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2巻

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   第ゼロ話 これまでの話


 セナ・エスリル・ルテーナ――日本がある世界とは違う、剣と魔法というファンタジーものあるあるなこの世界で新しく付けてもらった、私の名前だ。
 エアリルとアクエスという神様達のミスで、地球上での存在が消滅してしまった私は……その神達に土下座をされ、誘われるまま異世界エールデテールに転生することとなった。
 下心満載で神達をパパと呼んだところ、私の希望は驚くほどすんなりと叶えられ、記憶は維持したままで年齢は子供に。攻撃魔法や回復魔法、錬金術なんかもスキルとして付与してもらった。
 やらなきゃいけないこともなく、完全にフリーダムでファンタジーでエキサイティングな新しい人生の始まりになるハズだった。
 ……しか~し! さらなる神達のミスにより、想定外の場所で目を覚ました私はものの見事に記憶喪失となり、夢の中だと勘違いしたまま危険な森を徘徊はいかいするハメに。そこで出会ったもふもふリスちゃんや、優しき【黒煙こくえん】というパーティに助けられて生き延びることができた。
 ところがすったもんだのあげくに【黒煙こくえん】のパーティとは離れ離れに。ケガをした私はキアーロ国のカリダの街にある第二騎士団のフレディ副隊長に拾われた。記憶を取り戻した現在は宿舎に泊まらせてもらい、クラオルと名付けて従魔契約したリスちゃんと共に、勝手が違うこの世界に慣れようと日々奮闘中? である。



   閑話 エアリルside


 僕はこの世界……エールデテールの神、風のエアリル。このエールデテールには僕の他にも神様がいて、主神のパナーテル、水のアクエス、火のイグニス、土のガイアの四神と一緒に管理しているんだ。
 魔法が当たり前にある世界で、精霊や妖精、魔物や魔獣も存在するし、人族以外にも獣族と魔族が生活している。文明レベルは……地球で言えば中近世くらいかな? 電気はないけど、魔道具がある。細かいいさかいはあるものの、今のところ大きな戦争はないから平和だよ。
 最近は仕事の合間に、魔法でセナさんを空間に映して様子を見るのが僕の楽しみなんだ。あぁ……本当に可愛い。あのときはどうなるかと思ったけど、セナさんが優しい人でよかった。
 そう実感しながら、あのときのことを思い返す。


 本来なら互いの世界には干渉しないって暗黙の了解があるんだけど……いろいろあって、僕とアクエスが神のチカラを同時に同じ場所に行使して暴発させちゃったんだよね。で、それが当時日本で眠っていたセナさんに直撃。セナさんが消滅しちゃったの。
 急いで調べて地球がある世界の神に連絡したら……世界の神から地球の神へ、地球の神から日本の神へ……って連絡を取り次いでもらうのがそれはそれは大変だった。しかもね、日本ってものすごく神様が多いんだよ。八百万やおよろずって表現するんだって。あんなに小さい国なのにね。
 あっちこっちに振り回され、ようやく担当の神に連絡が取れたと思ったら、セナさんがどういった人物なのか調べるとかでまた待つことになった。僕知ってるよ。ああいうの〝たらい回し〟って言うんでしょ?
 再び現れた神は不機嫌さを隠そうともしなかった。

「まったく、面倒なことをしてくれたもんだ。いくら出生率が下がっているとはいえ、調べるのは骨が折れるんだぞ。しかもこういう者は特にな。おかげで地獄までおもむき、倶生神くしょうじんに話を聞くことになった。あそこは神といえどすんなり記録を見られんからな。書類だなんだと必要で手間がかかる。それをわざわざ調べてやったのだ」
「あ、あの……えっと、ありがとうございます。倶生神くしょうじんとは?」
「人の善悪を全て記録している二柱一組の神達だ。……そんなことも知らないのか?」

