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15章
温泉の街テルメ
しおりを挟む森を抜けてから街道沿いを進むこと四日、やっと……やっとお目当てのテルメの街が目の前に。
いや~長かった! 長かったよ!
地面に開いた穴でドヴァレーさんの馬車の車輪が壊れたり、その原因になったアーマーラットの討伐に乱入してきたロンヌ君のフォローが大変だったり、ロンヌ君が「初めて倒した魔物だ」と死骸を持ち上げたのを見た王妃が卒倒したり……と、最後の最後でやたらと濃い数日間だった。
それも今日で終わりよ! イエーイ!
「ようこそおいでくださいました。陛下より連絡が来ております」
街の入り口でチェックを受けて中に入ると、街はちょっと面白い構造をしていた。
カルデラに作られているらしく、底に向かって段々畑のように家々が建ち、一番上である出入口からは下に建つ建物の屋根が上から見える。さらに温泉の街だからか、そこかしこからモクモクと煙が上がっていて、ところどころに溶岩が固まったような歪な形の岩まであった。
ブラン団長によると、私達が入った門は貴族用で、普通の冒険者や平民が出入りするのは別の場所に構えられている。
上から貴族エリア、商業エリア、平民及び冒険者エリアと分かれている。
他国の貴族もこの街に別荘を持っている人が多く、観光産業で成り立つ街らしい。
ドヴァレーさん一家とブラン団長達はキアーロ国が所有している別荘に泊まるそう。
初めて訪れたジィジが別荘を持ってるわけないため、ジィジ達はそういった場合用の迎賓館に宿泊予定らしい。
ドヴァレーさんを別荘前まで送り、案内してくれる騎士とブラン団長に付いて行く。
先を歩いていた二人が止まったのは……まさかの隣り。
お互いの敷地が広いから〝隣近所の騒音が!〟なんてことにはならなそうだけど、もっと離れてるかと思ってたよ……ま、私は宿だから関係ないけど。
「え、ここ?」
「……そうだ。近い方が連絡を取るのに便利だろうと手配した」
「なるほど。それもそうだね!」
「では、この街は初めてとお聞きしましたので説明いたしますね」
納得したところで、騎士から説明が入った。
ドヴァレーさんの別荘とは違って、迎賓館は基本的に在中スタッフはおらず、定期的に清掃が入るシステムみたい。使用人を連れていなかったため、料理やその他雑用をする派遣スタッフをオススメされた。
商業ギルドに清掃人や料理人はもちろん、執事や御者まで登録されているらしい。すごいよね。
ジィジは「アリシアがいるから不要だ」ってすげなく断ってたけどね。
鍵を受け取って中に入ると、見た目通りめちゃくちゃ広い。吹き抜けの玄関は広間のようで、そこから二階に上がるカーブした階段。フカフカの絨毯に高そうな調度品。
「うわぁ……マンガとかで見るザ・貴族の家みたい……」
「さっき聞いたけど、外にもお風呂があるんですって」
「おぉ! 露天風呂だね! ねぇ、ジィジ。街の宿に露天風呂がなかったら入れさせてもらってもいい?」
「……は? セナも泊まるだろう?」
「……え?」
ジィジと顔を見合わせ、二人して目をパチクリ。
沈黙を破ったのはスタルティだった。
「セナは……一緒じゃないのか?」
「私達護衛として来たから宿に泊まるつもりだったんだけど……ね?」
「あぁ。俺達は平民だからな」
「せっかく親しくなったのに寂しいだろう……」
私の視線を受けたガルドさんが言うと、スタルティが恥ずかしそうに目を逸らしながら呟いた。
(か、可愛い……!)
