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第二部 10章
マースールー迷宮たる所以【2】
しおりを挟むその後、ドロップ品を回収しながら進んで十一階層まで降りてきた。
ネラース達が見つけてくれた宝箱は今のところ全部ポーション。
出てくる魔物は全部ブーメランパンツにマッチョポーズだったよ……
一応、グレンとガルドさん達もちょっと戦って、レベル帯を調べてくれた。私はみんなに「近付いちゃダメ」って言われてドロップ品回収係りに徹してました。
「次は普通の魔物がいいな……」
〈どうだろうな?〉
筋肉は好きな方だけど、魔物の筋肉見せられてもねぇ……
願掛けしながらボス部屋の扉に手を当てると、ギリギリと音を軋ませて扉が開いた。
「今度は筋トレ?」
大きなゴリラが『フンッ、フンッ』と重そうな錘が付いてしなるバーベルを持ち上げ、ベンチプレスしている。
襲いかかってはこない……と言うよりも、集中していて私達が入ってきたことに気が付いていない。
「なんなのこのダンジョン……」
《どれ、気付かせてやろう》
エルミスが魔法で水をかけると、ゴリラは驚いて持ち上げていたバーベルを自分の胸に落とした。
「うわっ……めっちゃ痛そうだし、重そう」
バーベルが重すぎて持ち上がらないのか、唸りながらバタバタと足を動かして……モヤッとしたエフェクトが現れて消えた。
「えぇ!? 今ので終わり!?」
「なんつーか……呆気ねぇな」
《えっと……すまん》
「いや、エルミスのせいじゃないよ。むしろ戦わなくてラッキーだよ。チャキチャキ進も!」
ドロップ品は、【マッスル粉(微)】で、今までのプロテインより効果がちょびっとだけいいらしい。
うん。いらないね。
「お昼ご飯の時間だから、セーフティーエリアで食べよー」
〈おぉ! 今日は何だ?〉
ジュードさんの号令で、ボス部屋の続き部屋の安全地帯でお昼ご飯。
ボディビルダー達にジワジワと精神を抉られているので、ホッコリするご飯が食べたい。
「ジュードさんの野菜スープが飲みたい……」
「おー。嬉しいこと言ってくれるねー! いいよー!」
ジュードさんは早速スープを作り始めてくれた。
私にとってジュードさんのスープはおふくろの味。飲むと安心するんだよね。
ちなみに、私がコンロ持ってるのを知って、ジュードさんも四口コンロ買ったんだ。コンロは思ってたより高くて、四口コンロ一台で百万もした。リシータさんが半額以下にまけてくれたけど……それを私にポンッとプレゼントしてくれたデタリョ商会のおじいちゃん太っ腹じゃない?
ジュードさんがスープを作ってくれているので私はメイン料理。
ガルドさん達も気に入ったお米で親子丼にしよう! お肉と卵はダチョウでいいよね!