 そう言われても、僕達は急いで来たから細かいことまで調べられていない。日本の神様、多すぎなんだよ!
 僕とアクエスは誠心誠意謝って、僕達の世界への転生を提案した。だってこんなに時間がかかるってことは、それ相応の人物だったってことでしょう!? エールデテールなら僕達が見守れるし、強力な加護だって付けてあげられるからね。
 怒られるだろうと予想してたけど、僕達の勢いに少々驚いた様子だった神様は次の瞬間、ふわりと微笑んで予想外のことを告げた。

「……なるほど。くだんの娘は今回の件で輪廻りんねの輪から外れた。こちらでの転生はできかねる。そなたらが何もしなければその娘のたましい永久とわに眠り続けるだけだ。そちらでの転生が可能ならば本人に聞け。こちらではそういった書物が流行はやっている上、この娘はある程度の知識も持っている。説明に戸惑うことはないはずだ。本人が了承するなら構わん。もし了承するならば、そいつの家族は守ってやろう。気にするだろうからな。後始末はかなり面倒だが、そちらの誠意を受け取ったということでこちらだけでなんとかしよう」

 僕達は神の心の広さに感動した。だって世界にとって大事な子が消えたら均衡が崩れちゃうから、本当につじつま合わせが大変なんだ。なんて優しい神様なんだろう! って。
 その後、日本の神と少し話してみたら、今の日本は……というか、地球は全体的に信仰心がなくなり、自己中心的な人が増えているとのことだった。なんかね、〝キレる〟人が多いんだって。神いわく、〝便利になりすぎた弊害へいがい〟だそう。

「まぁ、これも縁だ。何かあれば直接連絡してくれて構わん。おそらくその娘のことで聞きたいことも出てくるだろう。他の神を交えるとまた時間がかかるからな」

 って、最後に言ってくれたんだ。
 たらい回しにされたときは困ったけど、こんな優しい神が治める国の子なら大歓迎だよ。


 ――エアリルはそう思っていたが、実際はただの日本の神の気まぐれであった。セナの人となりを調べた際に、本人が〝異世界転生〟に多少なりとも興味を持っていたから、それならばと決めた。
 日本にいたセナは平凡そのもの。嘘をついたことだってあるし、学校の授業をサボったことだってある。世界に影響を及ぼすほどの高潔な人物ではないし、凶悪な事件を起こすほどの危険な思考も持ち合わせていない。興味のある分野については多少の知識があるものの、専門的な知識はないに等しい。一言で表すなら〝怠惰たいだ〟な人物。ただ、月に一度とある神社を訪れる程度の信仰心を持っていることと、家族思いであることは美点かもしれない。世界にとって大切かと問われれば、答えはいな。セナ一人が消えたところでなんの影響もないのだ。
 だが、それは調べなければわからない。そしてそのような〝ただの一般人〟を神が気にしているわけがない。だからこそ調べるのが大変だったのだ。面倒な作業をさせられたと内心立腹していた神が、月に一度は神社に通っていたことに対しての報いと、エアリルとアクエスに貸しを作っておこうといたずら心を起こしたのである。……この選択が後に日本の神に影響を与えようとは誰も想像していなかった。しかし、それはまた別の話――


