530 / 530
17章
昏睡
しおりを挟む宿に戻ってきて一時間も経たないうちにあの男性騎士が手紙を届けにきた。思っていたよりも早いな。
「んん? ねぇ、私、ピーターって人が倒れた原因、鑑定かけないとわかんないよ?」
「あれ? そうなんですか? 箝口令敷かれたの知ってて俺呼んだんじゃないんですか?」
「あぁ、それは昨日あんなに慌ててギルドに呼びに来たのに、騎士団本部に変わった様子がなかったから、隠してるのかな? って思って」
「それだけで、ですか?」
「うん。ギルマスが副騎士団長って言ってたから、団員の士気に関わる~みたいな感じかなって」
「なるほど……」
まぁ、プルトンから聞いた情報でわかってることの方が多いんですけれども。それは言ってはいけないし、大きな謎が残っているから直接鑑定と聴取をしたいところ。
何かを考えながらうんうんと頷いている男性騎士に話しかける。
「すぐ行って大丈夫? なるべく早い方がいいと思うんだよね」
「あーっと……箝口令のことがあるんで、一時間……いや、三十分後でもいいですか? 人払いをして誰とも遭遇しないようにしたいので」
「大丈夫だよ。三十後に騎士団本部到着? それとも三十後に宿出発?」
「本部到着で」
「了解」
急ぎ戻る騎士を見送った私達は軽く相談。プルトン情報を今一度共有と整理してからガルドさん達も一緒に騎士団本部へと赴いた。
時間調整をしつつ集合場所に到着したのは予定時刻の一分前。そこにはゼーハーと肩で息をする男性騎士がいた。中腰で膝に手を当てて息を整えていらっしゃる。
「え、大丈夫?」
「ま、間に合って、よかったで、す……案内、しますね……こっち、です」
ぜえぜえと息も絶え絶え。話すのも苦しそうである。全力疾走でもしたの?
呼吸が整いきる前に歩き始めた男性騎士を慌てて追いかける。
ちょっと休憩してからでもいいと思うよ? 人払いの都合上巻きたいのかもしれないけど。
以前サーシャさんが案内してくれた騎士像がある祈りの間は通らず、直接本部へと向かうみたい。
建物の壁沿いを進み、裏というか横というか……柱の陰、さらに植物で隠されるように、シンプルなドアはあった。今まで見たよりはちょっとだけ小さめで、〝隠しドア〟まではいかないものの、マジで使われていなそうな〝裏口〟なんだろうな。
ドアをくぐったあとは長い廊下を進み、何回も角を曲がり、階段を登り降り。途中から周囲の雰囲気が……学校のさ、特別教室のみの旧校舎(もしくは第二校舎)みたいな……ちょっと薄暗く、哀愁が漂っている感じに変わった。
時間にして十分以上。ようやく目的地と思しき部屋の前へと到着した。人を避けるためとはいえ、かなりの大回りである。それだけ機密扱いなんだろね。
騎士は……〝コンコン、ココココ、コッココン〟と、不思議なリズムでドアをノック。「大丈夫だ。入れ」とのサーシャさんの声が聞こえてからドアを開いた。
部屋にあるベッドは六つ。この部屋で寝かされているのは一人だけ。カーテンはないものの、そこだけパーテーションで病人の顔が見えないようにされていた。手前側の奥のベッドなのはドアを開けただけでは視界に入らないように、ってところだろう。
ベッド脇に立って私達を迎えたサーシャさんはプルトン情報通り覇気がない。ただ、聞いていたような虚ろな雰囲気ではなかった。
「今回協力してくれるとのこと、感謝する」
「サーシャさんの大事な人みたいだからね。内緒なら万が一にも人が入れないようにコレ使おうか」
「…………」
マジックバックから出したように見せた結界石を見たサーシャさんは神妙な顔で頷いた。それを見たジルがサッと設置に動き出す。さすがジル。行動が早い。
ドアは内開き。結界を張ってしまえばドアは動かない。私かプルトンの結界でもいいんだけど、アイテムを使った方がわかりやすいからね。
「ジルありがとう。さて、その人に鑑定かけてもいい?」
「あぁ。頼む」
サーシャさんが避けたところで件の彼に近付いて確認。布団から出ている顔は顔色が悪いくらいで眠っているだけに見える。犬耳さんってことは獣族だ。
鑑定は……
【ステータス】
【名前】 ピーター・ボールドウィン
【種族】 狼族
【年齢】 34歳
【職業】 副騎士団長
【レベル】 49
【状態】 毒・昏睡
【スキル】 剣術・槍術・棍術・槌術・格闘術・風魔法・雷魔法・乗馬・解体・罠感知・危険察知・魔力制御・身体強化・獣化
【耐性】 物理攻撃耐性・魔法攻撃耐性・毒耐性
【称号】 サーシャの幼馴染・ヴィルシル国パソヴァルの街副騎士団長・熱血漢・子供達の英雄
おぉ! かなり前に見たフレディ副隊長よりステータスが上だ。スキルも多い。犬だと思ったけど狼さんだったのか。勘違いしてごめんよ。そしてサーシャさんの幼馴染だったのね。納得。
プルトン情報通りに【状態】が毒。耐性を持っていることを考えると……対応できない毒だったか、それを上回るほどの強烈な毒だったか、ってところ?
