217 / 533
9章
奪われる時間
しおりを挟む私は一瞬にして魔力溢れる空間に立っていた。
淡白く発光していて、十メートルほど先に小さなログハウスが建っている以外何もない空間。
「クラオル? グレウス? ポラル? ウェヌス? みんなドコ!?」
キョロキョロと見回しても、一緒にいたはずのみんながいない。念話しても通じず、ウェヌスの指輪も作動しなかった。
完全に一人だけ隔離空間に囚われたらしい。
「マジか……ウェヌスもくっ付いてたのに……」
転移もできず、この先のログハウスに行くしかない。
自身に結界は張れたから魔法がつかえないわけではないみたい。
緊張から唾を飲みこむと、ゴクリと音が鳴った。
一歩一歩進んで、覚悟を決めてログハウスのドアノブを握る。
ドアがすんなりと開くと、男性の声が聞こえた。
「ついに訪れる者が現れたか……」
「誰!?」
「神に守られし女子よ。ここは私の空間だ」
どこからか光の粒が集まり、人型を形作っていく。
発光が落ち着くと、そこにはジルを大人にしたような男性が立っていた。見た目は二十歳くらいに見える。
「お初にお目にかかる。私はアルヴィン・プラティーギア。子孫が大変迷惑をかけた。心から謝罪する」
「幽霊?」
「幽霊とは?」
「んと、ゴーストってこと」
「少々異なる。私は既に肉体は死んでいる。思念体だ」
それはオバケと何が違うのかと思ったけど、ラチが明かなさそうだから止めておいた。
アルヴィンさんは、直接見たわけではないから細かいことはわからないけど、子孫が起こした問題についてはわかるらしい。
何でわかるのかを説明してくれたけど、小難しい単語ばかりで私には理解できなかった。たぶん血で感じるみたいな説明だと思う。ちょいちょい子孫の愚痴になり、そっちは理解できちゃったのが悲しい……
「まぁ、いいや。聞きたいことがあるんだよ」
「私にわかる範囲であれば。その前にそなたの名を聞いてもよいだろうか?」
「あ、ごめん。私はセナだよ。セナ・エスリル・ルテーナ」
「ふむ。セナか……善き名だ。して、質問とは?」
今のヒュノス村について説明した後、エルフの森の隠れ家に行った話をすると、アルヴィンさんは首を傾げた。
「私の日記を読んだのだろう? 当時はセナが言う症状ではなかった。鑑定結果を考えると、神の使いに何かあったのだと私は思う」
「何かって?」
「それはわからない。当時、神殿には鍵などかかっていなかった。まずは神の使いに会うべきだ」
アルヴィンさんは鍵開けの魔法を教えてくれた。魔力を細くして鍵穴に通すやり方だった。針金でピッキングする泥棒みたいで、顔が引きつってしまったのは仕方ないと思う。
「セナよ。頼みがあるのだが……」
「なーに?」
アルヴィンさんのお願いは、ジルについてだった。もし可能なら、これからも唯一の生き残りと言っても過言ではない子孫を導いて欲しいと。
「ジルが一緒にいたいって思ってくれてる限りは、一緒にいるつもりだよ。私は一緒にいたいけど、ジルが嫌なら強制はできない」
「そうか……セナは心優しいのだな……時間が迫っている私には朗報だ」
時間が迫っているとはどういうことかと聞いてみると、子孫である老害達が負を重ねすぎたからあと数十年しか持たないと返された。
思わず「充分長ぇわ!」とつっこんでしまったのは私だけではないと思う。
「思念体ならジルに憑くことってできないの? そしたらその目で見守っていけるじゃん」
「やり方を知らぬ」
「うーん。クラオルがいないからガイ兄にも連絡が取れないんだよね……って、そういえば時を奪うってどういうこと?」
私が聞くと、この場にいるのは私の精神で、本体はあの書庫にいるままだと説明された。
「ここと外では時間の流れが違う。例えここで一日過ごしたとしても、外ではさほど経っていない」
「なるほど……実際に年取るワケじゃなくて精神だけってことね。あの修行大好きな主人公のバトル漫画の修行の空間みたいな感じか……」
そういえば神界もそうだったかも。神界でパパ達とゆっくり過ごしても、戻ったときにあんまり時間が経っていないことがよくあった。
中身三十路からしたら大差ないわ。すでに思考回路が五歳児じゃないことも周知されてるし。
「安心してゆっくりしていくといい。ここを訪れたのはセナが初めてだ」
嬉しそうに私に微笑みかけるアルヴィンさんに気が抜けてしまった。
どうせならと薬草について質問を投げかけると、だんだんとヒートアップし始めてしまった。
実際に時間は経過しないとしても体感では三時間以上知識を披露してくれている。
落ち着くように無限収納からジルに淹れてもらった紅茶を出すと「久しぶりだ」と嬉しそうに飲んだ。
「これはジルが淹れてくれた紅茶だよ」
「まだまだだが及第点としておこう。先程から出てくるそのジルという名の者が私の子孫か?」
「そうだよ」
気になるみたいなので、元々の名前はトリスタンだったこと。祖父である老害に虐待されていたこと。キアーロ国から今までのことを教えてあげた。
「トリスタンとは〝労働者・悲しみの涙〟という意味の名だ。可哀想に……しかしジルベルトでジルか。面白い名を付けたな」
クツクツと楽しそうに笑われ、ジルの名前の意味もわかっているんじゃないかとドキッとした。
「しかし、セナは面白い。私が生きているうちに会いたかったものだ」
「会ったらどうしたの?」
「付いていくに決まってるだろ? 愉快な旅になるだろうな」
「それはどうだろう……」
面白そうだと一緒にいることになった精霊二人と、グレンを思い出して苦笑いが零れてしまった。
果たして彼らは楽しい旅だと思ってくれているんだろうか……迷惑かけまくりだけど、そう思ってくれてたら嬉しいな!
暇を持て余しているらしいアルヴィンさんは、私のことも聞いてきた。
アルヴィンさんには、私が神聖な気配に護られているように見えるらしい。
パパ達からの加護をもらっていることを教えると、さらにいろいろと聞かれて、結局この世界にきてからのことを説明することになった。
異世界である地球のことはさすがに言えない。嘘は付いていないから、かなりボカした内容になってしまったけど、アルヴィンさんは特に気にした様子はなかった。
「そろそろ戻ろうかな?」
「そうか……残念だ」
「どうやって戻るの?」
「む? 考えていなかったな……」
「は!?」
「時間はたっぷりある。セナが戻れる方法を私も考えよう」
「いやいやいや!」
いつ帰れるかわかんないじゃないの! マイペースすぎでしょ!
ここで一生を終えるなんて冗談じゃない! 起きたときに私の体が生きているとは限らないし、グレン達のこともある。何よりもクラオル達に会えないとか無理!
こうなったら…………
「パパーーーー!!!」
思いっきり息を吸い込んで、助けてくれとパパ達に向かって叫んだ。
1,253
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!
饕餮
ファンタジー
書籍化決定!
2024/08/中旬ごろの出荷となります!
Web版と書籍版では一部の設定を追加しました!
今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。
救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。
一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。
そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。
だが。
「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」
森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。
ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。
★主人公は口が悪いです。
★不定期更新です。
★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ
ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」
ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。
「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」
何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。
都合のいい女は本日で卒業。
今後は、余暇を楽しむとしましょう。
吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。