 そんなことがあった後、僕とアクエスは眠っているセナさんのたましいを僕達の世界に連れていった。
 土下座をしながら謝ったのがセナさんとの初対面。最初が肝心だからね!
 セナさんは僕達の説明に驚いてはいたけど、怒鳴るとかブチ切れるなんてことはなく、淡々と受け入れているみたいだった。
 この時点で過去の転生者達とは違うことがわかった。だって今までの人達は罵声ばせいを上げたり、泣き叫んだり、復讐させろと詰め寄ってきたり、話を聞かずにひたすらひれ伏したり……って、しっかり話を聞いてもらうだけでも苦労したんだから。
 でも、セナさんが一番初めに望むものがまさかムダ毛の生えない体だとは思わなかったよ。確かに容姿に関係することだけど、あのときは本当ビックリした。聞き間違いかと思って一回話題を変えたもんね。僕が今まで担当した人はカッコよさや美しさを求める人が多かったんだ。人によっては爪の大きさまで細かく指定してくる人もいた。基本的に転生者は新しい命として誰かのおなかに宿すから、そこまで細かいことは指定できないんだけどね。
 ところがムダ毛のない体やキレイな肌が欲しいって言っていたセナさんなのに、他の容姿は第一印象で嫌われない程度……適当でいいなんて謙虚なことを言っていたから、アクエスと相談してみんなに可愛がってもらえる姿を考えた。最後は僕達の好みになっちゃったけど、それは内緒! セナさんも気に入ってくれるといいな!
 それに、それにね、セナさんは僕達をパパって呼んでくれたんだよ! 殺しちゃった僕達をそう呼んでくれるセナさんはなんて優しい考えの持ち主なんだろうね。日本の神に認められるだけある。
 そんなセナさんも、スキルについて聞いたときは少し楽しそうだった。それでも、セナさんが希望したほとんどは元々僕達が付けようとしていたものだった。一つだけパナーテル様に聞いてからってことになったものの、怒ることはなかった。いや、「聞いてくれるだけで嬉しい」ってお礼を言われたんだ。やっぱり他の転生者とは違うよね。
 だから通常ならこの世界の住民の子供として転生させるところを、僕達が全部造った。その方が加護を与えやすいし、スキルも定着しやすいんだ。それに記憶をそのままにできるしね。
 そのせいでセナさんは〝神人〟って世界で一人だけの種族になっちゃったんだ。でも僕と繋がってる気がして嬉しい。僕パパだし! 名前もアクエスと二人で悩みに悩んで決めた。セナって名前、僕達は気に入ってるんだ。ピッタリの可愛い名前でしょ? ミドルネームは僕達から、ファミリーネームはパナーテル様から取ったから、本当に世界でただ一人の特別な名前だよ。


 さてさて、セナさんは僕達の世界をどう思うだろう? 気に入ってくれるかな? 街のすぐ近くに送ったから、街を見てビックリしてる頃かな? なんて考えながらセナさんの姿を魔法で映し出した僕は、思わず叫んじゃったくらい驚いた。
 秘書の役割をになっている眷属けんぞくに怒られたけど、それどころじゃない。だって、セナさんがいるのが呪淵じゅえんの森だったんだもん! 急いでアクエスに連絡を取った。セナさんは……僕達と会ったことを完全に忘れていて、自分の夢だと思っていた。いや、思い込もうとしていたんだろう。神眼で見てみたらステータスが全ておかしくなっていた。でも、セナさんが一度教会に来てくれなければ根本的なことには手が出せない。
 せめて僕が魔法で殺した魔物の経験値をセナさんに送ったり、無限収納インベントリが機能するようにしたりと、細々こまごまと修正をかけることになった。
 そうして現れたアクエスと共にセナさんの動向を探っていたんだけど……

「すごいな。俺達の記憶がなくても魔法のイメージがしっかりしているからか、魔力の制御が上手い。そして何より発想が面白い」
「アクエス! 感心している場合じゃないでしょ! どうするのさ!?」

 とりあえずセナさんのご飯にと、食べるだけで死んだもの以外は元気に復活できる、神の力が宿った黄金のアポの実をセナさんのもとに送っているものの、セナさんは記憶を取り戻すこともなく、森を彷徨さまよいながら魔獣を倒していく。
 この森、僕達の世界の最凶エリアのひとつに入っているハズじゃ……こんなにアッサリと倒すなんて! あ! レベルがすごく上がってる! 加護のせいもあるとしても……それにしてもじゃない!? 日本にモンスターはいないんじゃないの? なんでそんなに上手く魔法を扱えるの!?
 呪淵じゅえんの森の、セナさんがいる辺りのボス的存在、オーガオークとビッグフォレストデスベアと対峙しても、セナさんはほとんど自力で倒してしまった。僕達もサポートしていたとはいえ、普通なら倒せないよ! 
 ボス的存在を倒したことで、セナさんのレベルがさらに飛躍的に上がった。そこら辺の冒険者よりも格段にレベルが高くなってしまった。これは目立ちそうだ……


