彼女と彼とお酒

神月 一乃

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彼と彼女の秘密

真貴、驚く

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 その一件、真貴は桐生伝手に聞き、腰が抜けるほど驚いたという。
「……美冬、あんたねぇ。そういう隠し玉、夏に使わなかったのよ」
「あの人たちが偉い有名人だなんて知りませんでしたし」
「いやね、あんたの義姉が高柳家の人だっていうだけで驚きもんよ。しかも姉は都築興産の社長秘書だと? あんた、どんだけの人脈持ってんのよ」
「ふぇ?」
 姉は姉だし、義姉は兄の大切な奥さんだし。それが美冬の言い分だ。
「それともあんたたちか? 高柳に出入りする人たらしの姉弟は」
「……何ですか、それ」
 意味が分からない。
 よくよく聞けば、高柳本家の一人娘、静流の夫とその兄弟を指すという。
 ……誰が聞いても間違いなく、美冬たちのことである。

人たらしとは失礼な、そう思ってしまうが、そういえば閑がそんなことを言っていた気もしなくもなく、反論できない。
「いくつか付け加えるとね、あんたのお姉さんたち、某有名国会議員が自分の孫の嫁にしたかったとか、多分こっちはあんたの実のお姉さんね。で、あんたのお兄さんの奥さん、つまりお義姉さんの方も、銘家で婿に出しても取り込みたい家だったのよ」
「……初耳です」
「で、そんな兄姉が隠す掌中の珠、少し年の離れた妹。つまりあんたね」
「そこまで大事にされていませんが」
 特に冬哉に。よく子ども扱いされるが、大事にされたという記憶はない。
「……あっそ。よくうちの会社に入社できたわ」
「入社試験頑張りましたから」
「そっちじゃなくて! あんたならうちみたいな中小企業じゃなく、マンモス企業で手ぐすね引いて待ってたのよ!」
 春文があの程度の報復で済んでよかったわね、などと言うあたりあの人たちにどれくらいの力があるのか聞いてみたくなってくる。
 ……が、本能がそれを拒否したため聞くに聞けぬまま終わったのだが。

「確かに、美冬あんたは人たらしだものね」
 とぽつりという真貴に、少しばかり失礼な! と思う美冬だった。

 その辺り課長とかに内緒にしてくださいね、と真貴に頼めば「当然!」と返ってきた。

 こうして美冬の秘密は真貴のみが知る内容となったのであった。
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