みんなが大量に食べるので、大鍋で大量生産のズボラ丼。
出来上がった親子丼はガルドさん達も気に入ってくれたらしく、大絶賛してくれた。
私もジュードさんのコンソメスープですり減った精神が復活した。
「やっぱりジュードさんのスープが一番好きー。安心する」
私が満面の笑みで言うと、ジュードさんは虚をつかれたように驚いて、その後私の頭をクシャクシャと撫でた。
ちょっと目が泳いでるから、照れてるみたい。
「珍しいもん見た……」
「ガールードさーん?」
ボソッとガルドさんが言うと、ジュードさんが低い声でガルドさんを呼んだ。
ちょっと慌てるガルドさんに笑ってしまった。
◇
お昼ご飯を終えた私達は十二階層へ。
出てくる魔物は変わらずマッチョポーズ。
「ポーズ取ってて攻撃してこないから楽だけど……いい加減違うの出てきて欲しい……」
そう文句言う私は、変わらず戦わせてもらえなくてドロップ品のプロテイン回収係り。
拾って、拾って、拾いまくりながらダンジョンを進んでいく。
十六階層はオークのマッチョ版。二十一階層は灰馬。
部屋に入ったとき、マッチョオークはブリッジをしていて、灰馬は障害飛越競技みたいなのをやっていた。やっていたけど…………マッチョオークはブリッジからギックリ腰(背骨が折れたのかも)で自滅、灰馬は障害物に当たって自滅っていう、なんとも微妙な終わり方だった。
そう。私達は戦ってすらいないんだよね……
ボスのドロップ品は全部肉。馬は毛皮も出た。雑魚敵のプロテインは変わらず(微)のままだけど。
灰馬との戦闘が終わって、ボス部屋の続き部屋で休むことになった。
夜ご飯を食べて、まったりタイム。ネラース達は私が作ったボールで遊んでいる。
「このダンジョンは五階層毎にボス部屋みたいだね。【マースールー迷宮】って名前らしいけど、〝マッスル迷宮〟の方が合ってる気がする」
「まぁ、そうだな。今のところ攻撃される前に倒せているが、アレが立ち向かってきたら戦闘はキツいと思うぞ」
ガルドさんいわく、入るならAランクは必要で、一人だと攻略は不可能。
私達はネラース達が狩ってくれてるけど、普通の冒険者は従魔と契約していない人が多いから。
「オレっち達、特に何もしてないもんねー」
「そうですね。正直、任せきりでいいのかな……と思います」
「ん? 戦ってくれてるよね?」
一番何もしてないのは私。プロテイン拾ってただけだもん。
「ほとんどセナっちの従魔が倒してくれてるでしょー? オレっち達かなり楽させてもらっちゃってるからさー」
「いつもなんだけど、聞いてみるね。ルフスー」
ボールで遊んでいるネラース達を見守っていたルフスを呼ぶと、すぐに飛んできてくれた。
『ご主人様どうしたっち?』
「今はルフス達がいっぱい倒してくれてるけど、私達もいっぱい倒した方がいい?」
『なんでっち!? アタシ達まだまだ戦えるっち!』
私が質問すると、ルフスが叫ぶように訴えてきた。誤解されたっぽい。
「違うよ~。ルフス達に任せるのが力不足とかじゃなくて、ジュードさん達が任せきりでいいのかな? って心配してるから聞いてみようと思って」
『驚いたっち……強くないからアタシ達余裕っち! ご主人様の敵は殲滅してやるっち!』
ルフスは胸を張りながら宣言すると、ジュードさんの方へ飛んでいき『余計なこと言うなっち!』と嘴でつついた。
「いてっ、いてて! なんでオレっち、つつかれてるのー?」
「ルフス! こっちにおいで!」
私が呼ぶと、再び私の膝の上に飛んできた。
「ルフス。ジュードさん達は、ルフス達が無理してないか、疲れてないかって心配してくれたんだよ。つついちゃダメ。ちゃんと謝って」
『そうだったっち?』
「そうだよ。さっきもみんな強いって褒めてたんだから」
『ごめんなさいっち……』
「私じゃなくてジュードさんに謝らなきゃ」
誤解が解けたルフスはジュードさんの方へ体を向けると、『ごめんなさいっち』と頭を下げて【ヒール】をかけた。
「おぉー! ヒールも使えるのかー! すごいねー! ありがとー」
褒められたルフスはちょっと得意気。ルフスに戻って大丈夫だと言うと、ネラース達の方へ飛んでいった。
ジュードさんにルフスがつついたことを謝ると、「大丈夫だよー。気にしないでー」と笑いながら頭を撫でてくれた。
〈ルフスもそうだが、ネラース達は喜んで戦っている。戦うななんて言えば間違いなく拗ねる。気にせずやつらに任せておけばいい〉
「いいんでしょうか?」
『戦闘後、褒めてあげればいいのよ』
「ん? なんでしょう?」
クラオルの言葉がわかっていないモルトさんに、クラオルの言葉を伝えると「そうします」とモルトさんはふんわり微笑んだ。
寝る時間になると、ルフスが大きくなってジュードさんの羽毛枕兼布団になってあげていて、ジュードさんが「気持ちいい」と喜んでいた。
つついちゃったお詫びだね。わだかまりみたいにならなくてよかった。
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