3 / 12
隣国 キーターン
しおりを挟む
馬車に揺られること、およそ三日……。
隣国、キーターンへたどり着いたキャロは、少し休憩することにした。
馬車の中で眠り、馬車の中で簡単な食事をする。そんな三日間だったのだ。
今日くらいは、宿に泊まり、美味しい食事を食べよう。
そうでもしないと……。どんどん心が疲弊していってしまう。
手持ちの金を気にしながらも、近場のレストランへと向かったキャロ。
「うわっ!!!」
目の前で、一人の少年が転んでしまった。
膝を擦りむき、血が出てしまっている。
キャロは、すぐに駆け寄った。
「大丈夫?」
「うぅ……。痛い……」
「ちょっと待ってて」
涙を流す少年に、優しく微笑みかけながら、キャロは薬草を溶かした液を、傷口に塗り込んだ。
「少し、しみると思うけど、我慢してね……」
「……うん」
「よしよし。偉いね。我慢できた」
少年の頭を撫でたあと、消毒した傷口に、包帯を巻いていく。
「お姉さん。ありがとう」
「いえいえ。あなた、一人なの?」
「うん。この街に、美味しいパン屋があるんだ。ママにパンをプレゼントしたくて……。内緒で」
「良い子ね。家はどのあたり?」
「王都だよ」
ここから王都ヘは、歩いて一時間ほどかかってしまう。
この小さな少年が、一人でやってきたというのもすごいが、さすがに心配だ。
「パンを買ったら、私が馬車で送っていってあげる」
「え? そんな、悪いよ……」
「遠慮しなくていいの。……私も、一人じゃ寂しいから」
「一人なの?」
「うん。色々あってね。ほら、パン屋に行こう?」
「あっ、うん……」
少年と手を繋ぎ、キャロはパン屋へと向かった。
◇
馬車に揺られながら、パンを食べる。
なるほど。これは確かに美味しい。王都から、わざわざ買いに来る理由が、わかるような気がした。
「僕のパパは、騎士なんだ」
「へぇ……。すごいね」
「僕もいつか、立派な騎士になりたい! ……でも、転んで泣いてるようじゃ、ダメだよね?」
「そんなことないわ。誰しも昔は、子供だったんだから。きっと、たくさん泣いて、たくさん怪我をして、それで強くなったのよ」
「そうかなぁ……」
「家族のために頑張ることができるあなたは、きっと立派な騎士になれるわ。私が保証する!」
「本当? ありがとう!」
少年の笑顔に、キャロは励まされた。
自分も、クヨクヨしている場合じゃない。
王都なら、何かしらの仕事はあるだろう。
「そう言えば、まだ名前を聞いていなかったね。私はキャロだよ」
「僕はウシャーラ!」
「ウシャーラ。美味しいパン屋を教えてくれて、ありがとうね」
「うん!」
しばらく馬車に揺られ、ウシャーラの家に辿り着いた。
「まぁ……。それでうちの子を? 本当にありがとうございました」
ウシャーラの母が、深々と頭を下げる。
「馬車……。ということは、何か配達を?」
「いえ。その……。旅をしておりまして」
「泊まる宿はお決まりで?」
「まだ……ですね」
「でしたら、うちに泊まってください。お礼もしたいので」
「えっ、いや、そんな……」
「キャロ! ママの料理は、キーターンで一番美味しいんだよ!」
「こ、こらっ。ウシャーラ……。……あの、遠慮なさらず。恩を返せない方が、むしろ心残りですから。是非泊まってください」
「……それでは、お言葉に甘えて」
こうして、思わぬ形で、今日の宿が決まった。
隣国、キーターンへたどり着いたキャロは、少し休憩することにした。
馬車の中で眠り、馬車の中で簡単な食事をする。そんな三日間だったのだ。
今日くらいは、宿に泊まり、美味しい食事を食べよう。
そうでもしないと……。どんどん心が疲弊していってしまう。
手持ちの金を気にしながらも、近場のレストランへと向かったキャロ。
「うわっ!!!」
目の前で、一人の少年が転んでしまった。
膝を擦りむき、血が出てしまっている。
キャロは、すぐに駆け寄った。
「大丈夫?」
「うぅ……。痛い……」
「ちょっと待ってて」
涙を流す少年に、優しく微笑みかけながら、キャロは薬草を溶かした液を、傷口に塗り込んだ。
