貴方との運命

ゆきりん(安室 雪)

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 美緒は新卒で入った会社を一年足らずで辞めてしまった。いわゆるブラック企業だったのだ。給料は安く、残業代も出ず、土日出勤当たり前。病む一歩手前で何とか退職出来たのだ。しかし、1人暮らしの美緒は収入が無いと家賃が払えない。正社員の面接も落ちるばかりで友達に勧められ派遣に登録した。すると、今まで面接で落とされていた様な大企業からのオファーが沢山あるのだ。正社員は無理でも、派遣なら有りなのか・・・。複雑な心境だ。社員として雇ってくれてもいいのに。

 派遣会社から2つ会社を紹介され、1つ目は他社の派遣に決まり、2つ目の会社で採用を貰った。

 美緒がその会社で働き始め、1ヶ月になる。仕事には慣れたし、社員もいい人が多い。ただ、図面を扱うCAD業務なので、必要事項以外は仕事中に話をする人はおらず、皆黙々とPCに向かっている。

 一日中座り仕事なので、美緒は帰りに地下鉄1区分を歩く事にしている。運動不足だし、土日は家から出ないしね。

 会社を出て、普通は皆地下鉄に向かうので、右手に行くが、美緒は左手に向かう。お気に入りのお店があるし、1区向こうの駅への近道なのだ。

 お気に入りのお店と言っても中に入る訳では無い。外からそのお店を眺めを眺め、匂い・・を嗅ぐのが好きなのだ。外観は明治時代の様なお洒落な外観に玄関の外で香を焚いているのだ。懐かしい様な癒される匂いだ。この匂いを嗅ぎたいが為に、雨の日以外は運動も兼ねて必ずココを通っている。

 ネットでお店を調べたら、何と夜はコースのみで1万円以上だ。う~ん、絶対に無理。クンクンと匂いを堪能しながら歩いていると、車から降りてきた男性とぶつかり、

「痛っ!」

 そのまま転がってしまう。すぐに運転席から男性が降りて来て、美緒に手を差し伸べる。

「すみません、大丈夫ですか?」

 ぶつかった男性は美緒を見下ろし、何も言わずお店の中に入っていき、運転手に助け起こされる。

「すいません、私こそ考え事をしていて。大丈夫です」

 と言ったが膝からは血が出ている。

「中にどうぞ」

 店の中から女性が出てきて声をかけてくる。

「ああ、志乃さん。お願いします」

 運転手から、志乃さんに引き渡される。

 しかし、何なの!?あの男っ?

 一言位、謝ってくれてもいいんじゃない!?

 美緒は、お店の中に入って行ったイケメン男に、怒り心頭だ。


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