青い鳥と金の瞳の狼

朔月ひろむ

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新生活 〜Side S〜

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「こうして二人は仲良く暮らしました……」
ざわざわとそこかしこで騒がしく、おしゃべり溢れかえる学食。
「って、ことで納得するか!!!」
僕の目の前に座る女子、藤澤実咲ふじさわみさきが吠えた。
「まあまあ、実咲ちゃん。声おとして…」
僕の横に座って実咲をなだめているのは、田嶋慶一たじまけいいちだ。
二人とも、僕の中学生時代からの友人。
ついでに言えば、中高大と持ち上がり組でずっと同じ学校だ。

無事入学式も終わり、新入生の僕らははオリエンテーションや授業やサークル活動などに忙しい日々を始めていた。
同じ学部の僕たち三人は、まだ他に友人も少ないことから、よく一緒に学食で昼食を共にしていた。
「ほんと、マジでアンタとの付き合い、考えるわ……」
お盆を横によけて、テーブルに実咲が突っ伏した。
「もうさぁ…これで相手と番ってないとか、おかしくない?」
テーブルに頭を乗せたまま、実咲が僕を睨む。
「慶一はわからないなんてズルい……」
口を尖らし、ブツブツと文句を言う実咲は、オメガだ。
僕の数少ないオメガの友人だった。
「知ってたけど、『狼』…ハンパない…」
友人として僕のそばにいる実咲は、僕についている貴俊のフェロモンが気に食わないのだ。
気に食わないというよりかは、貴俊の『狼』のフェロモンが怖くて仕方ない。
彼女のオメガとしてのランクはそんなに高くない。
だから、強いアルファのフェロモンは畏怖してしまう。
教室で僕の隣に座ろうとした実咲は、顔を青くして、少し離れた席に座ってしまった。
今、テーブルを挟んでこの距離がギリギリらしい。
彼女の他にも、僕のそばに寄ってきては顔をしかめていくオメガやアルファは多い。
僕としては、不必要な人間に寄ってこられないので大変助かっているのだが、親しい人間にも影響を及ぼすのは考えものだ。

「仕方ないだろ、慣れろよ」
「慶一はわかんないからそんなこと言えるのよ!」
実咲から責められる慶一はベータだ。
ベータはアルファやオメガのフェロモンを感じることはできない。
「ごめんね」
僕には謝るくらいしかできない。

貴俊との同居は想像以上に順調だった。
基本的な家事は家にいる時間が長い僕が担当。
貴俊は洗濯や食器を洗ったりと、できるものをやってくれている。
僕達が取りこぼした家事はハウスキーパーがしてくれるので、一人暮らしよりかは断然楽だ。
ただ、貴俊は思ってた以上に僕との距離が近い。
三人がけのソファでテレビを見ていれば、貴俊は僕のすぐ横に座る。
体が触れる距離に座って、貴俊はたまに僕の肩に腕を回して見ている。
僕が貴俊より後に帰ってきたら、なぜか『おかえりのハグ』が常態化している。
でも、別に番でも、付き合っているわけでもない。

「噂をすれば……」
学食の一角から、黄色い歓声があがる。
今年の新入生の中で一番のイケメン集団だ。
その中心にいるのは、貴俊だ。
彼の周りにいるイケメン達はアルファばかりらしい。
そんな彼らに近づき、仲良くしたいと考える男女が彼らを遠巻きに見つめている。
「相変わらず、すごいわね……」
『狼』である貴俊のそばにいられるのは、バース性が強いランクが高いアルファとオメガだけだ。
貴俊のそばにいるというのは、ある種のステータスを生みだす。
ランクの低いオメガの実咲は、あの集団から匂うアルファのフェロモンには負けてしまう。
実咲だけじゃない、実咲と同じようになっているオメガはそれなりにいるのだろう。
「蒼司って、やっぱりすごいわよね」
あのアルファ集団を前にしてもなんともない僕と実咲では、やはりオメガのランクの違い、というものが現れていた。
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