 何日か僕とアクエスで見守っていたんだけど、セナさんが助けたヴァインタミアが土の神ガイアの眷属けんぞくだったことで、神界は一気に騒がしくなった。
 まず、ヴァインタミアからガイアに連絡が入り、僕達二人のもとにガイアが来た。三人で見守りながら騒いでいるとパナーテル様にも見つかってしまい、さらにパナーテル様も来たことでイグニスにもバレてしまったんだ。

「あらあら~。これはどういうことかしら~?」

 パナーテル様に笑顔ですごまれ、これまでの経緯を説明することになった。

「なるほど~。二人が別々の場所に送ろうとして転移失敗したのね~。これは問題だわ~。可哀想だから私が与えた加護も強化してあげましょう。……うん、これで人に好かれやすくなって生きやすくなると思うわ~。でも~、私の加護を強化したからって転移の失敗は失敗よ~!」

 パナーテル様がセナさんの加護を強化してくれた後、僕とアクエスは三人に数時間ノンストップで怒られ続けた。
 その後、保存魔法をかけたセナさんからもらった花かんむりを三人に渡す。三人はビックリしながらも嬉しそうに受け取った。そして機嫌が浮上したところを見計らって、セナさんが欲しがっていた音楽スキルの話をしたんだ。
 結果、本人達が聞く分にはいいと許可をもらって新しいスキルを作り出した。これでセナさんが求めていた鍛冶と音楽再生は叶えられるね! よかった!

「うふふっ。二人がパパなら私はママね! ちゃんと責任を取って、なるべくサポートしてあげなさ~い!」

 そう機嫌よさそうに締めくくり、パナーテル様は帰っていった。
 イグニスは何故かセナさんに興味を持ち、ガイアもヴァインタミアに優しいから気に入ったと、パナーテル様が帰ってからも一緒にセナさんの様子を見ていた。セナさんが作った日本の伝統武器を模した木刀というものを見て、ガイアが木工スキルを付与していたよ。
 僕とアクエスはお詫びのためにアイテムや服、武器、食べ物や調味料など……眷属けんぞくを使って考えられるだけ集め、セナさんの無限収納インベントリに送った。
 アクエスと再強化するスキルの話が一段落したころ、セナさんが冒険者と会った。それが、ガルド、ジュード、モルト、コルトの四人からなる【黒煙こくえん】のパーティだ。
 彼らはいきなり現れたセナさんを手厚く保護してくれた。セナさんが誘拐され、奴隷商人に置き去りにされたんじゃないかと勘違いをしていたけれども。
 その後、ビッグレッドキラーラビとの戦闘で、ガルド達を補助し続けたセナさんは魔力枯渇で倒れてしまった。【魔力拡張】……幼少時に魔力を大量に使うことで、体が順応しようとして起こる現象だ。これを経験すると魔力の総量が飛躍的に上がる。ただこれには日数がかかるという問題点があった。セナさんは僕達の力を受け継いでいるから元々の量が多い。それが拡張ともなれば日数が余計にかかる。このままだと、ひと月は寝込むことになっちゃう。僕とアクエスがアタフタしている中、ガイアがヴァインタミアに連絡を取り、僕達のチカラをさらに注いだアポの実を食べさせることでなんとか事なきを得たんだ。本当にこのときは焦ったよ。
 その後、彼らはセナさんの想像をいい意味で裏切り、ステータスがおかしくなっていることを知っても態度を変えずに接してくれた。
 さらに数日後、違う冒険者パーティと合流したものの、こいつらが問題だった。
 セナさんそれ睡眠薬入りだよ! 飲んじゃ……あぁ! せっかく怪しんでたのに、クズの家族の話で一瞬悪意が薄れて飲んじゃった……うん。セナさんのせいじゃないよ。全部……全部あいつらクズが悪い! お仕置きだ、お仕置き! あああああ! 耐聖光魔道具なんか持ちやがって! 直接罰が下せないじゃん!!
 クズ達を眠らせることに成功したものの、こいつらが騒いでいたせいで魔獣の危険が迫りつつあった。セナさんを起こさなければ。ヴァインタミアによってギリギリ起きたセナさんは一緒にいた【黒煙こくえん】のメンバーを守るべく行動を開始した。こんなときまで優しいなんて……
 僕達四人は協力してセナさんのサポートをするため魔法を展開させる。眠ったままのガルド達の近くに、クズパーティが採取してきたファイトそうやアイテム、薬草も置いておく。
 ヴァインタミアが殴り飛ばされた怒りで魔力を暴走させ、恐ろしいほどの集中力を発揮したセナさんは、ガルド達から離れながら魔獣三匹を倒し、森の中を無我夢中で三日間走り続けた。国をまたぎ、ガルド達と向かうはずだった国の先隣に位置するキアーロ国の廃教会まで。
 廃教会とはいえ教会、大々的に干渉ができたためステータスを直し、記憶を戻した。アポの実を少しかじっていたからケガは治っているハズ。でも大量の出血、戦闘や精神的な疲労を考えたらこのままにはできない。
 ちょうど巡回で近くにいた騎士団の馬に指示を飛ばす。駆け付けたフレディによってセナさんは一命を取りとめることができたんだ。
 今はそのフレディが所属している騎士団がセナさんを保護してくれている。
 ガルド達も無事だし、セナさんが無事であることもちゃんと伝えてある。それにしても、彼らがセナさんをあんなに気にするとは思ってなかった。まさか探す旅に出ようとするなんて……まぁ、彼らはまだ街すら出られてないんだけどさ。


