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16章
援軍は多い方がいい
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「んじゃ、後は頼んだ」
「「かしこまりました」」
徹夜で仕事をこなしていたレナードさんとリシクさん、アーロンさんの目の下にはクッキリとクマが来訪している。
アーロンさんは仕事から解放されるけど、残る二人はアーロンさんじゃなくても大丈夫な書類を捌かなきゃいけない。そんな二人にはアーロンさんに内緒で、無理をさせたお詫びを込めてポーション入りプリンを差し入れしておいた。
今回連れて行くのはアーロンさんだけ。通常であればドナルドさんやアーノルドさん達暗部のメンバー、もしくは近衛兵が護衛するんだろうけど、相手は魔力で人を判別するアデトア君。魔力を記憶されたら諜報活動できなくなっちゃうからね。
私達がいるとはいえ、アーロンさんは装飾の少ない武闘着に身を包み、腰にはコテを携えている。
「ではお帰りをお待ちしております。く・れ・ぐ・れ・も、セナ様やジュラル様方にご迷惑をおかけしないようにしてくださいね」
「大丈夫だろ」
「本当ですかね……」
「ふふっ。またねー!」
二人に見送られた私達はドヴァレーさんに挨拶はせず、真っ直ぐに帰宅。
待っていてくれたジィジ達も一緒に王都から離れた場所へ移動して、クラオル達に編んでもらった巨大籠に乗り込んだ。ドラゴン姿になったグレンがそれを足で掴んだら出発だ。
籠は気球の人が乗るところって言えばわかりやすいかな? 運びやすいように取手があるから、お見舞いに持っていくような高級フルーツ盛り合わせのバスケットでもいいかもしれない。
ただ、大きさは巨大だ。全員が余裕を持って座れる広さにしたらこうなっちゃった。
蔓だけど、ふっかふかのラグを敷いてあるから座っても痛くないよ。
アーロンさんはやっぱりグレンの背中に乗れると想像していたみたい。残念がっていたものの、高度と流れる景色に興奮しきりだ。
「おおお! すごいな! 飛んでる……飛んでるぞ!!」
「はしゃぐのはいいんだけど、落ちないでね……って聞いてないね……」
負荷を考えてスピードはゆっくりめ。とは言っても遮るものがないから馬車よりも格段に速い。
休憩を挟みつつ、最初の行き先はヴィルシル国の火山の裏側に位置するナノスモ国の王都だ。
ここでナノスモ国の王様と王女様とご挨拶が待っている。
そろそろおやつタイムかなと思い始めたころ、グレンから「もうすぐだから下降する」と声がかかった。
王都アトスモ――王都ではあるけど、周囲は広大な畑が広がっていて、どことなく牧歌的な街だった。
民はドラゴンの来襲に驚いていたものの、好意的な雰囲気で歓声をあげている人までいた。
王城も城らしい城ではなく、貴族の大きな邸みたいな感じ。なんなら、取り壊す前のプラティーギア邸の方が大きいし、敷地も広いんじゃないかな?
今日は親睦を深めつつ、ここで一泊だよ。
「ようこそおいでくださいました。このような狭い家で申し訳ない」
「街の雰囲気に合ってるし、壁に這ってる蔦の花が可愛くて素敵だと思うよ?」
「デカければいいってものでもないしな」
私とアーロンさんの感想を聞いた王様は嬉しそうに頬を緩めた。
王様はフェムトクト・ナノスモ。第一王女であるお姫様はミリエフェ・ナノスモ。
国名を聞いたときに大きさの単位が思い浮かんだんだけど、さらに疑惑が濃くなった。
ミリはそのまんまだし、確かエフェムトってあったよね!?
「セナ様には感謝してもしきれません。なんの役にも立たないと言われていたショシュ丸や、家畜の餌にしか使われていなかったロク麦とフタ麦の活用法を考案してくださったのですから」
「あはは……」
それは日本の知識です! とは言えない私は乾いた笑いで誤魔化すしかなかった。本当に考案した人ごめんなさい。
前にジィジから聞いた通り、他国よりも国土が狭く、王都を中心として周りに五つ村があるだけだそう。ほとんどの住民は農業に従事しているんだって。
王様も姫様も平民に混ざって農業をすることもあるとのこと。庶民的で私にタメ口を希望する、一風変わった王様だった。
「あの日、セナ様とお会いしてから娘はセナ様の話ばかりでしてな。昨夜もセナ様との話題を考えて夜遅くまで起きていたようです」
話題って……そんなに悩むほど会話が続かないと思われてるんだろうか……
「じゃああんまり寝てないの? 大丈夫?」
「はっ、はひっ! だ、大丈夫でしゅ!」
(え、めっちゃ噛んでるじゃん! 大丈夫じゃなくない!?)
「……えっと……無理して私に合わせなくてもいいんだよ? 悩ませちゃってごめんね」
「ち、違いますっ! わっ、わたくしはまたお会いできるのが嬉しくて……! セナ様のような気品のあるお方とお話出来る機会は少ないのでわたくしなんかがよいのかと……」
「……はい?」
尻すぼみになっていく発言で最後の方は聞き取れなかった。
きひんって貴賓じゃないよね、平民だし。そうなるとやっぱ気品? 気品なんてもの、私が持っているワケがない。どこをどう見たらそんな単語が出てくるんだ……?
「あぁ! そんなに見つめられると恥ずかしいですぅぅ……う、美し……ドキドキが……はぅぅ……」
「…………えっと……とりあえず嫌われてるワケではない、のかな?」
「も、もちろんです!」
食い気味に反応した王女に、王様は喜色を浮かべたまま。二人の様子を見る限り、本当に嫌われてはいなそう。これが演技だったらアカデミー賞ものだ。
ほのかにジルっぽさを感じるのは気のせいかな? 気のせいだよね?
