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5章
訓練場
しおりを挟む昨日リバーシを回収しなかったから、またみんなオールしてるかなと思っていたけど、目が覚めるとみんなちゃんと寝ていた。オールはしなかったらしい。
今日は午前中に時間があったらジルベルト君に必要な小物を買おうと、ジルベルト君も一緒にネライおばあちゃんの服屋さんに向かうことにした。
ジルベルト君は慣れているのか人が多くても平気な様で、グレンに抱っこされている私の横にピッタリと並んでいる。
グレンの足の長さのスピードに付いて来られるなんてすごい。
平民エリアに入るとなぜか注目され、避けられるのは何故なのか。
グレンは歩きやすいと言っているけど、昨日の騒ぎで良くない噂でも立ってしまったんだろうかと不安になる。
ネライおばあちゃんの服屋さんの周りには人垣ができていて、貴族の馬車も何台も止まっていた。
何だろうと近付くと何やら揉めているらしい。
「なぜワタクシが入れないのよ! キィー! 平民の店のくせになんなんですの!」
一人の貴族のおばさんがお店の前で騒いでいるのを見て、また厄介事かとため息をついてしまう。
おばあちゃんはお店の中にいるお客さんの対応に追われているらしく出てくる気配はない。
ブラン団長を呼ぶべきかと考えていると、騎士団が来ておばさんに事情を聞いてどこかに連れていった。野次馬の誰かが呼んだらしい。
「これはセナ様。このようなお見苦しい所をお見せして申し訳ございません」
騎士団の先頭を歩いてきた人物に話しかけられ誰だと首を傾げてから、よく王城の入り口に立っていた人だと思い出した。
「あぁ! お城の門番してるお兄さんだね!」
「はい。覚えてていただき光栄です」
門番の人にキッチリとお辞儀をされた。
門番の人には簡単に事情を聞かれただけで済み、おばあちゃんのお店に入ると貴族の関係者らしき人達が二組いた。
おばあちゃんに服を作ってくれと交渉しているらしいけど、おばあちゃんは首を横に振っている。
「おばあちゃん! おはよう!」
おばあちゃんが困っているように見え、声を張って挨拶した。
「セナちゃん。おはよう。直しは終わってるよ。早速試着するかい?」
「うん!」
貴族の関係者を放置しておばあちゃんに試着室に案内してもらい、グレンが着替えている間におばあちゃんに何があったのか聞いてみる。グレンがパーティーで着た軍服を作れと言われているらしい。
「また私のせいだね……ごめんなさい」
「セナちゃんのせいじゃないさ。あれはセナちゃんが考えたデザインだからね。他の人には作るつもりはないんだよ。ずっと平民相手に商売をしてきたからねぇ。貴族の相手は荷が重いんだよ」
おばあちゃんはハッキリと断っていたらしい。
おばあちゃんが作らないと言っても貴族は納得しないと思う。
私が考えたデザインではないけど、貴族と一緒なのは嫌。何かいい方法はないかと考える。
試着が終わったグレンを見てみるとやっぱり似合う。直してもらったところも理想そのものになっていて大満足!
