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5章

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 二人はイマイチ状況がわかっていなかったみたいだけど、私の発言を聞いてギギギギっと壊れたロボットのようにこちらを向いた。

「二人ともギルド壊すつもりだったの?」

 再び二人に問うと二人とも何故かその場で正座になった。

〈すまん。久しぶりに動いて楽しくなってしまった〉
「申し訳ございません。今まで以上に動けたので……」
「周りのこと考えなきゃダメでしょ? 誰か怪我したらどうするの? ギルド壊れたら怪我人がいっぱいでちゃうでしょ?」
〈「はい……ごめんなさい」〉


 二人がショボンと反省している姿を見てこれ以上怒れなくなってしまう私は甘い。
 グレンは汗ひとつかいていないけど、ジルベルト君は息があがり汗が流れていて疲れているように見える。そこは古代龍エンシェントドラゴンとの差だろう。
 
「ジルベルト君の服も破れちゃってるし、買いにいかないと。とりあえず、もう充分武器は試したからいいよね? この地面も直さないとだし……グレウスお願いしてもいい?」
『はい!』

 元気良く返事をして一度私の頬にスリスリとしてから、グレウスが肩から降りて土魔法を使いボコボコだった地面を元に戻してくれた。
 再び肩に登ってきたグレウスを撫でてお礼を言う。グレウスが土魔法を使えて助かった。あのボッコボコを自力で直すとなったら大変だ。

「ジョルガスさん、ごめんなさい」
「いっ、いえいえ! 元に戻していただきありがとうございます。グレン様方もすごかったですが、やはりセナ様はお強いのですね。さすがはあの魔獣を倒したお方です」

 ジョルガスさんが言うと一気にザワザワと騒がしくなり、ザワザワの元を見てみるとグレンとジルベルト君の戦闘音を聞いて集まっていた冒険者達だった。

「失礼いたしました。もうよろしいのでしたらこの後、執務室の方に来ていただいてもよろしいでしょうか?」
「わかりました」

 冒険者達に注目され居心地の悪い私は二つ返事でジョルガスさんの案に乗り、全員で執務室に移動した。

「申し訳ございません。戦闘のすごさとセナ様の結界を見て、冒険者達がいることを失念しておりました」

 執務室のソファに座るなりジョルガスさんに謝られてしまった。

「いえ。注目されてどうしようかと思っていたので助かりました」
「セナ様。一度簡単な依頼で構いませんので受けていただくことは可能でしょうか?」
「依頼ですか?」
「はい。セナ様とジルベルト様はパーティを組んでいらっしゃいます。ジルベルト様の戦う姿を見た他の冒険者達は、ジルベルト様がHランクなのは納得しないと思うのです。おそらく注目されてしまうと思います」
「あぁ……なるほど」

 冒険者じゃなければ街の人達はあまり危険な魔物がいる街の外には出ない。
 登録したてのHランクなのになぜ戦うすべを持っているのか。なぜ強いのにHランクなのか。ってところだろう。
 ジルベルト君の出生しゅっせいは明かせない。注目されてバレたら大変だ。

「わかりました。依頼って何でもいいんですか?」
「はい。カリダの街で受けていただいていた薬草採取でも構いません」

 薬草採取でいいのならラッキーだ。前に採取したものも残っているし、キヒターからもたくさんもらった。

「薬草ならすぐに納品できます」
「なんと! 本当ですか?」
「はい。何をどれだけ納品すればいいですか?」

 ジョルガスさんに聞きながら、バレないようにメニューから無限収納インベントリを開いて薬草の数を確認する。サヴァ草やゲンコツ草とその他おもな薬草は500本以上の在庫があった。
 キヒターにもらった時は山になっているのを確認しないまま、全て無限収納インベントリに入れてしまったからこんなにあるとは思っていなかった。確認してビックリだわ。

「そうですね……サヴァ草とゲンコツ草を納品していただけると助かります。数はセナ様にお任せいたします」
「はーい。サヴァ草とゲンコツ草なら、両方100本ずつでいいですか?」
「そっ、そんなによろしいのですか?」
「はい。まだありますので」
「ありがとうございます!では、えーっと………………こちらにお願いいたします」

 ジョルガスさんは部屋をウロウロして、書類が入っていた箱をひっくり返し、その空箱をテーブルの上に置いた。

「えっと……これに入れちゃっていいんですか?」
「はい。大丈夫です」

 ジョルガスさんがいいならいいかと、テーブルの上に置かれた箱にポンポンと薬草を入れていく。

「これでサヴァ草とゲンコツ草100本ずつです」
「ありがとうございます。早速鑑定に出してまいりますので少々お待ち下さい」
「はーい!」

 ジョルガスさんは箱を持って出て行ったけど、すぐに戻ってきた。

「ジョバンニに聞いていましたが、セナ様は採取の腕が素晴らしいですね」
「ありがとうございます」
「セナ様のおかげで平民も暮らしやすくなりました。今たみは、影を落としていた過去の事件も解決され、魔獣の討伐で国を救うだけではなく平民をも救った救世主のセナ様の噂で持ちきりです」
「え゛!?」

 ジョルガスさんの衝撃の発言に頭が働かなくなる。

「え。何その噂」
「おや。ご存知ありませんでしたか」
「いや。ネライおばあちゃんのお店でチョロっとは聞いた。チョロっと聞いたけど……なんでそんな噂が流れてるの……」
「国王陛下が“我が国に現れた天災級の魔獣を討伐していただけたのにもかかわらず、我が国の臣下である貴族が恩を仇で返したことにより戦争になりえたが、彼女のおかげで戦争にならずに済んだ。彼女の意向を無下にしてはならない”と、役所への通達と民衆へのおふれがでました。その恩人は青みがかった銀髪に翠の瞳を持つ大変可愛らしい少女らしいと噂になっておりました。そして、その少女が国の騎士団でも解決できなかった問題を解決して、平民をも救ったと瞬く間に噂が広まっています」

 ジョルガスさんが説明してくれたことを聞いて絶句する。

「まさか……もしかして歩いている時けられてたのって……」
「救世主であるとわかったからではないでしょうか?」
「マジか……」

 何それ。そんな注目を浴びるなんて……もう街を気軽に歩けないじゃないか……
 確かに元々はネライおばあちゃんのためだったけど、事件が解決したよって安心できるように目立たせて捕まえたせいでこんなことになるなんて……

「セナ様は目立ちたくないと仰っていらっしゃいましたが、噂は広がるのが早いですのでしばらくは注目されてしまうかと思います」
「えぇ!? そんなぁ…」

 ジョルガスさんに追い打ちをかけられて意気消沈。
 私の平穏は? 仮に目立ったとしてももっと普通に接してもらえないの? ネライおばあちゃんは普通にしてくれたのに……

「先程の戦いも素晴らしかったので、もしかしたらパーティメンバーへの勧誘がくるかもしれません」
「えぇ……」
「もし、冒険者がしつこく絡むようなことがあれば教えて下さい。ギルドから注意いたします」
「はい……ありがとうございます」

 ジョルガスさんが気を利かせてくれたけど、こうなったら急いで馬車を作った方が良さそうだ。
 国王も貴族には目を光らせることができると思うけど、平民にまでは目が届かないと思う。さっきの戦いを見て絡んでくる無謀な冒険者はいないと思いたい。



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