私との婚約を破棄して、妹と結婚……? 考え直してください。絶対後悔しますよ?

冬吹せいら

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魔物

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あの日から、しばらくヒーナが帰ってこない。

きっと……。ギルガム様と、あれやこれや、しているのだろうけど。

家にいても、メイドが気まずそうにしているし、お母様がやたらと声がでかいのが嫌で、私は最近、森で鍛錬を積んでいる。

婚約が破棄されたので、逆に言えば、自由になった。
今までは、結婚した後の、妻としての振る舞いだとか、お茶会でのマナーだとか……。正直、興味のないことを学ぶ毎日で、刺激が無かったけれど。

こうして、ただ剣を振り続ける時間が、私は好きなのだ。
剣を振ることで、少しずつではあるけれど、頭にかかったモヤのようなものが、晴れていくというか……。

「ふっ……。ふっ……」

あと二千回ほど振ったら、家に帰ろう。
そう思っていたら――。

「グルルルルゥウ……」

……小さな魔物が現れた。
狼のように見えるが、実際は、狼よりも牙が鋭く、油断すると大変な目に遭う。

私は剣を構えた。

「グルゥウアア!!!」
「……遅い」

飛び掛かってきた魔物を躱し、背中を斬りつける。

「アオオオォオォオオォオン!!!!」

大きな声を上げたあと、魔物が倒れた。

……この辺りの森は、平和なはずなのに。
なんだか、嫌な予感がする。

魔物がちゃんと死んでいるか、確認しようとしたところ。
背中に、私が切り付けた以外にも、傷があることに気が付いた。

この傷は――。

☆ ☆ ☆

「なっ、なんですと!? ベアードが森に!?」
「えぇ……。どうやらそのようです」

街に戻った私は、家ではなく、騎士団長リアスの元に向かった。

あの魔物についていた、大きな爪で引っかいたような傷は……。
間違いなく、ベアードのものだ。

ベアードは、魔物のボスのような存在で、熊を二回りほど大きくしたような生き物である。

「ベアードがいるということは……。森に、まだたくさん、魔物がいそうですね」

さすが騎士団長、話が早い。

「はい。私もその……。暇になりましたので。すぐにでも戦闘に参加できます」
「えっと……。心強いのですが、なんと申したらよいか……」

困った様子で、リアスが頭をかいている。
ギルガム様と婚約してからは、怪我をしてはいけないとのことで、魔物の討伐にも参加していなかったが……。

……今の私は、特に守るべきものもない。

「では、まず偵察部隊を派遣します。結果がわかり次第、報告しますので」
「はい。わかりました」
「その……。よろしくお願いします」

この気まずい空気が解消されるのは、もう少し先になるかもしれない。

とりあえず今は、魔物討伐に向けて、準備をしよう。
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