王子が浮気したので、公爵家の出番ですね。

冬吹せいら

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公爵家の勝利

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「磔にされるのは、いつぶりかのう」
「ふふっ。ご冗談を。一度も無いでしょう?」
「どうじゃったか……。もう忘れてしまったわい」

 国民が集まる広場にて、リンダとジャレンは磔にされていた。
 しかし、どちらも笑みを浮かべている。

 あえて、捕まったフリをしたのだ。

「がっはっは! 惨めだ!」

 カイサルが大声で笑い、二人に指を差した。

「では裁判官。予定通りに頼むぞ」

 市民に声が聞こえることも構わず、カイサルは裁判官に耳打ちをした。
 裁判官と言っても、形式的なもの。
 国王の意に背くものは、容赦なく殺される。

 魔導騎士が二人、磔にされた二人の前に立った。
 裁判も何もあったものではない。
 裁判官が合図をすれば、火が放たれるのだ。

 市民からは、戸惑いの声があがる。
 大魔導士がこんなところにいることも、また、公爵令嬢が大人しく捕まっていることに対しても、疑問だらけの状況だった。

 そう、国民はとっくに、リンダの真の実力に気が付いている。
 アイバーン家に代わり、公爵家に国を任せたい。
 そんな考えさえ持っていた。

 しかしそれに気が付かない哀れな国王は……。尋ねてしまう。

「裁判官よ! 有罪なのは誰だ!」
「……」

 魔導騎士が、国王の方を向いた。

「あなたです! カイサル・アイバーン!」

 そう叫んだ瞬間、二人が拘束を解いて、その場にゆっくりと降り立った。

「なっ、なっ……」

 口をあわあわとさせて、困惑するカイサル。

「貴様ぁ! 冗談ではすまんぞ!」
 
 裁判官を叩こうとしたカイサルの手を、魔導騎士が止めた。

「もうお辞めください」
「貴様も死刑だ! 死刑!」
「市民の声をおききください」

 インチキ国王。
 あのクソ王子を殺せ。
 アイバーン家は沈め。

 罵詈雑言が飛び交っている。

「父上! 早く!」

 ギルダスに手を掴まれ、カイサルは馬車に慌てて飛び乗り、その場を後にした。

 勝利の瞬間だ。
 全て公爵家の仕組んだこと……。

「ありがとうございました。ジャレン様」
「……思ったのじゃが」
「はい?」

 市民から歓声が上がる中、ジャレンは見たこともないような切ない表情を浮かべていた。

「死ぬときは、一人でない方が良い」
「ジャレン様……」
「ワシでさえ、そう思うのじゃ。……お主には時間がたくさんある。自ら国をまとめようなどと思わぬことだな」

 それだけ言い残して、ジャレンは去ってしまった。
 
「……わかっております。そんなこと」

 先ほどまでジャレンがいたはずの場所の空気を掴み、ぎゅうっと握りしめた後、胸元に手を持って行った。
 そして、空を見る。

「私の勝ちです」

 今、この国の王が代わろうとしていた。
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