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絶望の中の絶望、幸福の中の絶望
しおりを挟むこの世界は、貴族という特権階級と、平民という二種類の人々に分かれていた・
貴族は平民に思い税金をかすばかりか、たびたび理不尽な暴力、あるいは平民に不利な法律を作り、いたぶってきた。
そんな中、ある大会が定期的に開催される。
それは、この世界で一番流行っている札あそび、
いわゆるカードゲームだ。
それは貴族も一般人も参加可能。
そして、負けたものは、勝ったものの言うことを何でも一つ聞かなくてはならない。
反則をしたらもちろんその場で負け。いわば平民も貴族も平等に戦えるという触れ込みだった。
それゆえに、後がなくなった平民が、財産をかけて参加することが多かった。
だが、、それは貴族が作った罠だった。
カードゲームにありがちなことだが、カード間にパワー差がありすぎるのである。
基本的にカードはパックからランダムにカードを得ることができる。が、しかしサーチという技法によって、レアで強いカードは全て店に並ぶ前に貴族が抜かれているのである。
また、一枚一枚をお金を払って買うことができたが、それも強いカードはそれなりの値段がするのだ。家一軒どころか、国家予算レベルのカードもあるのである。
それを何枚も買わねばならぬから、平民同士ならまだしも貴族相手に勝てるわけがなかった。
そして、、今回開催された大会では、ある特殊ルールが課せられていた。
このゲームは、HPが両者10から開始されるのだが、それがターン終了時に10から低くなった分だけ指を切られるというものだ。
例えば、10から7に減った状態でターンを渡す際、3つ指を切られるという、まさにデスゲームなのである。
この命知らずのバトルに、平民からある参加者が出場した。
それは信じられないことに子供だ。
その手にはボロボロのカードを持っている。
彼は、指にグローブをはめており、外套を着こんでいた。
出場する際に、不満を言わないという誓約書にサインした後、彼は第一回戦の相手と勝負する。
その大会のルール上のリスクから、その大会に出場する平民は少ない。だが、貴族は意外なことにたくさんいた。
どんな勝負でも、勝った相手がHPを1も減らさずにいるというのは珍しい戦いだ。
それなのに、何故リスクを冒してまで貴族が参加しているのか、、それは第一回戦の一ターン目から明らかになったことだった。
「ドローお!、私のターン。私は手札を二枚すてて、慈悲深い天使を召喚。
このカードは破壊不能。そして毎ターン終了前に私のHPを全回復するぅ!!」
「おっと!!●●選手!!一ターン目から飛ばしてきたー!!」
そう、カードゲームはカードに書かれていることなら何でもありのルール。
つまり、HPを減らさないカードでデッキを作ればいい。
彼が出したその慈悲深い天使は、平民にはとても手が出せないほど高級なカードだ。破壊するカードも限られている。
つまり、、これは貴族が平民をいたぶるためのショーでしかなかった。
この大会に出場している貴族は、人の苦しむ顔や絶望する顔を見るのが好きな悪逆非道の相手だった。
現に、この対戦相手は、今日も拷問で平民を痛めつけてからこの大会に出場しているのである。
外見は紳士的にふるまいながらも、彼は相手がどんな顔をするのかと今か今かと待ち受けていた。
「私のターンは終了です。次、どうぞ」
(へへへへ、、!!!バカが!!お前はもうおしまいなんだよ!!苦痛に顔をゆがめろ!!)
だが、、対する謎の子供は、それを見て淡々と言った。
「僕のターン。ドロー。僕は1コスト祓って、両成敗の器具を召喚」
「・・え?
「おーっと!!一ターン目から両成敗の器具を置いてきたぁー!!
両成敗の器具。それは、毎ターン終了前に、両者のHPの最大値を1下げる能力だ。
つまり、コストを払ったぶん、出したほうが不利になるカード。クソカードの一つとして知られ、安価な値段で取引されている。
だが、この大会のルール上、それは強い意味を持つカードだった。
慈悲深い天使は、毎ターン全回復するカード。しかし最大値を下げるならば、それ以上にはならない。つまり、確実に両者のHPが9になるのである。
それは、つまり、両者の指を確実に切らなければならないということだった。
「いや、ちょっと待て!!何故それを出す?!お前の指も切らないといけないのだぞ!!