二着ともチェックが終わってホクホク顔で試着室から戻ると、商会のお兄さんとブラン団長がきていて貴族関係者はいなくなっていた。
おばあちゃんにお金を払おうとするといらないと言われてしまったけど、次が頼みにくくなるから受け取って欲しいと力説して大金貨3枚を支払った。ちゃんと払いたいのに、これ以上は受け取れないと納得してもらえなかった。
ブラン団長は馬車できていたらしく、おばあちゃんに見送られて馬車に乗せてもらう。
「……ずっと何か考えているがどうかしたのか?」
ブラン団長に聞かれたので、先程の貴族のことを説明するとブラン団長も悩み始めてしまった。
デビト・ワーレスの家に着き、地下室の魔道具をウェヌスにパパッと解除してもらうとブラン団長に驚かれた。
この手の魔道具は魔法省の人でも解除に時間がかかるらしい。
「……セナはこの後どうするんだ?」
「お買い物しようかと思ってるよ。ジルベルト君の武器とか買おうと思って」
「……そうか。ジルベルトの得意武器はなんだ?」
「僕は今まで暗器を使っていたので……片手剣と短剣は使ったことがありますが、得意かどうかはわかりません」
「……なるほど。それなら、一度適正を見た方が良さそうだな。武器屋だと試せないから、冒険者ギルドで試すのがいいだろう」
なるほど。そこまで考えてなかった。
早速行ってみると言うと、「馬車で送る」と返されたので優しさに甘えることにした。
冒険者ギルドに着くとブラン団長がジョルガスさんに説明してくれ、ギルドの地下にある訓練場と一通りの武器を貸してもらえることになったのでみんなで地下に向かう。
ブラン団長はジョルガスさんから許可をもらうとお仕事に戻っていった。
ギルドの地下の訓練場は土の地面で学校の体育館ほどの広さがあり、何故か競技場みたいな観覧席もあった。
三人ほど人間サイズの藁人形に向かって魔法を放っている人達がいた。おそらく魔法の練習でもしているんだろう。
私達はジョルガスさんの案内のもとその人達から離れた場所に移動する。
〈我が相手をしてやろう。対象があった方がいいだろうからな。我が見極めてやろう〉
「グレン様直々にお相手していただけるとは、ありがとうございます。グレン様に納得して頂けるように頑張ります」
試すって振り回して確認するだけじゃないのかとジョルガスさんと顔を見合わせてしまった。
グレンもジルベルト君もやる気満々で決定事項らしい。
とりあえず怪我はしないようにねと念を押してからグレン達から離れた。
ジルベルト君はオノを持つとキッチリとグレンにお辞儀をしてから突っ込んでいった。
ジルベルト君がオノを振り下ろすとグレンが避ける。
ジルベルト君はオノが地面に刺さる前に手首を返して刃先の向きを変え、振り下ろした勢いのまま下からグレンに向かって切り上げようとしたけど、グレンはオノを片手で受け止め、近付いてきたジルベルト君を殴ろうとした。
ジルベルト君はグレンの攻撃を避けると後方にジャンプして距離を取った。
〈ほう。扱ったことがあるようだな〉
「ありがとうございます」
いやいや! “ほう”じゃないよ! 何でそんなに楽しそうなの!?
お試しとは言い難い攻防に唖然としてしまう。
その後、派手な音を響かせながらも満足したのかオノのお試しが終わった。
オノが終わるとハンマー・弓・両手剣と順番に試していってるけど、これまたお試しとは言えない戦闘音が訓練場に響き渡っている。
ジルベルト君は慣れていないと言っていたのに全ての武器が扱えるらしい。
〈見た感じだと弓・片手剣・短剣だな〉
「はい。僕もそう思います」
〈わかったらもう一度だ。今度は我も攻撃しよう〉
「かしこまりました」
え!? まだやるの? 「我も攻撃しよう」って言ってるけど、さっきも殴りかかってたよね?
私が困惑している間にも再びお試しとは言えない戦闘音が響き渡り始めてしまった。
しばらくすると戦闘音を聞きつけたのか観覧席には冒険者が集まり始めているし、魔法の練習をしていた人はいなくなっていた。
観覧席にきた冒険者の人達は野次を飛ばし盛り上がり始めてしまった。
ジルベルト君のどこが出来損ないなのかがわからない。武器も全てそこそこは扱えているし、無駄な動きはあるもののスタミナもある。充分チートだと思う。覚醒したせいなのか、そこら辺の冒険者より強いと思う。
見守っていたものの、どんどん戦闘音は激しくなるし、ジルベルト君の服は用意してもらった普通の平民服だからか破れちゃっているし、地面はボコボコなんてもんじゃなくてボッコボコ。砂ぼこりが舞い二人がぶつかり合う度に空気が震える。途中から人には結界を張って被害が出ないようにはしたけど、二人は夢中で周りを気にしていない。
これ以上続けていたらギルドが崩壊してしまうかもしれない。
二人の間に入って止められなくはなさそうだけど、身長からして危ないだろう。
それならと二人がぶつかる寸前に個々に小さな結界を張ると、私の狙い通りに結界に阻まれ二人が止まった。二人とも結界に勢い良く体当たりした感じだ。顔をぶつけて痛そうではあるけど、周りを考えていないんだから自業自得だと思う。
「ねぇ、お試しって言ってたよね? 二人ともギルド壊すつもりなの?」
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