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16章

準備は念入りに

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 翌日にお餅関係のレシピ登録を済ませた。それからはカリダの街の第二騎士団、タルゴーさんのいるピリクの街、シュグタイルハン国の王都(タルゴー商会)、ジィジの国(商業ギルド)……とお餅パーティー三昧だった。

 ヌイカミさんやネルピオ爺、シュグタイルハン国のサフロムの街の領主であるルシールさん、ルィーバ国の南パラサーのギルマスには「新しいレシピを登録したから試食してみて」と〝きな粉餅〟と〝あんころ餅〟を送ってみた。きっと気に入れば取り寄せてくれるでしょう。

 麦茶も好評で、これもレシピ登録となり、感謝を綴られた手紙がナノスモ国から届いた。私関係のところにはショシュ丸も含めて安く売ってくれるらしいよ。

 その他にもいろいろとバタバタした日々を終えたのは、家族で餅つき大会をしてから優に半月を超えていた。



 もろもろの準備が整った私はジルとグレンと一緒に王城へやってきた。クラオルとポラルとユピテルの三人にはとあるモノの製作をお願いしているから別行動だ。
 本格的な旅に出る前に懸念事項は払拭しておかないとね。
 王様の執務室を目指して廊下を曲がったとき、ちょうどいい人物が前を歩いているのを発見。

「あ! 王様! じゃなかった、元王様。グッドタイミング!」
「ん? ……あぁ、セナ殿、久しいな……また何か問題でも……?」

 眉を下げて聞いてくるあたり、この元国王は前の貴族一斉摘発がトラウマ化しているらしい。

「違う、違う。アーロンさんに話があって、転移門ゲートを使わせて欲しいんだよね。開けてもらえるだけでいいから、今ヒマならお願いできないかな?」
「なるほど。それくらいなら構わんぞ」
「ありがとう!」

 あからさまにホッとした元王様は抱えていた書物をそのままに、転移門ゲートを開いてくれた。

――バタン。
「何者か!? 本日は予定――あ! セナ様でしたか」

 扉が閉まる音で武器を構えて部屋に飛び込んできた兵士さんは、私を見てすぐに武器を下ろした。

「うん、アーロンさんに用があって。いきなり来ちゃってごめんね」
「いえいえ、セナ様方でしたら大歓迎です。今の時間だと……陛下は執務室にいると思います」
「ありがとう!」

 二人の兵士さんに手を振って別れたら、アーロンさん目指して執務室へ。
 兵士さんが言っていた通り執務室にいたんだけど……机の上にはいつになく書類の山ができていた。
 明らかにお仕事真っ只中なのに、アーロンさんは私を見ると笑顔で迎えてくれる。
 こういうところは尊敬できるし、素敵なところだよね。

「久しぶり……でもないか。どうした?」
「ちょっとヴィルシル国に行くことにしたんだけど、アーロンも一緒にどうかなって」
「……ほう。オレを呼ぶってことは何かあるのか?」
「あるかもしれないし、ないかもしれない。ただ、アーロンさんはアデトア君と会っておいて損はないかなって」
「アデトア……確か第一王子だったか?」
「そうそう、一応肩書きは王太子だよ」
「一応……か」

 ソファで話を聞いていたアーロンさんは考えるように、隣にいるレナードさんに目配せした。

「出発は明々後日。最速でも戻ってくるまでに一週間、余裕をもって二週間はみて欲しいんだ。だから残りの今日と明日と明後日の三日間でその分の仕事を終わらせて欲しいの」
「……あー…………随分と急だな。面白そうだが今は仕事が立て込んでいる」

 それはこの部屋に入ったときにちょっと思った。そしてそれは日数が経っているとはいえ、松本城で連泊したツケなんじゃないかってことも。
 ……でもね、渋られたとき用にもう交渉の材料は用意してあるのだよ。

「もし一緒に来てくれるなら、新しく登録したレシピと、まだ登録していないドライカレーを使った新しいレシピを三日間で料理人さん達に仕込んであげる」
「!」
「さらになんと道中は古代竜エンシェントドラゴンであるグレンが運んでくれます」
「なんだと!?」
〈うむ、セナの要望だからな〉

 カッと目を見開いたアーロンさんにグレンが明言。それを聞いたアーロンさんはグルンと効果音が鳴りそうな勢いでレナードさんに顔を向けた。横顔でも目を輝かせているのがわかる。
 絶対グレンの背中に乗るのを想像してるな……

「はぁ……仕方ありませんね。急を要する案件だけ片付けてしまいましょう」
「おぉ! 流石わかって……」
「先に言っておきますが、戻ってきたときに地獄を見るのは陛下ですからね」

 感動した様子のアーロンさんに被せてレナードさんが言い放った。
 アーロンさんは顔を引き攣らせているものの、行かないって選択はしないらしい。


 アーロンさんの執務室を出た私達は兵士さん達の訓練場、リシータさんのいるタルゴー商会、商業ギルドを経由して、ボンヘドさんを連れてお城のキッチンへ赴いた。
 厨房では料理長を筆頭に大歓迎を受け、今回もドライカレーが出てきた。
 この後のことを考えたら、とてもじゃないけど食べていられない。味見でおなかがいっぱいになるに違いない。受け取ったドライカレーはグレンに任せ、本題に入る。

「今日は新しいレシピの話で来たの。とりあえずコレ、食べてみて」

 料理長はゴクリと喉を鳴らしてから、きつね色に魅入るようにゆっくりと一口齧った。
 渡されてすぐに口を開けたボンヘドさんとはえらい違いだ。

「おおおおふ! 美味しいですネ! 食べたことのない食感デス!」
「ん!? ん゛ん゛!? ゔまい、う゛ま゛す゛ぎる゛ぅぅぅぅぅ! ……こ、こりゃカレー、か……?」
「そう、大正解。ドライカレーを使ったカレーパンだよ」
「パン? 普通のパンとはだいぶ違いますヨ?」
「パン!? これがパン? パンだとぉ!? 信じられん!」

 面白いくらいに反応してくれる料理長とボンヘドさんを見た他の料理人さん達から期待の眼差しを向けられる。
 作ってあった二十個ほどのカレーパンを渡せば、またもこぶしを突き上げて革命コールが起こった。

「はいはーい! ちゅうもーく! 他にもあるから、チャキチャキ覚えてもらうよー!」

 パンパンと手を叩き、そう声を張り上げれば料理人さん達の雰囲気は一変。
 真剣な様子に打って変わった料理人さん達にカレーパン、きな粉、こしあんの作り方を教えていく。
 あまりにも大変そうだったから、夜にはちょっとだけアーロンさんの書類のお手伝いもした。国家機密レベルのものは流石に無理だから、主に計算系や一覧表にまとめる仕事だ。
 リシクさんが「何もかも陛下より仕事が早い……仕えるあるじを間違えましたかね……」と呟いていたのは聞こえなかったことにした。


 翌日はタルゴー商会に用意してもらった杵と臼を使って、兵士さん達を巻き込んだ餅つき合戦。
 三日目の夜は教えたレシピの試食兼発表会。休憩も兼ねて呼んだアーロンさんが餅つきを「訓練の一環として日課にさせるのもいいな」なんて言っていたよ。
 お供として出していた麦茶も気に入ったみたいで、すぐにリシータさんに購入する旨を伝えていた。行動が早いね。

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