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馬鹿王子と対話する公爵令嬢
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「やぁ。よく来たね」
長髪をたなびかせ、リンダに気取った表情を見せつけたのは、ギルダス・アイバーン王子である。
「いきなり訪問して申し訳ございません」
「構わないさ。それで、何の用事だい? まさか、僕に惚れたとか?」
「いえ、それは――」
「言わなくていい。大丈夫」
ギルダスはリンダの発言を手で制した。
「わかってるよ。僕は罪作りな男さ。こんなにも恵まれた容姿。そして美しい声……。世界中から嫉妬の視線を浴びてしまう、可哀そうな王子……」
「シェリーの件ですが」
ガタっ。
と、ギルダスがバランスを崩した。
「ふ、ふふ。シェリーがどうかしたのかい?」
「浮気したそうですね」
「あぁ……。あの子は転んで、頭を少しおかしくしてしまったみたいなんだ。自分の浮気が原因で婚約破棄されたのに、僕が浮気しただなんて言いがかりをつけてくる! 怖いなぁ。本当に怖い!」
「ありえません。シェリーは聡明な女性です。話していて、知性が失われているようには見えませんでした」
「女は演技する生き物だからね!」
これ以上会話していると、手が出てしまいそうなほどのウザさだった。
なので、本題に入ることにする。
「これをご覧ください」
リンダが取り出したのは、綺麗な水晶だ。
「おぉ! くれるのかい? やっぱり君は僕のこと――」
「少し静かにしてもらえますか?」
「あっ……ははっ」
ギルダスの笑顔が引きつっている。
「ごめんごめん。君は男には興味が無いもんね」
「……はぁ?」
「公爵家の令嬢なのに、未だに婚約者がいないんだから! みんなそう言ってるよ!」
「そうですか。それは面白い話です」
婚約者がいないのは、まだ公爵家の令嬢として、学ぶべきことがあるから、そちらを優先しているだけの話だ。
強い苛立ちを覚えながらも、リンダは心を鎮めようと深く呼吸した。
そして……。水晶に魔力を送り込み、映像を映し出す。
「ご覧ください。これが誰だかわかりますか?」
「……えっ」
ギルダスの顔が青ざめた。
とある娼婦と自分が、小さな家へと入っていく映像が映し出されていたのだ。
「さすがにこれは擁護できません」
「どうするつもりだい?」
ギルダスの目から、光が消えている。
じりじりと、リンダに詰め寄った。
「どうもこうもありません。今すぐ伯爵家に謝罪し、何らかの詫びを――」
「なぁリンダ」
「……なんですか?」
「僕の父上……。カイサル・アイバーンは、知っての通り君の父上の兄だ。身内同士で潰し合うことに意味があるとは思えないよ」
甘い声を出すギルダスだが、リンダにとってそれは不協和音でしかなかった。
「悪事を見逃すわけにはいきません。今に始まった話ではないのです」
「ふん。たかが伯爵令嬢との婚約破棄で、王族の名に傷がつくことなんてないさ。良いよ! 好きにしたらいい! 勝手に街に噂をバラまいてくれ!」
ふてくされたように言って、ギルダスはその場を去ろうとした。
「お待ちください」
呼び止められて、イライラしながら振り返る。
「まだ何かあるのかい?」
「伯爵家に対しては、それでも許されるかもしれません。ですが……。南の隣国の公爵令嬢は、どうでしょうかね」
「……は?」
南の隣国の令嬢……。
それは、ギルダスの弟、ラべリス・アイバーンの婚約者だ。
長髪をたなびかせ、リンダに気取った表情を見せつけたのは、ギルダス・アイバーン王子である。
「いきなり訪問して申し訳ございません」
「構わないさ。それで、何の用事だい? まさか、僕に惚れたとか?」
「いえ、それは――」
「言わなくていい。大丈夫」
ギルダスはリンダの発言を手で制した。
「わかってるよ。僕は罪作りな男さ。こんなにも恵まれた容姿。そして美しい声……。世界中から嫉妬の視線を浴びてしまう、可哀そうな王子……」
「シェリーの件ですが」
ガタっ。
と、ギルダスがバランスを崩した。
「ふ、ふふ。シェリーがどうかしたのかい?」
「浮気したそうですね」
「あぁ……。あの子は転んで、頭を少しおかしくしてしまったみたいなんだ。自分の浮気が原因で婚約破棄されたのに、僕が浮気しただなんて言いがかりをつけてくる! 怖いなぁ。本当に怖い!」
「ありえません。シェリーは聡明な女性です。話していて、知性が失われているようには見えませんでした」
「女は演技する生き物だからね!」
これ以上会話していると、手が出てしまいそうなほどのウザさだった。
なので、本題に入ることにする。
「これをご覧ください」
リンダが取り出したのは、綺麗な水晶だ。
「おぉ! くれるのかい? やっぱり君は僕のこと――」
「少し静かにしてもらえますか?」
「あっ……ははっ」
ギルダスの笑顔が引きつっている。
「ごめんごめん。君は男には興味が無いもんね」
「……はぁ?」
「公爵家の令嬢なのに、未だに婚約者がいないんだから! みんなそう言ってるよ!」
「そうですか。それは面白い話です」
婚約者がいないのは、まだ公爵家の令嬢として、学ぶべきことがあるから、そちらを優先しているだけの話だ。
強い苛立ちを覚えながらも、リンダは心を鎮めようと深く呼吸した。
そして……。水晶に魔力を送り込み、映像を映し出す。
「ご覧ください。これが誰だかわかりますか?」
「……えっ」
ギルダスの顔が青ざめた。
とある娼婦と自分が、小さな家へと入っていく映像が映し出されていたのだ。
「さすがにこれは擁護できません」
「どうするつもりだい?」
ギルダスの目から、光が消えている。
じりじりと、リンダに詰め寄った。
「どうもこうもありません。今すぐ伯爵家に謝罪し、何らかの詫びを――」
「なぁリンダ」
「……なんですか?」
「僕の父上……。カイサル・アイバーンは、知っての通り君の父上の兄だ。身内同士で潰し合うことに意味があるとは思えないよ」
甘い声を出すギルダスだが、リンダにとってそれは不協和音でしかなかった。
「悪事を見逃すわけにはいきません。今に始まった話ではないのです」
「ふん。たかが伯爵令嬢との婚約破棄で、王族の名に傷がつくことなんてないさ。良いよ! 好きにしたらいい! 勝手に街に噂をバラまいてくれ!」
ふてくされたように言って、ギルダスはその場を去ろうとした。
「お待ちください」
呼び止められて、イライラしながら振り返る。
「まだ何かあるのかい?」
「伯爵家に対しては、それでも許されるかもしれません。ですが……。南の隣国の公爵令嬢は、どうでしょうかね」
「……は?」
南の隣国の令嬢……。
それは、ギルダスの弟、ラべリス・アイバーンの婚約者だ。
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