とある貴族の家に仕えるメイドですが、奥様の虐めが酷すぎるので、弱みを握って復讐しようと思います。

冬吹せいら

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リゼッタへの虐め

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夜、他のメイドたちが、共同で暮らしている部屋に向かった。

リゼッタを慰めるためだ。

ジェンス様の計らいで、私たちメイドは、メイドだけで暮らす家に住まわせていただいている。

メイドリーダーである私は、個室を頂いていた。ありがたい話だ。

「モカーナさん。こんばんは」
「こんばんは、エリン。リゼッタを呼んでくれる? 少し話したいことがあるの」
「リゼッタは、今晩、ジェンス様の屋敷で、泊まり込みと聞いてますけど……」
「え? いや……。泊まり込みは、別の子だったはずだけど……」
「あれあれ? モカーナさんに、入れ替わるように言われたって、リゼッタは言ってましたけど」

……おかしい。

メイドたちのスケジュールは、全て私が管理している。

リゼッタは、夜はオフにしておいたはずだ。

嫌な予感がした。

「そうだったわね。私が少し、勘違いをしていたみたい。ありがとう」
「あっ、モカーナさん」
「ん?」
「……リゼッタ、ここを出る前に、酷く思いつめたような表情をしていて。とても心配です。何かあったのでしょうか?」
「……エリン。大丈夫よ。あとは私に任せなさい」

エリンの頭を撫でて、私はアーバルド家の屋敷に戻った。

間違いない。リゼッタは、キシリア様の部屋にいるだろう。

☆ ☆ ☆

キシリア様の部屋のドアをノックした。

しかし、反応が無い。

もう一度ノックをすると、ドアを半開きにした状態で、キシリア様が顔を出した。

部屋の中の様子を、見せまいとするように。

「なに? こんな夜中に。非常識よ」
「キシリア様。こちらの手違いで、泊まり込みで働くメイドを間違えておりました」
「……何の話かしら」
「リゼッタが、そこにいるでしょう?」
「いないわよ。向こうに行って」

部屋の中から、小さな呻き声が聞こえた。

私は無理やりドアを開け、中に侵入する。

すると、部屋の中央で……。リゼッタが、うつぶせになって倒れていた。

「リゼッタ!!!!」

後ろで、キシリア様が舌打ちした。

それに構わず、リゼッタに駆け寄る。

「リゼッタ。大丈夫?」

リゼッタの顔は、酷くはれ上がっていた。

「も、もか……な……さん……」
「無理に喋らなくていいわ」
「よかっ……た……」

リゼッタは、安心したように、目を閉じた。

……気を失うほどに、顔面を殴打されたということか。

「あ~あ。バレちゃった」

キシリア様が、ため息をついた。

「……どういうことです。どうして、リゼッタが、こんな目に遭わなければいけないのですか」
「リゼッタをクビにしてって、ジェンス様に頼んだのよ。そしたらなんて言ったと思う? 彼女の笑顔は、見ているだけで癒されるから、クビにするのはもったいないって……。私という妻がいるのによ!?」

みっともないほど、声を荒げられて、うんざりした。

「だから、リゼッタの顔を殴ったのですか?」
「えぇ。それだけ顔が腫れてしまえば、可愛い笑顔なんて、できないでしょう?」

……信じられない。

どうしてそんなに、残酷なことができるのだろう。

リゼッタの代わりに、復讐してやりたいと思った。

「わかってるわよね? もし、このことを誰かに話したら……。私は、あなたが殴ったと証言するわ。そしたら、いくらアーバルド家に代々仕えてきた家の娘だとしても、あなたはクビ決定! あははっ! そんなの嫌よねぇ? ねぇ?」
「……失礼します」
「良い子よ。次に雇うメイドは……。人形みたいな子にしてね? 私の言うこと、なんでも聞いてくれる、都合の良い子!」

リゼッタを抱き上げて、私は早足で部屋を出た。

……だから、あんな女と結婚するのは、反対だって言ったんだ。

ジェンス様は、笑うだけで、全く聞き入れてくれなかった。

私は見抜いていた。あの女の演技に、ジェンス様は騙され、結婚してしまったが、その片鱗は、元々見せていたのだ。

「……ジェンス様と、もう一度、話そう」

きっと、今回の件を伝えれば、わかってくれるはずだ……。
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