上 下
2 / 17

長女 フレイア

しおりを挟む
部屋に戻り、すぐに片づけを始めたが、やはり急だったこともあってか、なかなか進んでいかない。

一旦休憩が必要だと思い、私は庭を訪れた。
花の香りが、荒んだ心を癒してくれる……。

ここへ来たばかりの時、この庭は、完全に放置されていた。
長年勤めていた侍女が辞めた後は、誰も庭の手入れをすることなく、やがて花は枯れ、土だけが残ってしまったのだとか。

そこに私が、コツコツと花を植え、育てていた。
……私がここを出た後には、全て枯れてしまうのだろうな。

「あらぁ? 哀れな女の姿が見えるわねぇ」

……最悪な声が、後ろから聞こえた。
私は振り返らずに、答える。

「こんにちはフレイア。随分機嫌が良さそうね」
「……フレイア様、でしょう?もう私は、あなたとはどんな関係でもないのだから」
「失礼しました。フレイア様」

私が十六歳、フレイアが十四歳。
婚約者の妹であれば、フランクな物言いが許される関係性ではあった。
しかし、今の私は、ただの男爵令嬢に逆戻りしている。フレイアの言い分は正しいが、あまりに話が早すぎるだろうとも思う。

「あぁ臭い。やっとこの花を抜くことができるのね」
「……抜く?」
「そうよ。毎日毎日嫌だったの。ここを通るたびに、フワッと青臭い匂いがするのよね……。ここは王宮なのに、全く品が無いわ」

その匂いこそが、花の良い部分なのに……。どうしてわからないんだ。

これで聖女を名乗っているのだから、聞いて呆れる。
その聖女の肩書も、私のスキルのおかげで付与されただけ。もちろんフレイアは、そんなこと知らない。

……こんな性格じゃ、剥奪されるのも、時間の問題だと思う。

「そうだわ。明日、レオノンが帰ってくるから、魔法の造花に替えてもらえばいいのよ! 我ながら名案だと思うわ!」
「……」
「その不満そうな顔はなに?」
「……別に」
「生意気な態度ね!」

フレイアが、いきなり頬をひっぱたいてきた。

「……今までは、この花だって、悪趣味な置物だって、口うるさい性格だって、全部お兄様の婚約者だから、我慢してきたのよ。ただのちっぽけな家の娘に、生意気されちゃあ、私だって、プライドが許さないわ」
「……申し訳ございません」

トラブルになるのは面倒だ。ここは大人しく謝っておこう。
……それにしても、人を叩く聖女なんて、私は聞いたことがない。

「では、私は戻りますので」
「えぇえぇ戻りなさい。あなたの顔なんて、二度と見たくないわ。この王宮にいることすら汚らわしいもの。早く明日にならないかしらね!」

私も同感だ。初めて彼女と意見があったかもしれない。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

妹と再婚約?殿下ありがとうございます!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:3,789

私が悪役令嬢ですか?まあ、面白いこと。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:94

婚約者を忘れてしまったのですが、婚約破棄をされています。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:163pt お気に入り:494

『恋愛短編集①』離縁を乗り越え、私は幸せになります──。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:3,054pt お気に入り:307

処理中です...