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13章

素材のレクチャー

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 いくつ必要なのかと思えば、五つもあれば余裕らしい。

「……それでな。アンタらが工房で狩ったって昨日うちのヤツが騒いだから、他の工房のヤツらも今日確認し向かうだろう。魔石や素材の交渉をされると思っていたほうがいい」
「わかった。親方さんは素材はいいの?」
「あったら助かるが……」

 言葉を詰まらせた親方さんの理由にピンときた私は話題を変えることにした。
 プルトンとポラルに調べてもらったとき、機械が壊れているから仕事ができなくてお金に困っているっぽいって言われたんだよね。

「そういえば耐性って付けられる?」
「素材があれば可能だ」
「スケイルヤーシリの火袋で火耐性できる?」
「できなくはない。ただスケイルヤーシリは大きな物や高等な素材には向かん」
「そうなの?」
「スケイルヤーシリの素材自体が弱いからだ。いいか……」

 親方さんは素材の等級と耐性の等級について教えてくれた。時間にして三時間以上。
 私がちょこちょこと質問したせいで熱が入ったらしい。
 途中飽きたグレンにクッキーとポテチを渡して大人しくしていてもらうハメになった。

「なるほど。強い素材同士、弱い素材同士じゃないとダメってことね」
「そうだ。特にオレのような鉱人こうじん族だと違いが顕著に出る。職人の中には出された素材で理解しているかを見極めたりするやつもいるからな。この先、どっかしらで依頼するなら覚えておいた方がいい」
「うん。そうする。教えてくれてありがとう」
「ハハッ。ただのガキじゃねぇと思っていたが、こんなに話せるとはな」
「それって褒めてる?」
「どうだかな」

 ジト目を送ると、親方さんはニヤリと笑いかけてきた。
 キモの据わった人だと思ってたけど、これなら仲良くなれそうだ。

「親方さんが作ってくれる予定のやつってどれくらいの素材ならいいの?」
「ん? そうだな……B……いや。Bランクの中でも上等や高等素材、もしくはAランク以上の属性素材だな。火耐性を付けるなら火属性の素材、雷耐性を付けるなら雷属性の素材だ」
「耐火と耐水が欲しいから……火系の魔物と水系の魔物か……」
〈んぐっ……セナは水属性の素材なら持っているではないか〉

 喉を詰まらせたグレンは紅茶で流した後、当たり前のように私に言った。

われと会ったときに倒しただろ〉
「へ? ……あ! ウツボ!?」
〈うむ。それの鱗一枚でもあれば充分だろ。それに火ならわれのがある〉
「それはダメ! グレンが痛いのは嫌」
〈……フッ。大丈夫だ。以前剥がれたものがある〉

 見上げた私の頭を撫でながら〈心配性だな〉なんてグレンは笑った。
 普段のグレンの方が心配性なのに……
 そう言うと、〈セナは危なっかしいからな〉と言われてしまった。
 むぅ……誰彼構わず偉そうに振る舞うグレンに言われたくないぞ。まぁ、グレンは古代龍エンシェントドラゴンだから許されちゃうのかもしれないけどさ。
 その古代龍エンシェントドラゴンが何で私と契約したがったのか……謎が解ける日は一生こないかもしれない。
 考えが飛んでいた私はグレンに呼ばれて我に返った。

〈セナ、あれの鱗を出せ〉
「はーい」

 私に指示を出したグレンも欠けた赤い鱗を出す。
 渡された鱗二枚を見て、親方さんは驚愕に目を見開いた。

「んな゛!? 何だこの鱗は!!」
「ムレナバイパーサーペントの鱗だよ」
「こんな……こんなやべぇ素材を扱えっつーのか!?」
〈Aランク以上ならできるんだろ? さっき言っていたではないか〉

 グレンが揚げ足を取ると、親方さんは言葉をぐっと詰まらせた。
 グレンと数秒睨み合い、降参だとでも言うように親方さんがため息を吐く。

「わかった。やるよ。オレが言ったことだ。やってやるよ!」
〈わかればいい。そこらの職人のように無駄使いするなよ〉
「そんなことできるか! オレは鉱人こうじん族だぞ。唸らせてやる!」
〈フッ。どうなるか期待しておいてやる。セナ、ジルベルト行くぞ〉
「え? あ、よろしくね~」

 散々煽ったグレンは私を抱えて歩き出す。
 私は腕の中から親方さんに手を振った。

 宿に戻った私はグレンに〝無駄使い〟について聞いてみた。
 グレンいわく、街の職人くらいだとウツボみたいなハイランクの素材は活かし切れないんだそう。
 活かせるのは素材をしている鉱人こうじん族やドワーフ族などの魔族、もしくは巨匠と呼ばれている一握りの職人くらいなんだって。
 だから仮に全く同じ素材で作っても性能は全然違う。活かすも殺すも職人次第。
 街の職人は素材のよさに引っ張られて少し性能が上がったものを作るくらいしかできないんだと説明された。

 私は日本の職人もそうだと納得。
 本当にすごい人はすごいもんね……
 パパ達のおかげで武器や防具も作れているけど、私には到底真似できそうもない。

「ねぇ、グレン。グレンの鱗って他にもある?」
〈ん? セナが使うなら新しいのを剥ぐか?〉
「それはダメ!! 痛いのダメ!!」
〈う……うむ。わかった。そんなに怒るな〉
「使いたいんじゃなくて、キレイだったからじっくり見てみたかっただけ。ないならいいの」
〈……あるにはあるぞ〉

 グレンはベッドの上にザラザラと鱗を出した。

「うわぁ……やっぱキレイだねぇ……」

 鱗は総じて赤色だけど、生えていた場所が違うのか、鱗によって濃さや透明度が異なる。共通しているのはツルツルの肌触りと、艶めいて光を反射するところ。
 鱗そのものにも魔力が詰まっていて、言葉にできない美しさだ。

〈鱗は自然に生え変わる。それはかなり昔に剥がれたやつだから、魔力も多少は霧散している。セナと契約した今の方がセナは気に入ると思うぞ〉
「だったら尚更剥いじゃダメ」
〈今は人化じんかしているから生え変わるとしたらかなり先だぞ?〉
「グレン」
〈ククッ。わかったから睨むな。この先もわれと共にいるのだろう?〉
「何当たり前のこと言ってるの?」

 グレンは嬉しそうに笑いながら私の頭をクシャクシャと撫でてくる。
 え? グレンさん。まさか睨まれたのが嬉しかったとかじゃないよね? 大丈夫だよね?
 そんな私の気持ちも知らず、グレンとジルがアイコンタクトを取っていた。
(まぁ、笑顔だからいいか)

 私達が宿でのんびりとすごしていた夕方、違う工房の人が宿にやってきた。
 親方さんの言った通り、素材の交渉にきたらしい。
 宿の一階で話していると、さらに別な工房の人も訪ねてきて一悶着。
 いいものを自分達に寄こせとケンカを始めたため、「後日連絡します」とご退場いただいた。


--------キリトリ線--------

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