「少し、しみると思うけど、我慢してね……」
「……うん」
「よしよし。偉いね。我慢できた」
少年の頭を撫でたあと、消毒した傷口に、包帯を巻いていく。
「お姉さん。ありがとう」
「いえいえ。あなた、一人なの?」
「うん。この街に、美味しいパン屋があるんだ。ママにパンをプレゼントしたくて……。内緒で」
「良い子ね。家はどのあたり?」
「王都だよ」
ここから王都ヘは、歩いて一時間ほどかかってしまう。
この小さな少年が、一人でやってきたというのもすごいが、さすがに心配だ。
「パンを買ったら、私が馬車で送っていってあげる」
「え? そんな、悪いよ……」
「遠慮しなくていいの。……私も、一人じゃ寂しいから」
「一人なの?」
「うん。色々あってね。ほら、パン屋に行こう?」
「あっ、うん……」
少年と手を繋ぎ、キャロはパン屋へと向かった。
◇
馬車に揺られながら、パンを食べる。
なるほど。これは確かに美味しい。王都から、わざわざ買いに来る理由が、わかるような気がした。
「僕のパパは、騎士なんだ」
「へぇ……。すごいね」
「僕もいつか、立派な騎士になりたい! ……でも、転んで泣いてるようじゃ、ダメだよね?」
「そんなことないわ。誰しも昔は、子供だったんだから。きっと、たくさん泣いて、たくさん怪我をして、それで強くなったのよ」
「そうかなぁ……」
「家族のために頑張ることができるあなたは、きっと立派な騎士になれるわ。私が保証する!」
「本当? ありがとう!」
少年の笑顔に、キャロは励まされた。
自分も、クヨクヨしている場合じゃない。
王都なら、何かしらの仕事はあるだろう。
「そう言えば、まだ名前を聞いていなかったね。私はキャロだよ」
「僕はウシャーラ!」
「ウシャーラ。美味しいパン屋を教えてくれて、ありがとうね」
「うん!」
しばらく馬車に揺られ、ウシャーラの家に辿り着いた。
「まぁ……。それでうちの子を? 本当にありがとうございました」
ウシャーラの母が、深々と頭を下げる。
「馬車……。ということは、何か配達を?」
「いえ。その……。旅をしておりまして」
「泊まる宿はお決まりで?」
「まだ……ですね」
「でしたら、うちに泊まってください。お礼もしたいので」
「えっ、いや、そんな……」
「キャロ! ママの料理は、キーターンで一番美味しいんだよ!」
「こ、こらっ。ウシャーラ……。……あの、遠慮なさらず。恩を返せない方が、むしろ心残りですから。是非泊まってください」
「……それでは、お言葉に甘えて」
こうして、思わぬ形で、今日の宿が決まった。
76
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたけど、どうして王子が泣きながら戻ってくるんですか?
ほーみ
恋愛
「――よって、リリアーヌ・アルフェン嬢との婚約は、ここに破棄とする!」
華やかな夜会の真っ最中。
王子の口から堂々と告げられたその言葉に、場は静まり返った。
「……あ、そうなんですね」
私はにこやかにワイングラスを口元に運ぶ。周囲の貴族たちがどよめく中、口をぽかんと開けたままの王子に、私は笑顔でさらに一言添えた。
「で? 次のご予定は?」
「……は?」
悪役令嬢ですが、今日も元婚約者とヒロインにざまぁされました(なお、全員私を溺愛しています)
ほーみ
恋愛
「レティシア・エルフォード! お前との婚約は破棄する!」
王太子アレクシス・ヴォルフェンがそう宣言した瞬間、広間はざわめいた。私は静かに紅茶を口にしながら、その言葉を聞き流す。どうやら、今日もまた「ざまぁ」される日らしい。
ここは王宮の舞踏会場。華やかな装飾と甘い香りが漂う中、私はまたしても断罪劇の主役に据えられていた。目の前では、王太子が優雅に微笑みながら、私に婚約破棄を突きつけている。その隣には、栗色の髪をふわりと揺らした少女――リリア・エヴァンスが涙ぐんでいた。
「平民なんて無理」と捨てたくせに、私が国の英雄になった途端、態度変わりすぎじゃない?
