王子が浮気したので、公爵家の出番ですね。

馬鹿王子に制裁を……。

「な、なにを――」
「ですから、もうおしまいというわけです」
「嫌だっ……嫌だぁ！」
「おい！　ギルダス！」

　ギルダスは必死で走った。
　今すぐリンダの元に行き……。謝るためだ。

「あら。ギルダス様」

　ちょうど門のところで、リンダと出くわした。

「どうなさったのですか？　そんなに息を切らして……」
「……リンダ。僕が悪かった。許してくれ！」
「え？　何の話ですか？」

　とぼけたように、リンダは首を傾げる。
　ギルダスは腕をガクガクと震わせながら、リンダの手を握った。

「リ、リリリ、リンダ。僕から何も奪わないでくれ。こんなのあんまりじゃないか！　僕たちアイバーン家とベネロップ家は親族で、家族で――」
「アイバーン家が、そんなことを思った場面は一度も無いように、私たちも、あなたたちバカ二人を家族とみなしませんよ」
「嫌だぁ！　王子は僕だぞぉ！」
「違いますよ。私の弟です。近々帰国します」
「あんなちんちくりんに、何ができるって言うんだ！　王子は大変なんだぞ！」
「そうですね。ですが――。あなたよりはマシですよ」

　リンダはギルダスの頬を、思いっきり引っ叩いた。
　ギルダスが茫然としながら、その場に倒れ込んでいると……。

「……ギルダス様」
　
　馬車から、一人の女性が降りてきた。
　地面に横たわるギルダスを、その綺麗な瞳で睨みつけている。

「シェリー……」

　それがシェリーであると気が付いた瞬間、ギルダスは再び立ち上がり、シェリーに頭を下げた。

「すまなかった！　全部僕が悪い！　もう二度と女遊びなんてしない！　一生君を大切にする！　だから助けてくれぇ！！！」
「……もう、婚約は無かったことになっていますから。あなた自身の手によって」
「そんなぁ！　嫌だよぉお！」
「シェリーに触るな！」
「へぶっ！」

　リンダが、ギルダスの鼻に拳をぶつけた。
　鼻血をダラダラと垂らしながら、ギルダスは赤子のように泣きじゃくっている。

「過ちを認めないものが、どんな結末を辿るか――。これはどの国でも同じことです。次に余生を過ごす場所では、ルールを守れる良い子になってくれることを祈っていますよ」

　ギルダスは馬車に放り込まれた。
　
「……ごめんねシェリー。辛い思いをさせたわ」
「いえ……。スッキリしましたから」
「騒動が落ち着いたら、紅茶を一緒に飲みましょう？」
「はい。……リンダ様。無理をなさらず」
「えぇ。もちろんよ」

　大魔導士様にも、注意されたもの。

　という言葉は、あえて続けることはしなかった。