「この人、毒に冒されてるね」
「毒ですか!?」
「なんで……」
「んーと……あった、あった。はい、サーシャさん。コレ、毒消しポーション。飲ませてあげて」
騎士が体を支え、サーシャさんが彼の口にポーションを流し込む。昏睡と書かれているだけあって目を覚ますことはないが、少量ずつのポーションは飲み込んでいる。
この世界って意識なくても飲むのがすごいよね。誤嚥しないんだよ。地球だったら点滴一択じゃない?
なんてことを思いつつ、再び寝かされた彼に鑑定をかけ直した。
「んんん? このポーションじゃダメだった? 毒全般に効くハズなんだけどな?」
「え……そんな……」
「なんとかならないんですか!?」
「お静かに。セナ様の考察の邪魔をしないでください」
いつもならすぐ効果が出るのに、【状態】の鑑定結果に変化はナシ。ソイヤ村で怪しい【腐食毒】も治した毒消しポーション。さらにいえばアルヴィンに付き合ってもらって効能が上がった上位版である。
プルトンの《毒なのは確定なんだけど、なんか変な感じがしたのよねー。現場にも毒になる要素なんてなかったし……》というセリフの違和感の正体がコレ?
「サーシャさん、そもそもなんでこうなったの?」
「――っ! まずは騎士団の話からしよう。先日話した通り、不法入国者や魔物を警戒している」
目を合わせて問いかける。サーシャさんはハッとした様子で語り始めた。
不法入国者のチェックのために騎士団は二人一組で国境沿いの見回りをしている。昨日ギルドに呼びに来た女性騎士ともう一人の男性騎士の二人で国境の見回りをしていた。そこへピーターさんがやってきて「異常はないか?」と声をかけた。ピーターさんは自身の仕事の合間に個人的に様子を見に行っているらしい。で、会話をしている最中、突如ピーターさんが男性騎士を突き飛ばした。次の瞬間、岩が真上に落ちてきた。本来岩の下敷きになるところだった男性騎士は無事だったが、庇ったピーターさんが下敷きに。ポーションで傷を治したハズなのにピーターさんは目を覚まさなかった。ピーターさんを慕う騎士は多く、目を覚まさない理由がわからないため、それぞれの任務に影響が出ないように騎士団長が箝口令を敷いた。サーシャさんが戻ってきていることを知ったあの女性騎士がサーシャさんを呼びにきた……ということだった。
うん。プルトンから聞いた情報と差異がないね。そして落ちた岩を見に行ったものの、毒物らしきものは見当たらなかったと。
「うーん……もう一回鑑定してみるね」
頼むぞ、鑑定クン!
目に力を込めて、【状態】を注視する。以前グレンが眠り病になったときと同じように、モヤモヤと文字が変わっていった。
【状態】 麻痺毒・神経毒・融解毒にて昏睡
えぇ!? 三種類の毒!? これ、毒盛られたんじゃないの???
1,200
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1813件)
あなたにおすすめの小説
白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!
ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。
ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!?
「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」
理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。
これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!
饕餮
ファンタジー
書籍化決定!
2024/08/中旬ごろの出荷となります!
Web版と書籍版では一部の設定を追加しました!
今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。
救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。
一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。
そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。
だが。
「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」
森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。
ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。
★主人公は口が悪いです。
★不定期更新です。
★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【完結】魔王様、溺愛しすぎです!
綾雅(りょうが)今年は7冊!
ファンタジー
「パパと結婚する!」
8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!
拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。
シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
挿絵★あり
【完結】2021/12/02
※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過
※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過
※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位
※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品
※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24)
※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品
※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品
※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
更新ありがとうございます♪
嬉しいです♪
身長が伸びないはもしかして寿命が長いから成長が遅いとかかな?
そうだった場合いつ気付くんだろう?
漫画5巻予約しました。
たくさん追加されてて、余計に嬉しかったです。
またまたお風呂分を買うのを忘れたので、もう一冊買います‼️