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第18話 和解
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「ほら。なんともなかったでしょう?」
「今回はね……」
医者に診てもらった結果、やはりロハーナ本人の言う通り、緊張の糸が切れたことによってホッとした結果、少し立ち眩みのような表情が現れただけだろうとのことだった。
それでもマイクは、厳しい表情をロハーナに向けている。
「ロハーナ。自覚できないほど緊張状態だったという事実から、目を背けてはいけないよ」
「わかっています。……しばらく休みますから。もうこれで急を要する仕事は無いので。式の日に着るドレスを選ぶくらいでしょうか」
コンコンと、ドアがノックされた。
マイクが開けると、立っていたのはウリアだった。
「どうぞ」
ロハーナが言うと、ウリアはゆっくりとした足取りで、ロハーナの元へと向かう。
「……まず、何事も無くて良かったわ」
「そうですか?」
「そうよ」
「今の私であれば、簡単に殺せると思いますよ?」
「ロハーナ……」
マイクが窘めたが、ロハーナは軽く手を振っただけだった。
「しかしどうやら、武器は持っていないようですね。毒薬も……。喉元を噛み切って殺すなんてのも、面白いかもしれません。あるいは――」
「ごめんなさい!」
ウリアが、ロハーナに頭を下げた。
ロハーナは目を見開き、どうして良いかわからず、髪を忙しく触っている。
「謝って済む問題じゃないのはわかっているわ。私は子供だった。この短期間ですぐに気が付くことができるほど、あからさまに未熟で、クソガキで、何もわかってないただのアホ令嬢で……」
「ウリア様、その……」
「私をボコボコにしてちょうだい!」
「え……」
「早く! ねぇ殴って!」
ウリアが、ロハーナの手を掴んだ。
そして、拳を作らせ、自分の頬に当てる。
「ほら早く! 覚悟はできてるわ!」
「人を殴ったことなどありません……」
「じゃあマイク! あなたでも良いわ!」
「無理ですよ……」
「それなら自分で殴るわ!」
「ま、待ってください」
拳を握りしめたウリアを、マイクが慌てて止めた。
「……なんてね。そんな勇気無いわよ。私はビビりで、弱っちぃ人間なの。……当主なんて、どの口が言うのかしら。呆れてしまうわ」
正直ロハーナは、ここまで教育プログラムが上手くいくとは思っていなかった。
よほどこれまでの人生に、愛と感謝が足りていなかったのだろうと、同情する気持ちすら湧いてくる。
「……ウリア様。こちらに来てください」
ウリアは、とうとう殴られるのかと、覚悟を決めて、ロハーナに頬を差し出した。
しかし、当然ロハーナにそのつもりは無い。
ウリアの頭を、優しく撫でたのだ。
「ロ、ロハーナ。なんで……」
「反省し、己を改善することができる人は……。とっても偉いからです」
「あぅう……」
「な、ど、どうして泣くのですか?」
「だって、だってぇ……!」
ウリアはロハーナの胸元に顔を埋めた。
困惑したロハーナは、マイクに目を向けるが、マイクは口笛を吹いている。
働きすぎた罰だろうか。どうやらしばらくの間、この可愛い令嬢を慰めなければいけないらしい。
ロハーナはため息をついたあと、ウリアを抱きしめ返して、優しく頭を撫で始めた。
「今回はね……」
医者に診てもらった結果、やはりロハーナ本人の言う通り、緊張の糸が切れたことによってホッとした結果、少し立ち眩みのような表情が現れただけだろうとのことだった。
それでもマイクは、厳しい表情をロハーナに向けている。
「ロハーナ。自覚できないほど緊張状態だったという事実から、目を背けてはいけないよ」
「わかっています。……しばらく休みますから。もうこれで急を要する仕事は無いので。式の日に着るドレスを選ぶくらいでしょうか」
コンコンと、ドアがノックされた。
マイクが開けると、立っていたのはウリアだった。
「どうぞ」
ロハーナが言うと、ウリアはゆっくりとした足取りで、ロハーナの元へと向かう。
「……まず、何事も無くて良かったわ」
「そうですか?」
「そうよ」
「今の私であれば、簡単に殺せると思いますよ?」
「ロハーナ……」
マイクが窘めたが、ロハーナは軽く手を振っただけだった。
「しかしどうやら、武器は持っていないようですね。毒薬も……。喉元を噛み切って殺すなんてのも、面白いかもしれません。あるいは――」
「ごめんなさい!」
ウリアが、ロハーナに頭を下げた。
ロハーナは目を見開き、どうして良いかわからず、髪を忙しく触っている。
「謝って済む問題じゃないのはわかっているわ。私は子供だった。この短期間ですぐに気が付くことができるほど、あからさまに未熟で、クソガキで、何もわかってないただのアホ令嬢で……」
「ウリア様、その……」
「私をボコボコにしてちょうだい!」
「え……」
「早く! ねぇ殴って!」
ウリアが、ロハーナの手を掴んだ。
そして、拳を作らせ、自分の頬に当てる。
「ほら早く! 覚悟はできてるわ!」
「人を殴ったことなどありません……」
「じゃあマイク! あなたでも良いわ!」
「無理ですよ……」
「それなら自分で殴るわ!」
「ま、待ってください」
拳を握りしめたウリアを、マイクが慌てて止めた。
「……なんてね。そんな勇気無いわよ。私はビビりで、弱っちぃ人間なの。……当主なんて、どの口が言うのかしら。呆れてしまうわ」
正直ロハーナは、ここまで教育プログラムが上手くいくとは思っていなかった。
よほどこれまでの人生に、愛と感謝が足りていなかったのだろうと、同情する気持ちすら湧いてくる。
「……ウリア様。こちらに来てください」
ウリアは、とうとう殴られるのかと、覚悟を決めて、ロハーナに頬を差し出した。
しかし、当然ロハーナにそのつもりは無い。
ウリアの頭を、優しく撫でたのだ。
「ロ、ロハーナ。なんで……」
「反省し、己を改善することができる人は……。とっても偉いからです」
「あぅう……」
「な、ど、どうして泣くのですか?」
「だって、だってぇ……!」
ウリアはロハーナの胸元に顔を埋めた。
困惑したロハーナは、マイクに目を向けるが、マイクは口笛を吹いている。
働きすぎた罰だろうか。どうやらしばらくの間、この可愛い令嬢を慰めなければいけないらしい。
ロハーナはため息をついたあと、ウリアを抱きしめ返して、優しく頭を撫で始めた。
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