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9章
奪われる時間
私は一瞬にして魔力溢れる空間に立っていた。
淡白く発光していて、十メートルほど先に小さなログハウスが建っている以外何もない空間。
「クラオル? グレウス? ポラル? ウェヌス? みんなドコ!?」
キョロキョロと見回しても、一緒にいたはずのみんながいない。念話しても通じず、ウェヌスの指輪も作動しなかった。
完全に一人だけ隔離空間に囚われたらしい。
「マジか……ウェヌスもくっ付いてたのに……」
転移もできず、この先のログハウスに行くしかない。
自身に結界は張れたから魔法がつかえないわけではないみたい。
緊張から唾を飲みこむと、ゴクリと音が鳴った。
一歩一歩進んで、覚悟を決めてログハウスのドアノブを握る。
ドアがすんなりと開くと、男性の声が聞こえた。
「ついに訪れる者が現れたか……」
「誰!?」
「神に守られし女子よ。ここは私の空間だ」
どこからか光の粒が集まり、人型を形作っていく。
発光が落ち着くと、そこにはジルを大人にしたような男性が立っていた。見た目は二十歳くらいに見える。
「お初にお目にかかる。私はアルヴィン・プラティーギア。子孫が大変迷惑をかけた。心から謝罪する」
「幽霊?」
「幽霊とは?」
「んと、ゴーストってこと」
「少々異なる。私は既に肉体は死んでいる。思念体だ」
それはオバケと何が違うのかと思ったけど、ラチが明かなさそうだから止めておいた。
アルヴィンさんは、直接見たわけではないから細かいことはわからないけど、子孫が起こした問題についてはわかるらしい。
何でわかるのかを説明してくれたけど、小難しい単語ばかりで私には理解できなかった。たぶん血で感じるみたいな説明だと思う。ちょいちょい子孫の愚痴になり、そっちは理解できちゃったのが悲しい……
「まぁ、いいや。聞きたいことがあるんだよ」
「私にわかる範囲であれば。その前にそなたの名を聞いてもよいだろうか?」
「あ、ごめん。私はセナだよ。セナ・エスリル・ルテーナ」
「ふむ。セナか……善き名だ。して、質問とは?」
今のヒュノス村について説明した後、エルフの森の隠れ家に行った話をすると、アルヴィンさんは首を傾げた。
「私の日記を読んだのだろう? 当時はセナが言う症状ではなかった。鑑定結果を考えると、神の使いに何かあったのだと私は思う」
「何かって?」
「それはわからない。当時、神殿には鍵などかかっていなかった。まずは神の使いに会うべきだ」
アルヴィンさんは鍵開けの魔法を教えてくれた。魔力を細くして鍵穴に通すやり方だった。針金でピッキングする泥棒みたいで、顔が引きつってしまったのは仕方ないと思う。
「セナよ。頼みがあるのだが……」
「なーに?」
アルヴィンさんのお願いは、ジルについてだった。もし可能なら、これからも唯一の生き残りと言っても過言ではない子孫を導いて欲しいと。
「ジルが一緒にいたいって思ってくれてる限りは、一緒にいるつもりだよ。私は一緒にいたいけど、ジルが嫌なら強制はできない」
「そうか……セナは心優しいのだな……時間が迫っている私には朗報だ」
時間が迫っているとはどういうことかと聞いてみると、子孫である老害達が負を重ねすぎたからあと数十年しか持たないと返された。
思わず「充分長ぇわ!」とつっこんでしまったのは私だけではないと思う。
「思念体ならジルに憑くことってできないの? そしたらその目で見守っていけるじゃん」
「やり方を知らぬ」
「うーん。クラオルがいないからガイ兄にも連絡が取れないんだよね……って、そういえば時を奪うってどういうこと?」
私が聞くと、この場にいるのは私の精神で、本体はあの書庫にいるままだと説明された。
「ここと外では時間の流れが違う。例えここで一日過ごしたとしても、外ではさほど経っていない」
「なるほど……実際に年取るワケじゃなくて精神だけってことね。あの修行大好きな主人公のバトル漫画の修行の空間みたいな感じか……」
そういえば神界もそうだったかも。神界でパパ達とゆっくり過ごしても、戻ったときにあんまり時間が経っていないことがよくあった。
中身三十路からしたら大差ないわ。すでに思考回路が五歳児じゃないことも周知されてるし。
「安心してゆっくりしていくといい。ここを訪れたのはセナが初めてだ」
嬉しそうに私に微笑みかけるアルヴィンさんに気が抜けてしまった。
どうせならと薬草について質問を投げかけると、だんだんとヒートアップし始めてしまった。
実際に時間は経過しないとしても体感では三時間以上知識を披露してくれている。
落ち着くように無限収納からジルに淹れてもらった紅茶を出すと「久しぶりだ」と嬉しそうに飲んだ。
「これはジルが淹れてくれた紅茶だよ」
「まだまだだが及第点としておこう。先程から出てくるそのジルという名の者が私の子孫か?」
「そうだよ」
気になるみたいなので、元々の名前はトリスタンだったこと。祖父である老害に虐待されていたこと。キアーロ国から今までのことを教えてあげた。
「トリスタンとは〝労働者・悲しみの涙〟という意味の名だ。可哀想に……しかしジルベルトでジルか。面白い名を付けたな」
クツクツと楽しそうに笑われ、ジルの名前の意味もわかっているんじゃないかとドキッとした。
「しかし、セナは面白い。私が生きているうちに会いたかったものだ」
「会ったらどうしたの?」
「付いていくに決まってるだろ? 愉快な旅になるだろうな」
「それはどうだろう……」
面白そうだと一緒にいることになった精霊二人と、グレンを思い出して苦笑いが零れてしまった。
果たして彼らは楽しい旅だと思ってくれているんだろうか……迷惑かけまくりだけど、そう思ってくれてたら嬉しいな!
暇を持て余しているらしいアルヴィンさんは、私のことも聞いてきた。
アルヴィンさんには、私が神聖な気配に護られているように見えるらしい。
パパ達からの加護をもらっていることを教えると、さらにいろいろと聞かれて、結局この世界にきてからのことを説明することになった。
異世界である地球のことはさすがに言えない。嘘は付いていないから、かなりボカした内容になってしまったけど、アルヴィンさんは特に気にした様子はなかった。
「そろそろ戻ろうかな?」
「そうか……残念だ」
「どうやって戻るの?」
「む? 考えていなかったな……」
「は!?」
「時間はたっぷりある。セナが戻れる方法を私も考えよう」
「いやいやいや!」
いつ帰れるかわかんないじゃないの! マイペースすぎでしょ!
ここで一生を終えるなんて冗談じゃない! 起きたときに私の体が生きているとは限らないし、グレン達のこともある。何よりもクラオル達に会えないとか無理!
こうなったら…………
「パパーーーー!!!」
思いっきり息を吸い込んで、助けてくれとパパ達に向かって叫んだ。
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