そう言って、スタッフが指切りの拷問器具を両者に渡してきた。
だがそれを、子供はいとも簡単に自分の指に使う。
ぶしゅっと。
「っ!!」」
いとも簡単に、そしてそれに対し、本人は少し眉を顰めるが叫び一つ上げずこちらを見て言った。
「んっ、斬ったよ。おじさんもやって」
「な、な、な・・!!!
「やらないの?
この大会のルール。指を切らなければその時点で販促負け。
「・・できるわけないだろ!!」
「では、、これにて決着!!:
そして、負けたものは勝ったものに対して何でもいうことを聞かなければならない。
「んじゃ、死んで」
「は・・?死・・?」
「まあ、適当にオードソックスに、断頭台で良いよ」
「いや、待て!!それはおかしいだろう!!平民なら金とかあるじゃないか!!」
「あの、大会の主催者ですけど、、断頭台は近くにあるんで、、
「っ!!頼む!見逃してくれ!!金ならいくらでも払う!!
「あー、すいませんけど、一応信用第一なんで。それに法律でも決まっているんですよ。そむいたら商売できなくなりますって」
「や、やめろおおおおおおおお!!」
そうして、一回戦の貴族は死亡した。
その勝者・・謎の街灯をかぶった子供は、血まみれの指を縛って次の席へと歩いていく。
それに対して、興味を持った一人の記者が近づいて言った。
「ちょっと!君!!今のすごいわね!!一ターンで勝負を決めてしまうだなんて・・!それに、その指痛くないの?!」
「・・あなたは?
「私はこういう雑誌を書いているものよ!報酬は払うから、少し話してくれないかしら
「いいですよ。
「じゃあ、、なんであなたはこの大会に出場したいと思ったの?
「復讐のためですよ。ほらこれ
そう言って子供は街灯を脱いだ。
そこにはひどいケガややけどの跡があった。
「っ!
「これ、貴族にやられたんです。
僕はある貴族に母子でさらわれて毎日拷問を受けていたんですけど、ある日母が命を懸けて逃がしてくれたんです。
だから、僕はその時から貴族を殺したいと思ったんですよ。
まあ、全員は無理でも、死ぬ前にできるだけ多く道連れにしたいと思っています」
「そ、そんな・・!!そんな悲しいことがあっただなんて・・
「え?悲しいことですか?割とありふれていると思いますけど、、
「え?だってそんなの・・というか、おかしいわ・・なんでそんなに淡々と話すことができるの・・!!そんな思い出来事を・・!それに、なんで指を切った時、平気そうにしていたの・・?!
「痛い・・、まあ確かに痛かったですけど、、思ったほどではなかったです。拷問やあの時の痛みに比べれば・・
「・・っ!!
記者はようやく気が付いた。
拷問されていただけでなく、母親を殺され、今やこの子供は不幸なんてもんじゃない。
精神はもう死んでいるのだ。いや、死んだままになっているならどれほどよかったか。痛む体を動かしているゾンビでしかない。
対し、貴族はどうか。
平民から奪ったとはいえ、彼らは幸福のうちにいる。
そして今、幸福から絶望へと転落した一人の貴族がいた。
記者は思ったのだ。
恐怖とは希望の中に現れた不意の絶望なのだと。
幸福が大きければ大きいほど、小さな不幸をとんでもなく恐怖してしまうのだ。
そして、目の前の子供。
指を切られたのは、確かに痛かったのだろう。恐怖だったのだろう。不幸だったのだろう。
しかし、それは今も彼が感じている巨大な不幸の中で起こった、小さな不幸でしかなかったのだ。
だから、迷いなく自分を自分で傷つけることができたのだ。
(・・この子は、強いんじゃない・・ただただ可哀そうなんだ・・!!)
その感情は、保護欲なのか、それとも自分よりより高い存在を相手にした尊敬、畏怖の心だったのだろうか・・。いや両方だったのかもしれない。
ともかく、記者はこの子供の力になりたいと感じたのだ。
その後、彼はこの大会で優勝し、対戦相手の貴族を皆殺しにして報酬の大金を手にした。
そして、その後、記者はこの子供に近づいて、知恵を授けたのだ。
その資金を使い、より多くの貴族を殺す方法を・・。
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