「エアリル様、休憩時間は終わりにして、こちらの確認をお願いします」

 せっかくセナさんとの思い出を振り返ってたのにこの秘書ってば、いつも水を差すんだから。

なのでしょう? お会いしたときに仕事をしない、ロクでもない神だなんて思われたくはないでしょう?」

 そんなこと言われたら頑張るしかないじゃないか。あぁ……早く教会に会いに来てくれないかな。



   第一話 冒険者ギルドへ


 テシテシと叩かれ、ベッドからむっくりと起き上がると日が出てきたくらいの時間だった。食堂に呼ばれるまでには時間がありそうだ。
 起こしてくれたのは我が愛しのクラオル。ヴァインタミアという種族で、見た目は地球のオコジョの透明感がある金色バージョン。瞳は黄色で前歯としっぽの太さはリスという可愛いモフモフだ。体は男でも心は乙女のおネエ様である。

「んん……おはようクラオル。起こしてくれてありがとう。朝ご飯のリンゴはどうする?」
『大丈夫よ。……前にも説明したけど、いざってときのためにとっておきなさい。本当はそんなポンポン食べるものじゃないのよ』
「クラオルのご飯は?」
『それも前に言ったでしょ。今は食べなくても平気なのよ』

 その後、従魔の食事は趣味嗜好しこうくらいの感覚で、普通の従魔は影に控えさせて、用があるときに呼ぶものだと説明された。
 そういえばエアリル達の刷り込み情報にそんな感じの内容があったね。クラオルがいるのが当たり前になってたからなぁ……一緒がいいから注意されない限りはこのままでいよう!
 顔を洗おうとして、部屋のものを使っていいかわからないことに気が付いた。なので生活魔法の【ウォッシュ】を試し、無限収納インベントリに入っていたタオルを使う。そのタオルに生活魔法の【ドライ】をかけて乾燥。水魔法と風魔法を使うより制御が簡単で消費魔力も少しだけ。
 生活魔法って素晴らしい! 思い出してよかった!
 洗顔が終わったら部屋の中でクラオルとストレッチ。数日ぶりなので一時間ほどかけてほぐしていく。
 くぅ~。伸びてる感じがする。やっぱりストレッチは大事だね。
 ――トントントン。

「はーい、どうぞー」

 ――ガチャッ。

「おはようございます。朝食のお迎えにあがりました」
「おはようございます」

 廊下にいたのは、ここ第二騎士団に所属するフレディ副隊長だった。私を保護してくれた人だよ。
 返事をした私を見たフレディ副隊長は〝さぁどうぞ〟と言わんばかりに片膝を突いて手を広げた。