「そういえば、いつもならもうおやつタイムなんだけど、王様と王女様も一緒にどう?」
「おやつ……ですかな?」
「おぉ! そうしよう! セナのおやつは感動もんだぞ!」
アーロンさんはテンションが上がって王様の肩に手を回し、組んだまま肩をパシパシ叩いている。当の王様は顔に〝?〟マークを浮かべたままだった。
庶民的なこの人達なら大丈夫だろうと庭へ案内してもらい、芝生の上に敷布を広げる。王女様達に直射日光はマズいかなと彼女らのところにはパラソルを設置した。
「今日はなんだ?」
「今日はねぇ~、どら焼きだよ。グレンは運んでくれたから大盛りね」
〈うむ!〉
「おおぉ! 新しいやつだな」
「ジィジはこっちの白グレフル食べてね。では、いただきます」
〈いただきます!〉
グレンは宣言するなり、大口を開け、パクンと一口で口の中へ。アーロンさんもグレンに負けず劣らずがっついている。
「ウマい! 中身は同じでもこうも味が変わるのか! いくらでも食べられるぞ!」
初めて食べる二人も好みの味だったらしく、終始笑顔だ。
おやつで和んだ面々はそのまま歓談に突入。
私が話しかける度に顔を真っ赤にさせる王女様は小動物みたいで大変可愛らしい。まぁ、私よりも背は高いし年上なんだけど。雰囲気よ、雰囲気。
「あ、あのセナ様! もし、もしよろしけば……名前を呼んでいただけると嬉しいです」
「……ミリエフェちゃん?」
「はぅわっ……! …………あ」
名前を呼んだ瞬間、手で顔を覆ったと思ったら、あろうことか鼻血が垂れていた。
「えぇ!? ちょっと大丈夫!? これ、このタオル使って!」
「あ、ありがとうこざいます。すみません……あ……(こ、これがセナ様の香り……)ン゛ン゛……」
「え!? さっきより出てるじゃん!」
勢いを増した鼻血にワタワタしているのは私だけで、王様は慌てる様子もなく笑っている。
「名を呼んでいただけたのが、余程嬉しかったようですな。そのうち治まると思いますのでそのように慌てなくても大丈夫ですよ。ミリエフェだけでなく、私のことも気兼ねなく呼んでください」
王様の言葉に血まみれタオルを鼻に当てたままブンブンと頷くミリエフェちゃん。
(えぇ……王女だよ? 鼻血止まる気配ないよ?)
困惑している私と目が合ったニキーダがパンッと手を叩いた。
「ママが見てあげるわ。ちょっとこっちにいらっしゃい」
そう言ってくれたニキーダと補助する気満々のアチャにミリエフェちゃんを任せ、私達はお仕事の話。
ショシュ丸の一件で取引はしているものの、タルゴー商会はまだ出店していない。自国民にも麦茶を広めるとすれば、この国にも工房が欲しいところ。
ナノスモ国には労働からあぶれている貧民らしい貧民がいなくて、雇う住民をどうするかが問題なんだ。
途中、ジルだけが呼ばれてニキーダ達と何か話していた。
しばらくして戻ってきたミリエフェちゃんの鼻血はしっかりと止まっていて一安心。
「ニキーダ様にアリシア様、ありがとうこざいます。ミリエフェも戻りましたし、お疲れでなければ畑をご覧になりませんか? 時期をズラして育てていますので、種まきから収穫まで順番に案内できるかと」
「いいの? 見る見る!」
「オレも見させてもらおうか」
王様の案に私とアーロンさんが乗り、ゾロゾロと移動開始。
もう段取りが決まっていたのか、畑仕事の体験までさせてくれ、農場見学そのもの。アーロンさんは子供のようにはしゃいでいて、それに巻き込まれたグレンやガルドさん達まで土まみれになっていた。
夜ご飯のときには、ミリエフェちゃんの母、兄や妹ともご対面。和気藹々とした楽しい時間だった。
◇
ミリエフェちゃん親子も籠に乗り、私達はヴィルシル国へ向けて出発。
ミリエフェちゃんファミリーに住民達も総出で手を振ってお見送りしてくれた。
朝食時、食べっぷりを褒められていつも以上に食べまくったグレンは機嫌よく飛んでいく。
三時間ほどでヴィルシル国の王都に近付いた。
――グオオオオオオオォォォ!
グレンが一鳴きすると城下は大パニックに見舞われた。米粒より少し大きな人影が右往左往しているのが上からだとよくわかる。
(あれは冒険者達かな? あっちは騎士っぽいな)
慌てふためく城下をスルーして、そのままお城に向かって進む。城を守る騎士達が武器を片手に続々と集まってくる中、グレンが口を開いた。
――〈アデトアー! 我が来てやったぞ! 出てこい!〉――
王子であるアデトア君の名前を出したせいで、騎士達の混乱に拍車がかかったっぽい。攻撃されることも考えて結界を大きめに張ってるものの、攻撃してくる様子はない。
さらに接近した状態でぐるぐるとお城を中心に回っていると、正面側の窓から、髪を乱したアデトア君が顔を出した。
「は? え? な、グレンか? 何して……」
「あ! きたきた。アーデトアくーん! あーそーぼー!!」
「……は? はぁぁぁぁぁあああ!?」
ジィジに支えてもらい、こちらに気付くように籠から身を乗り出して手を降る。
一瞬の間を置いて、アデトア君の驚いた声が響き渡った。
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