「今さら遠慮する仲でもあるまい。セナ達もガルド達も好きな部屋を使え」
「そうよぉ! アリシアちゃんも一緒に三人でお風呂入りましょ!」
「うん!」
「……んじゃ、遠慮なく」
ガルドさん達もスタルティのデレにやられたのか笑顔で了承。
スタルティは早速コルトさんに話しかけていた。
それぞれ自分が泊まる部屋を選ぶために邸の中を見て回る。
ニキーダが聞いた通り、広い内風呂や各部屋にシャワールームもあるのに露天風呂もあった。しかも二つ! ちゃんと囲いもあって、覗き防止もバッチリ。
さらになんと、パーティールームとは別に立食会場のような部屋、室内運動場に衣装部屋まである徹底ぶり。
王族用って言うだけあるよね……中の物は好きに使っていいって言われたけど、使わなそう……
ガルドさん達は「場違いすぎる……」ってドン引きしてたよ。
「あ! ここがいい! こじんまりしてるし、キッチン近い!」
「…………セナ様。ここは使用人用の部屋だと思います」
「え……そうなの? 私別に気にしないからここにする」
「…………違う部屋にしましょう」
「えぇ……」
有無を言わさず、呆れ気味のジルに手を引かれてその場を後に。ジル的にはアウトだったみたい。
結局、階段からほど近いバルコニー付きの部屋になった。広すぎて落ち着かないから、夜はネラース達も呼んじゃおう。
全員の部屋が決まったところで、リビングに集まって一息つく。
「まだヴィルシル国の王は来ていないらしいが、セナ達はどうするんだ?」
「ん~……とりあえずお店見てみたいかな?」
「あぁ、そうだ。店で思い出した。天狐に黄スイト芋が欲しいと言っていたんだろう?」
「うん。買ったやつ食べちゃったから」
「天狐から連絡が来たから持ってきたぞ」
「マジ!?」
〈おぉ! 焼き芋だな!〉
「あ! それってオレっち達が食べられなかったやつでしょー!?」
「そうそう。グレンが食べ尽くしちゃったやつ」
「おおおお! やったー!!」
興奮する私達に驚きつつ、ジィジが大量の箱入り黄色いさつま芋を出してくれた。
早速食べたいというジュードさんのため、私達は庭に移動。
グレウスに穴を掘ってもらい、全員でアルミホイルに包む。
「こんなので美味くなるのか?」
「もちろん! 楽しみにしてて! 焼けるまで時間がかかるから夜ご飯でも作ろうかな? 何かリクエストある?」
〈肉だな!〉
「アタシは前にセナちゃんが作ってたツクダーニってやつが食べたいわ」
「ツクダーニ? あ、佃煮ね。わかった~」
〈セーナー〉
「ちゃんと肉料理も作るから大丈夫だよ。たき火だし、串焼きも作る?」
〈うむ!〉
頷いたグレンに材料を出して任せ、料理ができるメンバーは邸のキッチンへ。
ワイワイと楽しく料理して、作り終わったら庭に運ぶ。
作り方を教えながら作っていたせいでいつもより時間がかかり、外は日が影ってきていた。ちょうどいい時間だ。
ここに来るまでに慣れたのか、ジィジ達も今では「いただきます」って言うようになった。
「んー! 美味しい! ツクダーニってシラコメと合うのねー!」
「このトンジルというスープも美味しいです!」
「己はこのサッパリするキュ・ウリが気に入った」
「シラコメ……こんなに美味しいのか……初めて食べた……」
四者四様の反応に笑みが零れる。
道中はドヴァレーさんもたまに食べにきていた手前、あんまりこういうのは作れなかったんだよね。
盛り上がるご飯を終え、いよいよお楽しみの焼き芋!
火の勢いが弱まったたき火の中からグレンに取り出してもらう。
「熱いから気を付けてね」
私の注意に返事をした面々はフーフーしてから齧り付いた。
「「んー! あまーい!」」
ニキーダとアチャの声が揃い、続いてそこかしこから感想が飛んでくる。
みんな気に入ったみたいで次々おかわり。
〈我が食べるヒマがないではないか!〉
《んもう、しょうがないから私が持ち上げてあげるわ》
律儀に催促に応えていたグレンが怒り、プルトンが笑いながら宥める。
焼いた焼き芋がなくなるまで、庭では笑い声が絶えなかった。
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