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ベクトル
しおりを挟むその異世界は、魔法の力がない。
魔法、それは精神の力。
欲望を具現化する力。
だが、、この世界には魔法がない。
その理由は、何も意地悪だからではない。
この世界にいるもの、物質世界に存在する知的生命は、魔法を使えないのである。
物質とは、魔法の力でできている。
魔法は、あらゆるプログラムを埋め込むことも可能。
そのプログラムとはこうだ。
「物質の中に魔法を閉じ込めよ」
物質の中に魔法があるので、取り出すことにはエネルギーが必要。
魔法世界、あるいは精神的生命体にはそんなエネルギーは必要ない。
それらの周りは魔法を使う素が漂っており、彼らはそれを好きなだけ使い、世界を構築することができるのだ。
だが、物質の中に魔法が組み込まれていることによって、物質世界の生命は、物質を介してのみしか魔法を扱うことができない。また、無理に魔法を使うことはできるが、それには精神力が必要になってくる。
普通、知的生命というものは、魔法をつかえることが必須条件とも言っていいほど常識だ。
魔法を使えない知的生命は、異世界の中でも異端とも言っていいだろう。
何故そういった存在が生まれてしまったのか・・・
物質ではない知的生命は、あるベクトルを持っている。それは欲望だったり、ルーティーンだったりと色々だが、一言でいえば、自身の行動の基準である。
自分がどうしたいのか。
想像してほしい。何でもできる力を手に入れて、何をしたいだろうか?
それをすぐに答えられる者は、そう多くはないだろう。
しかし知的精神生命は「行動基準」、それが必須なのだ。
前述の通り、それらは魔法を使えることが普通なのである。
魔法とは、世界を構築する力であり、それを扱うにはエネルギーは必要ない。代償は必要ない。
ならば何が必要なのかというと、選択だ。
何をするのか。それが無ければ魔法は発動しない。
そして、昔々あるところに、魔法を扱えない知的生命、つまり、自らの行動基準がない、知的生命がいた。
それらは魔法を使うことができない。別の言い方をすれば、自身が進むべき道を迷っていた。
それらは願った。自らの進むべき道を考えたいと。じっくりと考えたいと。
矛盾しているようではあるが、魔法を使えないそれらは、魔法を使い、物質、物質世界を生み出した。
その世界の中でならば、魔法は発動せず、彼らは自ら進むべき道を考えることができた。
そして、科学という形で、物質を媒介して魔法を扱えることができるようになったのである。
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