ほーみ
恋愛
「婚約は破棄させてもらうよ、アリア」
冷ややかな声が玉座の間に響く。
騎士として従軍していた私は、戦地から帰還してすぐにこの場に呼び出された。泥に汚れた鎧を着たまま、目の前には王族や貴族たちがずらりと並び、中央に立つのは私の婚約者だった第二王子・レオナルド。
彼の瞳には、かつての優しさのかけらもない。
「君のような平民出身者とは、これ以上関わるべきではないと判断した」
周囲の貴族たちがくすくすと笑い声を漏らす。
せっかく家の借金を返したのに、妹に婚約者を奪われて追放されました。でも、気にしなくていいみたいです。私には頼れる公爵様がいらっしゃいますから
甘海そら
恋愛
ヤルス伯爵家の長女、セリアには商才があった。
であれば、ヤルス家の借金を見事に返済し、いよいよ婚礼を間近にする。
だが、
「セリア。君には悪いと思っているが、私は運命の人を見つけたのだよ」
婚約者であるはずのクワイフからそう告げられる。
そのクワイフの隣には、妹であるヨカが目を細めて笑っていた。
気がつけば、セリアは全てを失っていた。
今までの功績は何故か妹のものになり、婚約者もまた妹のものとなった。
さらには、あらぬ悪名を着せられ、屋敷から追放される憂き目にも会う。
失意のどん底に陥ることになる。
ただ、そんな時だった。
セリアの目の前に、かつての親友が現れた。
大国シュリナの雄。
ユーガルド公爵家が当主、ケネス・トルゴー。
彼が仏頂面で手を差し伸べてくれば、彼女の運命は大きく変化していく。
『お前とは結婚できない』と婚約破棄されたので、隣国の王に嫁ぎます
ほーみ
恋愛
春の宮廷は、いつもより少しだけざわめいていた。
けれどその理由が、わたし——エリシア・リンドールの婚約破棄であることを、わたし自身が一番よく理解していた。
「エリシア、君とは結婚できない」
王太子ユリウス殿下のその一言は、まるで氷の刃のように冷たかった。
——ああ、この人は本当に言ってしまったのね。
婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?
ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」
華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。
目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。
──あら、デジャヴ?
「……なるほど」
婚約破棄?はい、どうぞお好きに!悪役令嬢は忙しいんです
ほーみ
恋愛
王国アスティリア最大の劇場──もとい、王立学園の大講堂にて。
本日上演されるのは、わたくしリリアーナ・ヴァレンティアを断罪する、王太子殿下主催の茶番劇である。
壇上には、舞台の主役を気取った王太子アレクシス。その隣には、純白のドレスをひらつかせた侯爵令嬢エリーナ。
そして観客席には、好奇心で目を輝かせる学生たち。ざわめき、ひそひそ声、侮蔑の視線。
ふふ……完璧な舞台準備ね。
「リリアーナ・ヴァレンティア! そなたの悪行はすでに暴かれた!」
王太子の声が響く。
『君とは釣り合わない』って言ったのはそっちでしょ?今さら嫉妬しないで
ほーみ
恋愛
「……リリアン。君は、もう俺とは釣り合わないんだ」
その言葉を聞いたのは、三か月前の夜会だった。
煌びやかなシャンデリアの下、甘い香水と皮肉まじりの笑い声が混ざりあう中で、私はただ立ち尽くしていた。
目の前にいるのは、かつて婚約者だった青年――侯爵家の跡取り、アルフレッド・グレイス。
冷たく、完璧な微笑み。
でも、私を見下ろす瞳の奥には、うっすらと迷いが見えていたのを私は見逃さなかった。
「……そう。じゃあ、終わりね」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる