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13章
偏屈ジジイはお姉さん
しおりを挟む朝起きると、まだ雨は降っているものの昨日ほど激しくはなかった。
村の工房はもう活動を始めているのか、鉄を叩く音が雨音にも消されずに響き渡っている。宿もそうだけど、村全体の建物の壁が薄いみたい。
朝ご飯を済ませた私達は女将さんからもらった地図を頼りに工房へ向かった。
工房は村の中に点在していて、あっちこっちから音漏れ。結構なうるささだ。
雨じゃなかったらもっとうるさいって生活に支障は出ないのかな? 慣れかもしれないけど、私には難しそうだ。
家屋の間の細い路地を抜け、着いた工房は道中に見た他の工房より小さかった。
目当ての工房からは怒鳴り声の応酬が聞こえているけど、私は工房の入り口から中へ入る。
「おは……わっ!」
《セナちゃん!》
足を踏み入れた私はすぐにジルに抱き寄せられ、驚くと同時に何かがぶつかる音がした。
「おケガはございませんか?」
「うん。ありがとう」
状況を確認すると、私が入って瞬間に何かが飛んできたためジルが私を庇い、さらにプルトンが結界を張って守ってくれたらしい。私よりジルの危険察知の方が早かったみたい。
プルトンは《全く! セナちゃんがケガしたらどうするのよ!》とプンプンと怒っている。
私はビックリして結界張るどころじゃなかったよ。
地面を見ると、スパナみたいな工具が転がっていた。
一連の流れがあったにも拘わらず、怒鳴り声の主達は口喧嘩の真っ最中。スパナ以外の工具も飛び交っていて、その余波が私達の方に飛んできたらしい。
終わりが見えない応酬にどうしようかと頭を巡らせ、グレンにお願いすることにした。
「ちょっとだけでいいからね」
〈セナにケガさせようとしたんだぞ?〉
「故意じゃないから」
〈……グルルルルルル!〉
「「ヒッ!」」
グレンが喉を鳴らしながら威圧をかける。
〈生ぬるい〉なんて言いながらもちゃんと加減をしてくれるところがグレンだよね。
二人は抱き合って縮こまっちゃったけど。
さっきまでケンカしていたとはいえ、このおじさんとお姉さんは仲が悪いわけではないみたい。
「えっと、おはようございます。ちょっとケンカは休戦してもらってもいいですか?」
「あ、あぁ……」
「こちらの工房では屋台を作っていると聞きましたが、見せてもらうことは可能ですか?」
「それは……親方に聞かないと……」
言い淀む男性が工房の奥に目を向けるのに倣うと、眉を寄せた渋面のマッチョがこちらに向かって歩いてきた。
「オレの工房に何の用だ。ガキが来るところじゃねぇ! てめぇのせいで下っ端がビビっちまっただろ!」
「えっと……それはごめんなさい。お姉さんがこの工房の親方さんですか?」
「なっ!? ……いいだろう。オレが話を聞いてやる。さっさと来い!」
その人物は奥に向かって足早に歩き始めた。
場所を移動して話をするらしい。
女将さんが偏屈ジジイって言ってたから門前払いも覚悟してたんだけど、よかった。それにしてもやたら〝オレ〟に力が入って強調されたのは何でだろ?
案内されたのは工房の隣りの建物の一室。おそらく執務室だと思うんだけど、よくわからない機械や部品が部屋の半分以上を埋めつくしていた。
ソファの上にも書類と思わしき紙やら工具が置いてあったけど「適当に座れ」って言われたから、それらはまとめて床に置かせてもらった。
「てめぇ……さっきお姉さんって言ったよな? 何でオレが女だってわかった?」
「え? そうだと思ったから?」
「オレは六十年以上この村で男としてやってきたんだ! ……何が狙いだ?」
親方さんがテーブルをバン! と叩くから、上に置いてあった紙がバサバサと散乱した。
〈コイツは何を言っているんだ?〉
「私もよくわかんない」
「何っててめぇらがオレを脅そうとしてるんだろうが!」
「脅す? 何で?」
「……は?」
私達が揃って不思議そうな顔をしているのがわかったのか、親方さんの勢いがなくなった。
初めから聞いてみると、どうやら私が女だと見抜いたせいで誤解されたみたい。
確かに筋骨隆々のマッチョで髪もツンツン。そこらの男性より強そうだけど……女性か男性かと聞かれたら間違いなく女性だ。
なんて言えばいいかわからないけど、乱暴な口調や表情のわりに纏う雰囲気が柔らかい?
「まさか初対面で見破られるとは……」
「それより私は年齢の方が驚きだよ。三十代にしか見えないのに七十代なんて……」
「オレは…………鉱人族だ。人族より魔力は多いが、鉱人族のなかじゃ少ない」
鉱人族――〝人〟という字は使われているけど、立派な魔族だ。地下や山など鉱石や鉱物が採れる場所で暮らしている。
鉱石や鉱物に関する知識は全種族の中で随一。その知識や扱う腕を他の種族に狙われたこともあった。そのため、他種族とあまり関わりを持ちたがらない。
パパ達からの刷り込み情報ではそうだった。
人族に紛れて生活していることを考えると、少し変わった人なのかもしれない。性別も偽ってるくらいだしね。
種族や性別については話題にしない方がよさそうだ。
自ら名乗ったから種族はそうでもないかもしれないけど、性別に関してはそれ相応の理由があるだろう。むやみやたらとつつくもんじゃない。
「そうなんだ」
「驚かないんだな」
「驚いてるよ。本当に魔力の多さが見た目年齢に直結するんだなって」
「い、いや……そうじゃなくてな……まぁ、いい。工房に来たからには何か用があったんだろ?」
「そうそう。屋台を作ってるって聞いたから、作って欲しいものがあって」
気を取り直したように言われて、昨日頑張って描いたデザイン画を見せる。
詳細がわからないから設計図のようには描けなかったんだよね。
私が描いたのは大型のテント。体育祭とか、地域のお祭りなんかで使われるアレ。テント以外になんと呼べばいいのか思いつかなかった。
「こんな感じなんだけど、できますか?」
「うーむ……できなくはないと思うが、これはどこで使うんだ?」
「雨降ったときとか、日除けするのに」
「つーことは、持ち運ぶんだな?」
「うん。だからこの骨組みを折りたためて、簡単に組み立てと分解ができるようにして欲しいんです」
「……ほう。この面白さに免じて作ってやる」
「やっ……」
「だが! 条件がある。てめぇらが信用できるかわからねぇ。だからオレが求める魔石を持ってきたら受けてやる。その兄ちゃんがいれば余裕だろ?」
喜びかけた私達に親方さんはニヤリと告げた。
「セナ様、わざわざこの工房に頼まなくてもよいのでは?」
《((そうよ、そうよ! 精霊の子達に言えば喜んで作るわ!))》
「うーん……ちなみにその魔石って何の魔石?」
念話でプルトンを宥めながら聞いてみると、この村から西に行ったところにある採掘現場に出るロックフィッシュという魔物だと説明された。
「……うん。わかった」
「セナ様!?」
「雨が上がったら狩りに行くから、ちゃんと作ってね?」
私が目を真っ直ぐ見つめて伝えると、親方さんは神妙に頷いた。
◇
プルトンとポラルにちょっとお願いをして、私達は宿で休む。
グレンがヒマだと言うので、ちょうどいいと防具制作のお手伝いを頼んだ。
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