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17章
騎士の街パソヴァル
しおりを挟む質問タイムを終えた私達はサーシャさんの案内で騎士団本部へと移動することになった。
領主邸を出ると、先ほどとは打って変わって街は活気溢れていた。お店が開いてるのもあるんだろうけど……私達がこの街に入るまで家から出られなかった反動か、人が多い。おかげで私はグレンの腕の中である。
そしてサーシャさんは街の人に好かれているようで、道行く人々に声をかけられまくっている。それに律儀に応えているあたりが好かれる所以なんだろうな。
「サーシャさんは馬車使わないの?」
「馬車はあまり好きではないんだ。領民の顔が見えないだろ? 急がねばならぬときや街から出る際は騎乗するが、馬車を使うのは使わなければならないときくらいだな。先代も似たようなものだったから、私が一人街に出たところで混乱することもない。貴殿らは馬車の方がよかったか?」
「ううん。貴族ってこれ見よがしにふんぞり返って馬車使うイメージだったから聞いてみただけ」
「ハハハッ。この街にはそういった貴族はほとんどいない。いや、いなくなったが正しいな」
元々この街の貴族は騎士上がりの者――騎士爵の人が多くて、有事の際は出兵するんだそう。以前、魔物大量発生まではいかないものの、大型の魔物の群れが街のすぐ側まで来たことがあったらしい。騎士も冒険者も負傷者が続出したため、戦闘に参加しない貴族達に食料やポーション、それが無理ならそれを他の街から買うお金でも……と協力を求めたら、拒否または渋々の協力。で、脅威が去った後に「なんで貴族たる私がこんなことで金を使わなければならんのだ!」って街から出て行ったんだって。お城から後日返礼されるって話でその説明もしたし、書面も用意していたのに。
〝こんなこと〟って言えちゃう神経がすごい。きっと魔物が街に入ったら、家で働いている人を囮にでもして、いの一番に逃げ出すタイプに違いない。
「心が狭すぎじゃない?」
「ハハッ。まぁ、爵位を持っているからと言って裕福とは限らないからな」
「それはそう」
カリダの街にいたカメーディさんとかまさにだよね。あの人は元貴族の血筋だけど。家、マジでひどかったもんね……呪いの本あったし。
「騎士爵って一代限りじゃないの? サーシャさんの話し方だと世襲制っぽいよね?」
「あぁ、他の街では一代限りだと聞いている。だが、この街は騎士上がりの者が多いと言った通り、騎士ありきなんだ。魔物の討伐は冒険者でも可能だが、冒険者は入れ替わりが激しく、街を護ろうという意識を持っている者が少ない。その点、騎士は常駐だ。騎士爵を持っている家系は優秀な騎士を輩出することが多いから、引き継がれた方が何かと都合がいい」
魔物の討伐はもちろん、街の治安への貢献なども加味され……目立った功績がなくても、基本的に勤務態度が真面目であれば爵位は継続されるんだそう。
サーシャさんによると、前衛ではなく、後衛向きの者もいる。人それぞれ得意分野が違うから、魔物討伐の功績だけ見ると、功績を焦って命を落としかねないから。
それだと騎士爵が増えすぎるんじゃないかと思うじゃん? 元々、相当な功績を上げなければ騎士爵を授かることはできない。叙爵されるほどの強い魔物が出ること自体が稀。
そして普通の貴族は長男が継ぐことが多いけど、この街の騎士爵は騎士になる子供に引き継がれる。男でも女でも。兄弟全員が騎士になった場合は誰が家督を継ぐのかというと、各家によって違うそう。
二代続けて騎士を輩出しない場合は爵位を返上……って形になるんだって。過去に返上されたのは数回ほど。それも残念ながらお子さんに恵まれなかったとか、お子さんが亡くなってしまってとか……そういった場合だけ。
「騎士、大人気なんだね」
「ハハッ。そうだな。爵位のあるなしに関係なく、この街では騎士そのものが尊敬されているから、婚姻も早いぞ」
「へぇ~、そうなんだ」
シュグタイルハン国の兵士達が聞いたら、羨ましいと血涙を流すに違いない。「彼女がほしい! このままじゃ一生独り者だよ!」って嘆いてたから。
なんでそんなに騎士が人気なのかと言えば、この街の成り立ちからだった。
この街、大昔は駐屯地的な場所だったそう。戦火から逃れて来た人達を保護していった結果、村のようになり、街へと発展していったんだって。
で、サーシャさんは当時、その騎士達をまとめていた騎士団長的な立場の人の末裔。だから代々の領主も戦闘に参加していたし、結婚相手も貴族に限らない。
とても納得した。本当に騎士の街なんだね。
「この街の特殊さが私には合っている」
「特殊?」
そう笑みを浮かべたサーシャさんに首を傾げる。
今までの話って、特殊って言えるほど特殊だった?
「城への招集なんかは免除されていて、貴族特有の茶会やパーティーなどもない。何か異常がなければ恒例通りの報告のみでいい」
「あぁ、なるほど。自治領的な扱いなんだね」
「気楽なもんだろ?」
「サーシャさん達歴代の領主が真面目だから任せても大丈夫って思えるんだと思うよ。アデトア君も『信頼のおける人物だ』って言ってたし」
「え……」
虚をつかれたような表情を浮かべ、歩みを止めたサーシャさんに微笑みかける。
「あとね、『特に今はヴァリージェ国のこともある。今はまだ支援などの要望はないが、疲弊していないかが心配だ』とも言ってたよ」
「…………そうか……この街のことも気にされていたのか……」
王様は中央からの干渉を嫌がるタイプだと思っていたみたいなんだけど、サーシャさんが照れたようなハニカミを浮かべたから、その線は薄そうだ。
案の定、サーシャさんは王族はこの街に興味がないと思っていたらしい。
自治領扱いになって久しく、やり取りは定期連絡のみ。自分は領地から出ないから、王族に会ったこともない。緊急時は支援してくれるらしいことは聞いてはいたが、その後がどうなるかはわからず。本当に差し迫った状況になるまでは自分達でなんとかするつもりだった……とのこと。
「貴殿は話しやすいから、気付くと余計なことまで話してしまうな」
「私もサーシャさん話しやすい。たとえ悪口言ってても、告げ口なんてしないから安心して」
「ハハッ。それは助かる。さぁ、着いたぞ」
到着した私達の前にはドドンとそびえ立つ街で一番大きな建物が。外観は世界遺産の大聖堂っぽい。なんだっけ……ピサの大聖堂? しかも場所は街のど真ん中である。
騎士ありきと言っていた通り、マジで騎士が中心なんだなと実感した。
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