「もうフラフラしないから大丈夫だよ?」
「セナさんの小さな体では不便でしょうし、危険なことには変わりませんので。どうぞ遠慮なく」

 ……結局、フレディ副隊長に抱えられて食堂へ向かうことになった。
 いや、大丈夫だって何回も言ったのに、心配だからってなかば強制的に抱っこされたんだよ。心配性だよね。
 メニューは昨日と同じ塩スープとパンだった。
 第一から第四まである騎士団を全てまとめているブラン団長と、たまに髪から飛び出てくるウサ耳が可愛いパブロさんも食堂で合流して、和気あいあいとしたご飯を終える。
 少し休息を取った後、かねてから行きたかったお出かけに出発! またも私は抱っこですがね……
 向かうは冒険者ギルド。途中でみんながこの街のことを説明してくれた。


 この街はキアーロ国に属するカリダの街。
 目立った特産品などはないが、キアーロ国の中で一番呪淵じゅえんの森に近い。他にも近場に森があるため、魔物のお肉や薬草など、扱われているものは全体的に質が高い。冒険者も他の街と比べると強い人が多いらしい。
 街の中には貴族エリアって呼ばれるところがあり、そこは高級品を扱うお店とか、貴族が住む屋敷とかがある。これは基本的に他の街にもあるエリアなんだって。
 貴族エリアの警備などをになっているのは第一騎士団。隊員も貴族籍の人でまとめられている。第二騎士団は貴族と平民がごちゃまぜ。第三騎士団はほとんど平民。第四騎士団は平民の中でも獣族や魔族が多いそう。ただ、第四騎士団については説明を濁されたから、街の警備だけじゃなくて特殊部隊なのかもしれない。
 私がお世話になっている第二騎士団は街の南東エリアを管轄していて、北東、南西、北西のエリアはエリアごとに別の騎士団が管轄している。一応管轄エリアは分かれているけど、特段仲が悪いワケではないらしい。
 ブラン団長的には貴族や平民で分けたくないみたい。でも貴族の中には、騎士団といえど平民だとわかると指示に従わないやつがいるんだって。まだ若いのに苦労してらっしゃる。人をまとめるのって大変だよね。
 他にも、この街の領主は特産品を作りたがっているとか、主に使われているのは東門とか、この街は人間が多めだけど獣族も魔族もいるとか、あっちはスラム街なので近付かないようにとか……どうでもいい情報から役立つ情報まで、いろいろと教えてもらった。
 街はエアリルが言っていた通り、中近世のヨーロッパみたいな街並みだ。
 石造りの家に石畳の道。辻馬車と呼ばれる、日本で言えばバスのように市民を乗せて街の中を移動してくれる馬車が走っている。もちろん乗るにはお金が必要だよ。
 軒先のきさきで商品を売るお店、昔ながらの八百屋さんみたいに一階がお店仕様になっている二階建てのお店、喫茶店風のドアから中に入るお店……と、形はいろいろだけど、おおむね、ファンタジーなゲームやマンガの世界みたいだった。心配していた衛生面や、街中のにおいも特に気にならない。
 うぅ~! ワクワクする! マップが欲しいね。カーナビみたいに現在地がわかる機能付きの。


 冒険者ギルドに近付くにつれて歩いている人が増えていく。

(わぁ! 本当にいろんな人がいる! おおお! ケモ耳にしっぽなんて萌えしかないよ!)

 ブラン団長に抱えられたまま冒険者ギルドに到着。
 めっちゃ大きい! 隣の民家の三倍から四倍くらいはありそう。
 冒険者ギルドの中に入ると、鎧を着た人やローブを着た人、神官みたいな人、全身黒ずくめで顔を隠している人など、多種多様な人達がいた。
 見るもの全部が新鮮でキョロキョロしてしまう。
 ガヤガヤとしていて活気がある。入ってすぐの場所の半分は受付けで、半分は酒場兼食堂みたい。受付けエリアと酒場エリアはウエスタンドア? スイングドア? で仕切られていた。酒場エリアと反対側に階段があるから、二階建て以上の建物になっているんだろう。建物デカかったもんね。


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