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愚かな伯爵家

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 自分たちのボスが酷い目に遭っている間に、取り巻きの男たちは、必死で逃げ出していた。
 向かった先はクレセンド家である。

「……魔法使い?」
「そそそ、そうなんですぅ! あいつはやべぇですよぉ!」
「ちっ……。あの女、本当に馬鹿なのね」

 マーシャは目の前で跪いている男の頬を叩いた。

「それで、スタスタと逃げて来たっていうの? なっさけないわねぇ~。あんたたちそれでも男なの?」
「ひ、ひぃい! すいません! でも、あの女は強すぎる!」
「たかが魔法使いでしょ? 物を温めたり、冷やしたり、テーブルの上から落ちそうになったチェスの駒を、手を遣わずに拾いあげたり……。その程度しかできないはずじゃない」
「そんなことねぇですよ! ボスを……。首まで埋めたんです!」
「もういい。わかったわ。この役立たず!」

 男たちをそれぞれ蹴飛ばし、マーシャは部屋を出た。
 そして、クレセンド家の当主である父、ファーマーの部屋へ向かう。

「どうしたマーシャ。随分と機嫌が悪そうだ」
「そうよお父様。村人を捕まえに行った男共が、ハナンに襲われたの」
「……ふふっ。自分に魅力が無かったせいで、婚約破棄をされた弟のために、復讐をしようというわけか」
「どうやらそうみたい。レイダーの奴、きっと涙を流しながら、ハナンに頼み込んだのよ」
「哀れだ……。それに比べ、次の婚約者であるランバーは、強い男だから安心してお前を任せられる」
「そうね……。明日が楽しみだわ」

 ランバーは、隣国のアギーラ侯爵家の令息だ。
 先日、隣国に出かけたマーシャが、アギーラ家の令息、ランバー・アギーラに一目惚れをし、積極的に迫ることで結んだ婚約である。
 ランバーにも、マーシャと同じように、自分の家よりも爵位の低い婚約者がいたが……。当然のように破棄をした。

 爵位の高い家が、低い家との婚約を、まるで保険のように結んでおくことは、どの国でも当たり前のように行われていたのである。
 
「ねぇお父様。あの生意気な子爵家……。どうしてやりましょう」
「そうだな……。警告のために、奴らの領土を燃やしてやろうか。あるいは領民を無差別に殺して回るだとか」
「それはいいわね! 早速手配してちょうだい!」
「任せなさい」
「あっ、でもよわっちぃのはダメよ? さっきの男たちみたいなのはうんざりだわ」
「もちろん。腕利きの暗殺者をたくさん用意するさ」
「ありがとう! お父様、大好き!」

 マーシャが、ファーマーの頬に口づけをした。
 お返しとばかりに、ファーマーもマーシャの頬に口づけをする。
 
 しかし、二人は知らなかった。
 
 すでに……。ハナンがその行動を見越して、先手を打っているということを。
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