね。ただ、私がそれをやってしまうととんでもないことになりそうなので」

 何故そんな話になっているかというと、明日禅雁は健康診断なのだ。……のだが。
「体調がちょっとおかしい」
 という理由で尋花の勤め先である病院へやってきたのだ。しかも今いる場所は理事長室。

 余談だが、理事長は医師免許を取得していない。とどのつまり「金を出すだけ」の存在である。

 ただ、禅雁がやってきたとなれば、他にも経営している病院にいようが、必ずやって来るのがこの理事長。そして何故か麻雀をやり始めたり煙草を吸い始めたり。病院にとってあまりよろしくないお人でもある。やのつく自由業にも就いていると言えば、この理事長の恐ろしさというものが分かるだろう。

「具合が悪い、と仰いますと」
 どこぞの病院で汚名を着せられいられなくなったという内科医が、今回は禅雁の担当である。そして、尋花ともう一人の看護師が一緒に来ている。
「腰のあたりがね、おかしいと言いますか。腹が下しそうになっていると言いますか」
「盛りすぎじゃないですかね」
 ぼそりと言ったのは、尋花ではなくもう一人の看護師だ。そして、尋花と禅雁が付き合っていることは知られている。
「あ、それはないですねぇ。私、尋花さんにしか反応しなくなっておりますし。ここのところ尋花さん夜勤でしょう。あ、溜まっているだけということでしょうか」
「駄目だ、この変態」
「光栄ですねぇ」
「ほめてねぇし!」
 普段から尋花と仲のいいこの看護師。色々と事情も知っている。それゆえの言葉なのだが、病院でする話ではない。
「真っ赤になった尋花さんもそそられますねぇ」
 そのあとも尋花に対して様々な言葉を投げかける。その中には卑猥な言葉もあるわけで。

 駄目だ、この変態。今度は件の看護師以外も同じことを思った。


 そんな中で誰よりも早く持ち直したのは件の内科医だった。
 問診等をした結果。
「結石だと思いますが、念のため色々検査をしましょう」
 ということになった。

 そこでまさか初期のポリープが見つかるとは誰も思わなかったのだが。


 それを聞いた尋花は「悪運は伊達じゃない」と口にしたという。
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