婚約者の罠で親殺しにされてしまった悪役令嬢。国外追放は受け入れますが、あなたは殺します。

冬吹せいら

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国外追放

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目の前で父と母が、口から泡を吹いて倒れるシーンが、何度も何度も脳裏で再生され続ける。

それをかき消すため、私は歌を歌うようになった。どんな歌でも良い。時には歌でなくてもいい。ふんふんと、ただリズムを取りながら、口角を上げるだけでも、気持ちは安らぐものだった。

「おい。黙れというのが聞こえないのか」
「ら~ららら~……」
「おい!!!!」

私の婚約者であるはずの、エスメリアが、その大きな手で、私の顎を思いっきり掴んだ。痛みで涙が出る。それでも、声を出すことはやめなかった。

「ん~っ。ん~」
「……本当に不気味だな。顔を合わせるだけでも吐き気がするよ。だが、そんな日々も今日で終わりだ!」
「んぐっ!」

顎を掴まれたまま、私は投げられた。相変わらずすごい腕力。彼のその腕の逞しさに惚れこんだのは……。ほんのちょっぴり、前の話。

「エイル・プラロッサ。国外追放と婚約破棄の承認を」
「ふ~……、ぬ~」
「承認を!」
「ぐっ!」

お腹を殴られた。王子ともあろうものが、女性のお腹を殴ってはいけないなんて常識すら、学んでこなかったのだろうか。

「……承認、します」
「よく言った。まともに言葉を話せないのであれば、拷問も視野にあったからな」

拷問……。それが、婚約者に対する仕打ち?

……あぁそうか。もうこれで、婚約者じゃないんだっけ。

「悲しみが……。零れていくその最中には~……」
「……歌いながらでいい。君の罪をこれから読み上げる。それでいよいよお別れだ。耳だけは正常に動かしてくれ。いいな?」
「愛になる……。鳥の悪魔のささやきを……」
「君は結婚式の後のパーティで、自ら両親の飲むワインに毒を仕込み、殺害した。その後罪を否定し、暴れまわり、貴族や兵士を負傷させ、死人すら出した」

彼は嘘を言っている。

我がプラロッサ家と、彼のセバーリ家は、多少の身分差があった。

おそらく、私の両親を殺してしまえば、プラロッサ家の資産が全て自分たちのものになるのだろうと、そうセバーリ家は考えたのだ。

……どうして私が、父と母を殺さなければいけない?

あんなに愛し合っていた。ワインを飲む直前まで、明日の話をしていた。

「心さえあるのなら……。木々を歌にするように~~。貝の木馬を糧にして……」
「以上が君の罪だ。読み上げたぞ。出て行ってくれ」
「ふふ~ん」

立ち上がろうとしたが、激痛が走り、その場に倒れこんでしまった。さっき彼に投げられた時、床に腰をぶつけたせいだろうか。

「おい!早くこの女を摘まみ出せ!!」

兵士が強引に私を抱え、そのまま城の外へ。

汚い馬車に私を放り投げると、城へ戻って行った。

「あぁかわいそうに……」

老婆の声が聞こえる。

人を馬車で運ぶ老婆は……。奴隷商以外知らない。

私の人生は、どうやら終わったようだ。
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