彼女と彼とお酒

神月 一乃

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彼と彼女の秘密

兄妹の会話は不穏

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 結婚を前提にお付き合いしています。そう桐生に宣言されたものの、プロポーズされていなんだけど? と帰ってから美冬は冬哉にのたまった。
「……向こうは付き合ってからずっと、そのつもりだったってことだろ。そのうち挨拶来るかもな」
 お付き合い自体、もうお断りしたい状態の美冬である。銘家は時折関わるくらいがちょうどいい、そう本気で思っている。

「そういう無欲さもな、ああいう人を引っ掛けるんだよ。ってか、安曇の御曹司と別れてみろ、静流の実家経由で色んな家が見合いを申し込んでくるぞ」
「謹んでお断り申し上げます」
 即答した美冬の頭を、冬哉は優しく撫でた。
 あ、これは子ども扱いするときの撫で方だ、それが分かれば頭に来るが、そこで拗ねようものならもっと子ども扱いされる。
「美形は観賞用になるが、腹は膨れない。金で腹は膨れるが、しがらみは要らない。家名で栄誉は得られるが、付随するものは要らない。要るのは必要な金だけ、だっけ?」
「……なんで今、それ言うの?」
 高校時代、静流を連れてきた時に美冬が言った言葉である。名言、とばかりに静流が気に入り、そのまま家人に伝えたという。
 家元と閑は頭を抱えたに違いない。
「それを地でいくお前が、やっぱり一番でかいの釣りあげたな、と」
「今すぐ放流したい」
「あ~~、スッポンは食らいついたら離れないんだな」
 どういう例えだ?

 ぽりぽりと頭を掻いた冬哉が、でかいため息をついた。
「昔っからお前はそうなんだよ。厄介ごと持ってくるのもお前だし」
「私何もしてないんだけど」
「……うん。お前に自覚がないっていうのはいいことだ。あれを計算ずくでやられたら、俺らの身がもたん」
 相も変わらず、酷い言い方をする冬哉である。

「本気なら、そのうち挨拶に来るだろ」
 その時はあの手この手でお断りしよう、そんなことを美冬は思った。

 それに気づいた桐生がその上を行く作戦を練ることになるのは、しばらくしてからとなる。
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